黄金の貴族怪盗~トランシルヴァニアの怪事件~

Episode1 ジュリアン=フィリベール=ギュスターヴ

 ギュスターヴ、と聞いた連中は互いの顔を見合わせて少しすると、一斉に驚愕の声を上げる。

「ギュスターヴ!? ギュスターヴって、あの“吸血鬼伯爵”の!?」

「ってことはあんた、“ドラ息子”のジュリアンか!?」

 店主の脇の住民の男たちの問いかけに、男は力強く頷く。

「いかにも! 私がジュリアン=フィリベール=ギュスターヴよ! ま、ドラ息子は余計だがな。わははははっ!」

「へええーっ! 初めて見たよ! なんだよ、結構真面目そうに見えるけどなあ!」

「真面目そう? 何を言うか、私はいつだって清廉潔白だ!」

「ひええ……きゅ、吸血鬼の息子……!」

 失言とも取れる発言を聞くと、ジュリアンは泥棒の頭をぺしっと叩いた。

「あでっ!?」

「バカ者! 我が父上は吸血鬼ではない! 吸血鬼っぽい・・だけだ!」

「ぽいっ、って……」

「ともかく店主よ、この金でこの泥棒を許してやってはくれないか?」

「えっ? ……ま、まあ、代金さえ支払ってもらえれば、文句は無いよ。でも、もう二度とこんなことをしないように、あんたからもちゃんとこの男に注意してくれよ!」

「ウム、ご厚情痛み入る! ――ほら、貴様も店主たちにきちんと頭を下げぬか!」

「す、すいません……」

 ジュリアンの助けもあり、泥棒の男は今回に限り、罪を見逃してもらえることとなった。そして、ジュリアンは辺りに散らかったままの野菜を拾い纏めると男に渡す。

「すいません、貴族のだんな。こんな俺の為にわざわざ大金を……」

「よい。それよりも、先ほどの話の続きを聞かせてはくれないか? 確か、貴様の家にはご病気の母君がいらっしゃるとか」

「は、はい。お袋は、2週間に病気で倒れたんです。……街の医者に診せたくても、家はパンを満足に買う金も無いくらい貧乏で、そこへ追い打ちをかけるように俺自身もつい最近、不況の影響で失業して……働こうにも、他に母親の面倒を見てくれる兄弟も親戚もいないから、どうしようもなくって、それでつい、盗みなんて……。……、…………」

 事情を話すうちに感極まって啜り泣き始めた男を、ジュリアンは沈痛な面持ちで見つめる。そして、顎に手を添えて少し考え込むと、男に言葉をかける。

「ウム、事情はよくわかった。――ところで、貴様、名は何という?」

「え? ……ア、アラン、です……けど……」

「アラン、か。――で、貴様の住所は?」

「……ここをずっと先に行ったところの薄汚い下町です」

「そうか。……クラウスとイザークと同じ場所の……ふぅむ……」

 何やらブツブツ独り言を漏らすジュリアンに、アランは疑問符を浮かべながら首を傾げる。

「よし、アラン! 貴様、明日にでも我がギュスターヴ領に引っ越して来い。母君と共に!」

 ジュリアンの突拍子もない提案に、アランは一瞬キョトンとしたが、すぐに我に返ると驚嘆の声を上げた。

「い、いきなりそんなこと言われても……!」

「心配するな! 費用はすべてこの私が負担する! ――いや、むしろ、させてくれと言うべきか。病人の療養には、やはり環境の良い場所で過ごすのが一番だ。だからそうしろ!」

「ひ、引っ越したって、相変わらず医者にかかる金は無いし、第一、働き口が……」

「それなら心配するな! それも私がすべて出すし、貴様の新たな勤め先も斡旋してやる!」

「……、……」

 願ってもない話――普通の人なら大喜びで飛びつくところだろうが、アランは反対に啞然としていた。それもそのはず、ギュスターヴといえば、トランシルヴァニア公国有数の名門貴族だ。しかも、その名門貴族の跡取りが一介の平民の世話を買って出る――こんな奇妙な話があるだろうか?

「(い、いったい何なんだ……? この変な人は……?)」

「アラン! 貴様、何をマヌケ面さらしながらボケっとしている!? そうと決まれば早く引っ越しの準備をせぬか! “善は急げ”と言うであろう!」

「えっ……あっ――いや、あの、俺……まだ引っ越しを承諾したわけじゃ――」

「よいよい! 遠慮はするな! 私はな、困っている人間を放っては置けぬタチなのだ!」

「は、はあ……」

 変わらず困惑するアランをよそに、ジュリアンはおおらかに、そして高らかに笑うと、彼の背中をバン! と、勢いよく叩いた。――これがアルバ・ユリアでも有名な吸血鬼伯爵のドラ息子・ジュリアン=フィリベール=ギュスターヴ、という男の“性質”であった。


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