泣いていたあの日はもう来ない

IKU@ナマモノ注意/薬研推/白山難民
@Y0ayFxY5X1qwpfT

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一年に一回、必ず来るその日はいつも独りだった。

寒くて、寒くて、仕方がなくて。

その日が早く過ぎてくれるコトばかり祈っていた、昔。







「っていう訳でハッピーバースデー轟!」




日付が変わった時間体に非常識にも共有スペースへ呼び出した張本人はそんなことをのたまった、ものすごく眠かったはずの呼びだされた轟本人は目をぱちくりさせながら“誕生日”というものを思い出す。



「そういえばそうだったか」


「やっぱ忘れてたなこんにゃろう、そんなこったろうと思ったとも」



忘れていたことに対してなのか、不服げに名無ナナシは腕を組んで仁王立ちする。さて、怒られるようなことだったろうか、あまりピンとこない轟は首を傾いだ。



「あのねぇ、君の生まれた日だよ。生まれてから何回目かの誕生日だよ?ふつー忘れる?」


「わりぃ」



忘れたというよりは忘れていたかった、というのが轟の本音だがいかんせん名無ナナシが轟の事情を知る由もないので開きかけた口を噤んだ。

―――自分が生まれた日、母の腹からこの世に生を受けた日、それは母にとって後に後悔の種になっていたのかもしれない日。

今でこそ和解はしたものの、根底に焦げ付いた意識はなかなか引き剥がされることはない。それだけに溝も傷も深いのだ、どうしようもなく簡単に覆されることはない。顔に残る左側のそれに少し触れる、まだ、解き放たれはしない。



「まあ、いいけどね。忘れたならこうやって“おめでとう”ってお祝いして思い出させるし」


「お祝い…」



その発想こそなかった、誕生日はいつも一人で姉が買ってきてくれたケーキを食べるばかりだったから。誕生日はお祝いする日なんだということも轟は新鮮に感じた、それがどういうものなのか知らないからだ。



「なあ、誕生日に祝うって具体的に何すんだ」


「ん?んー、友達呼んでケーキを皆で食べたり、プレゼントしたり?」


「……その流れだとお前からなんか貰えるのか」


「そうでーす、っていっても私も昨日知ったから用意できなくてね。だから代わりに何か一つ轟のお願いを聞いて上げます!」



できる範囲でなんだけどね、と続けた名無ナナシはふんと鼻を鳴らして胸を張った。つまりはプレゼント代わりなんだろうが、“お前それ他のやつにやってねえよな”などと見当違いの心配(?)をしつつ、得意げにしている名無ナナシがあまりにも眩しく感じた。少し考えを巡らせて、轟の頭の中にふと浮かんだそれは恐らく名無ナナシなら簡単に叶えてしまえるだろう。問題は名無ナナシ自身なんだが、当の本人はにこにこと不思議そうに轟を見ている。



「…それなら、名無ナナシ


「うん?」



なあに、と子供にでも話しかけるように優しい声に応えず、轟は名無ナナシの手を引く。驚きに目を丸くする名無ナナシが前に詰んのめったところを受け止めるように、彼女の身体はすっぽりと轟の腕の中に収められた。それを逃さないと言わんばかりに抱き締める、シャンプーの匂いがする髪に頬を擦り寄せた。



「これがいい」


「……ナマモノなんですけど……」


「お前あったけえな」


「聞けよ天然、いやまあいいんだけどさ、うん」



ごにょごにょと口を動かす名無ナナシの耳が少し赤いのは見逃すことにして、轟は伝わる体温を味わう。幼い頃、ひとりで食べるケーキは美味しくなくて、部屋は寒かった。悲しくて、虚しくて、辛くて、やるせなくて。轟にとって誕生日は生まれたことを祝う日ではなく後悔する日だった、けれども。



「あ、明日…いやもう今日か。皆がね、バースデーパーティーしようって言ってたよ」



楽しもうね、轟。何も知らないはずの名無ナナシが笑って、轟の頬を両手で包む。じわりと目頭が熱くなるのを堪えながら頷いた、きっとこれからの誕生日は今までと違うものになるという予感がしてならない。

得がたいものの温もりを腕の中に感じて、それがどれだけ貴重か噛み締める。



「轟」


「ん?」


「生まれてきてくれてありがとう」


「…っ、」



きっと、あの頃のようにはならない。




轟ハピバでした。雑い(2回目)。

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