再び訪れる別れの日まで貴方と

七宵・8018&kmtz
@774hisame

「まだ、お食事をなさっていないと聞きましたよ、中佐」

 特徴のあるノック音に顔を上げると、少年が音も立てずに扉を開けるのが見えた。結城は、鷹揚にペン立てへ筆記具を戻しながら、唇を尖らせて執務室へ入ってくる少年の姿に、出かけた安堵の息を飲み込んだ。

「今、帰ったのか」

「ちょっと前に帰ってきました。そうしたら、中佐がまだ夕食を摂られていないって田崎から聞いて、それで、もおぉ! 決まった時間にご飯を食べなきゃダメっていってるのに、中佐ったら仕事馬鹿(うましか)なんだから! って、ぷんすかぷんになって迎えに来たんです。さあ、食堂へ行きますよ。僕もお腹がぺこんぺこんなので、一緒に食べましょう。あ、僕は別に仕事バカではないですよ。頭の悪い軍人相手に、小一時間……じゃないな、こんな時間まで付き合ってお話ししてたんです。はあ、ほんと、あの人達は、頭が南瓜でできてるんですかね? ほじくり返しても種はおろか、わたも出てきやしませんから、何の収穫もありませんし、できませんけど」

 少年が、ほらほらさあさあと手を二度叩き、机を挟んで結城の前に立つ。灰色の髪はぼさぼさで、相変わらず黒い瞳に艶はなかったが、少年の膨らかな唇には、年頃の少年らしい赤みが帯びているのを、結城はほぼ少年の目許で覆われた視界の端に映していた。

 そして、少年らしい毒舌を、微笑ましい思いで聞いていた。

「随分と、手間がかかったな」

「今、いったとおりです。彼奴らの頭は南瓜なんですよ。だから、懇切丁寧に説明しても、オゥ! ワタシ、アナタノコトバ、ワカラナイ! って顔をするんで、仕方ないから、母国語じゃなく英語で話したら、さらに頭を傾げて、それなら広東語で話してやろうと話したら、ますます頭を傾げるから、ええい、お前らまとめて丸かじりで地獄行きだ! って僕の怒りが炸裂して、いつもの展開になったんです。ああ、でも、橋上さんはちゃんとわかってくれましたから、ご安心を。あの御仁は、主要五カ国語は聞き分けてくださるので、本当に助かります。きっと、後で中佐にお菓子が届きますよ。うふふ……風月堂のカステラならいいなあ。僕の好物ですから、届いたら中佐と二人で二人占めしましょうね。あ、特別に、田崎にはわけてあげてもいいですよ。僕の留守中の番兵を、ちゃんとしてくれたご褒美です」

 にっこりと笑う少年の顔に、結城の頬が僅かに緩んだ。

 協會内では滅多に表情を崩すことはないが、少年と接している時だけは例外だった。例外になったというのが正しいのかもしれない。

 出会った頃は何者かわからず、ただ、敵ではないと久しく聞いていなかった言語で言いつのる少年と、見覚えのある軍服に母国の軍人であることを理解したが、偽装した敵兵の可能性も否定できず、足繁く通ってくる少年を信じるまでにかなりの時間を要した。潜伏していた場所を見つけた少年とその仲間の軍人達の嗅覚を、結城の諜報員として鍛え上げられた尋常ならざる全感覚が恐れたからに違いなかった。

 それまで誰一人、母国の人間が訪れたことはなかった。結城は軍内にあった派閥の一つに裏切られ、敵国へ売り飛ばされた憐れな軍人だった。手を回そうにも、遠い異国の地にあっては軍内部の抗争を止めることは不可能で、せめて敵国から逃れ身を隠し、生死不明の扱いとなることで敵対勢力を脅かす亡霊として語られ、見えざる呪いとして存在し続けることで、結城を使っていた人間の助けとなる以外に道はなかった。

 だが、迎えに来る人間がいるとは思えなかった。すでに死亡したことになっているはずの結城を、わざわざ捜すために人員を割くはずはない。一軍人、一諜報員のために、彼らが危ない橋を渡ることはないと結城は考えていた。故に、然るべき時期が来たら、自力で母国へ戻る計画を立てていた。

 しかし、少年は違った。結城が生きていると信じ、結城を捜すためだけに上層部へ働きかけ、この地へ赴いた。赴任期間中に必ず見つけ出し、母国へ連れ帰るとの一心で、結城ならば選ぶであろう道を、諜報員としての結城の思考を想像し構築してここへ辿り着いたのだと事も無げに話した。自分が結城と同じ立場になったのなら、きっと、こう考え、この様に行動するだろうと、少年は、結城が実際にやったことを口頭で述べた。

「もっとも、僕は貴方のように勇敢ではありませんから、痛い思いをしてまで逃げようとは考えません。この姿を最大限に利用した色仕掛けで、そうですね。最終的には師団のひとつくらいは味方につけて脱出を計ります。」と、愛らしい造作をした顔を少女のように綻ばせ、男の性を上手く利用してこそ、将は高座にあれるのですと嘯いた。それから、何でもないことのように少年は、「僕は貴方が守ろうとしているものを守る力を貴方に与えられます。どうですか? 僕と取引しませんか? 僕は貴方を守ります。どんなことをしても貴方を守りますから、貴方は貴方が守りたいものを守ってください。それが、僕の願い……いえ、幸せです。僕は、幸せになりたいんです。だから、貴方が必要です。僕と一緒に戻ってください。そして、貴方の夢を叶えてください。僕は、貴方の味方です。貴方を売り飛ばした奴等は皆、僕が始末しました。安心してください。貴方を裏切る人間は、どこにもいません。この先、出てきたとしても、すべて僕が片付けます。大丈夫です。貴方の信念に傷はつけません。貴方が光なら、僕は影となって貴方を守ります。だから、帰りましょう。こんなところにいても、戦争は止められません。どのみち、止められはしないのですから、せめて、貴方が守りたいものを守ろうとした、俺は最後まで努力し尽力し力戦したという思いで最後を迎えたらどうですか? こんな異国の地で朽ち果てるより、貴方を慕う人達に貴方の思想を種として植え付け芽生えさせ、ついでに実をつけさせて、次世代へと続く夢の苗床になる方がずっといいとは思いませんか? 異国を豊かにしなくて結構ですから、母国の未来を豊かにしてください。貴方が成したことは、決して無駄にはなりません。僕が保証します。貴方の夢は、必ず、数百年後には叶っていると。だから、帰りましょう。貴方がいるべき場所へ。誰も待っていないなんて、悲しいことはいわないでください。僕が、貴方を待っています。僕は、ずっと貴方を待っているんです。それはもう、僕の魂が生まれた瞬間から。」と笑った。

 結城が誰かに夢を語ったことはなかった。己が信じるものを信じ、国のために、もしくは自身のために、軍人として、人間として、実直に堅実に務めてきた。諜報員となることを決めた時、すべてが偽りになることを受け入れた。自身で自身を欺き、偽の自身を作り上げ、その後も作り続けた。そうやって意識の最下層にしまい込んだ真実が明かされることは、結城の死後であってもないはずだった。

 だが、しかし。

 結城の目の前にいる少年は、光を映さないその瞳は死んだ魚のようであるのに生き生きとして映り、結城が隠したものの何もかもを知っていると言わんばかりに笑みをたたえていた。

 悪魔かと、結城は感じた。

 自身が『魔術師』と呼ばれていたことを思い出し、ならば、この少年は『死神』だと思った。咄嗟に浮かんできた言葉だった。

 死神。生殺与奪を可能とする者。生者と死者を繋ぐ者。死しものの魂を導く者。

 少年の光を映さない瞳は冥府の闇でできていて、少年の灰色の髪の毛は蒼ざめた馬の鬣で、少年が腰に佩した二振りの刀は振り下ろす鎌が形を変えたもの。その切っ先を突き付け、結城を陥れた者達を燃えさかる煉獄へ落としたのかもしれない。普段の結城ならば、考えもしない妄想だった。だが、結城の元へ毎日訪れ、世間話から始まる会話の終わりには毎日同じことを口にする少年に、結城は恐怖とは違う感情を抱いた。神話や寓話、伝説や昔話、古今東西およそ世界が生まれ人類の誕生から綿々と語られてきた伝承口承の類、もしくは宗教だと、結城の知識と教養から導き出されたのは、そうした実在したかどうかを立証できない事象と同等のものであるという結論で、すなわち、結城の目の前に膝を折り、にこやかに結城の夢を口にする少年は、そこにいるのにいないものであり、そうした存在に逆らうことは’できない’という、知性を有する生命体だけが持つ説明のしようがない’畏れ’だった。

 結城が首を縦に振るまで少年は来るだろう。身の丈に合わない刀を抜かずとも、少年は言葉ひとつで結城に深手を負わせ、諾と言わせられる。少年が決めた期限が来たら、少年は有無を言わさず結城を跪かせるに違いない。

 少年は物腰こそ穏やかで、結城を敬うように接してはいるが、物言いは決してそうではなかった。威圧があり、侮蔑が含まれ、特定の対象に関わる話をする時は差別的な言葉を躊躇いもなく口にした。それは、少年自身が幼少からそのように教育され、事実、そうした出自であり、発言そのものが少年の思想を偽りなく現しているのだと思わせた。

 しかし、それよりも、少年の軍服に縫い止められた階級章が、少年の立場を如実に物語っていた。本来であれば、結城が安易に言葉を交わせる相手ではない。

 旅団副長を示す記章を最初に見た時、慇懃無礼の傲岸不遜と同期からも煙たがられた結城の背筋が僅かも伸びなかったといえば、嘘だった。少年と結城の格の違いは歴然で、それ故に、少年の申し出が結城には解しがたかった。命令の一言で済むことを、少年はお願いだといった。手間を惜しまず、時間も惜しまず、毎日毎日、日がな一日、結城に付き合い、どこへ行くにもついてきて、この辺で採れる作物はどうだとか、この辺の木々の生態はどうだとか、この辺の土地の成分はどうだとか、学者のように話していた。事実、少年の話はどれもが退屈であるのに、いずれもが学者でなければ知らないような専門知識で、さすがの結城も舌を巻いた。軍大学を出たからこそ高官になれたのだろうに、とてもそんな頭でっかちの妄信的な思想に凝り固まった模本的な軍人とは思えなかった。なにより、そうした奴等とは到底相容れない、同等になどなりようもない、自由意思と独創的な思想が少年を少年たらしめているのだと感じた。だから少年は、自身の立場を利用せず、一人の人間として話しかけてくるのだろう。

 どうか母国へ戻り、母国の「未来」を救ってくれと。

 結城の帰還が少年を幸福にする唯一の方法だと。

 そうして通ってくる少年が、一度だけ、来なかった日があった。翌日、結城の元を訪れた少年は詫びだけを口にしたが、少年と共に来る仲間が、少年は彼らを部下とは呼ばず仲間と呼んでいた、近隣の山村に出没する賊共の討伐に出ていたのだと説明した。少年は見た目からは想像もつかない俊敏さで説明した青年の腹を振り向きざまに殴りつけたが、彼らにとってそれは日常茶飯事のじゃれ合いみたいなものなのか、殴られた青年は右足を一歩分、後ろに引いただけで表情は一切変えず、眼鏡の位置を直していた。少年はというと、僕が勝手にやったことを’軍人’に話すなと、些か決まりが悪そうに叱った後は、けろっとして、僕の繊細な拳の方が折れそうだと、苦笑を浮かべる他の二人の青年にぼやいていた。

 その時に、結城の「心」は動いた。少年と共に在ることが、今の結城にとって最大の意義を持ち、そしてそれが、今の結城がしたいことであるのだと。人の子としての感情はとうに捨てたと思っていたが、どうやら勘違いだったと、結城は自覚した。もはや、諜報員として活動するのは不可能な結城の身は、少年がいう通り、後進を育成するために使うべきだろう。そして、結城の夢を叶えるためには、少年の力が必要で、少年ならば結城のどんな無謀で無遠慮な要望にも、全力で応えてくれるだろう。それは、少年自身が幸せになるために必要だからで、それこそ、結城が箴言とする「死ぬな、殺すな」を体現しつつも、不審に思われない形で真逆のことをしてのけるに違いない。結城の信念を汚す真似はしない。それは、『死神』だからこそできることだ。神の意思は、人の子の信念に勝り、人の子は神の意思を受け入れるしかない。結城の目の前にいる少年は、つまり、結城の前に顕現した神だ。鉄のように冷たく折れ曲がることのない結城の「心」ですら、真っ直ぐな視線で砕き、容赦なく躊躇なく慈悲と慈愛を巻き付けた言葉の切っ先で穿ち貫き砕く。

 少年が来なかった日に、結城が少年の身を案じたのは、そのせいだ。

 少年が来ないことを一瞬でも寂しいと感じたのは、穴があいたからだ。

 真っ暗な孤独に身を落とし、そのまま闇と同化して生きる覚悟であったのに、諦めかけた夢の実現を囁かれ、固く閉ざし目張りした部屋の扉をほんの僅か、開けてしまった。差し込む一条の光は暗闇に慣れた目には閃光弾のように眩しく、眼球の奥にある神経までをも焼いた。光を知ってしまった人の子は、再び、闇へは戻れない。背を向けたはずのものを振り返ったら、もう、逸らせない。手に入れたいと、結城は願った。もしも、まだ、この夢の続きを見られるのなら、否、夢を現実にできるのならば、今度こそ、『死神』に魂を売ってでも、叶えたいと願った。

 結城と名乗る男(じぶん)が、結城であるために紡いできた過去のすべてがそこに帰結し、結城は結城本人として生を全うできる。

 これが悪魔の甘言だと、結城は少年の手を取った。

 少女のように可憐で小さな手は結城の手を握った。

 契約は成立した。

 結城は少年という魔物を手に入れた。

 少年は結城という化物を手に入れた。

 化物は魔物に項垂れ、願いを口にした。

 魔物は化物に微笑み、忠誠を口にした。

 この先、二人は共に在り、決して離れることはない。

 この先、二人は「運命」を共有し、夢を現実とする。

 死が二人を分かつまで。

 生命が尽きる瞬間まで。

 結城と少年は同化する。

「貴方のためなら、僕はどんなことでもします。貴方が生きてくれるなら、僕は神にさえ弓をひきます。いいえ。もうすでに、僕は神を越えているのですが、神はたくさんいますから、全知全能なる神を一人殺したところで、他の神が邪魔をするんです。特に、運命の神という奴が厄介で。そいつを殺してしまえば、世界をどうにかするなんてことはとても容易いんですが、さすがの僕でも、そいつを探し出すのは無理でした。でもまあ、そのうち見つけます。十桁くらい挑戦したら、きっと、見つかります。僕はとっても諦めが悪くて、しかも、辛抱強くて、さらにいうなら、一途なんです。貴方のために、僕は、僕の持ちうるすべてを捧げ、貴方に尽くします。貴方を守り、貴方を支え、貴方の夢の糧となるものを集め、貴方の夢の障害となるものを排除し、貴方が望む’箱庭’を作ります。だから貴方は、望む貴方のままでいてください。どうか、貴方は貴方を曲げないでください。貴方が信じる道を進んでください。貴方の正しさを証明するのが、僕の存在理由です。」

 詩を詠じるように軽やかにそう述べた少年は、結城の左手を取ると、弾力の欠片も無いなめし革を張り付けただけの無機質な甲に、柔らかな唇を押し当てた。話さなくても、結城の左腕が偽物であることを少年は知っていたのだろう。

「帰国前に、これの数万倍はマシなものに交換しましょう。人前ではいかにも傷痍軍人ですっていわんばかりに振る舞ってもらって構いませんが、僕と二人きりの時は、小指の先まで自由に動かしてもらわないと、僕が困りますから。お小水に行ってる僕を呼びつけて、落ちた書類を拾ってくれっていわれるのだけは勘弁です。自然の摂理に逆らっていいことなんて一つもないのに、人類という種は、どうして、それを理解しないんでしょう。全く以て、嫌になります。いっそのこと、微生物以外の生命体は滅んでしまえばいいのに。彼らさえ生き残っていれば、最悪、人類もどきの有機体が数十万年後には生まれてきますから、世界なんてものは、目視で観測できる動植物が滅びても、意外と簡単に再生するのです。」と、学者ぶったからかい事を口にして、にっこりと笑った。

 それから、幾年が過ぎたのか。

 かの国で、結城は素性を隠し、少年の仲間として軍務にあたった。おおよそ五年の間、少年がどのような軍人であるのかをつぶさに観察しながら、瓦解しかけていた情報網を再生し、さらに拡大していった。結城がすることに、少年は応援こそすれ、止め咎めることはしなかった。耳と目が欲しいなら僕のを少しあげますと、少年から紹介された人間のいずれもが、少年がどのような人物かを知らなかったが、皆が皆、一様に「彼は信頼できる人間(ヒューマン)だ。彼以上に自分(わたし)を必要としてくれる存在はない。彼は自分で、自分は彼だ。彼の目は自分の目で、彼の耳は自分の耳だ。彼のためならどんなことをしてでも生き続け、自由とは生きることだと証明してみせる。彼に出会えたことを誇りに思う。人間は人間である意味があると教えてくれた彼を心の底から信じている。」と語った。少年の思想に感化されたと覚しき発言は、結城には、軍人の心得と同じく異様なものに聞こえたが、しかし、こんな時代であるからこそ、彼らに生への執着を、諦めるのでも踏みにじられるのでもなく、自身の意志で生きることを選択し、そのためにすべきことをするという、平時であれば考えもせずに呼吸をしているだけで済む当たり前のことを彼らに意識させ、こうして生かしているのだと、不遜な態度や言動を常とする少年が隠し持つ優しさを感じて、出会った頃に抱いた少年への印象は、日を追うごとに変わっていった。

 軍人としての少年は、高座にあるにも関わらず、席に座っていることがほとんどなかった。毎日どこかここかへ出掛けては、そこが例え何もない荒れ地であっても、刀にぶら下げた小さな時計らしきものを見て、今日はここでお茶にしようと、車に積んであるティーセットを取り出して、その場で火をおこして湯を沸かし、紅茶や緑茶や黒茶や黄茶など、その日の気分に合わせた茶を淹れた。茶菓子は金平糖と決まっていたが、適度な茶素と糖質の摂取は脳機能の活性化に必要で、極端ないい方をするならば、脳はブドウ糖さえあれば機能停止を起こさない大変有能な生体機関で、だから、体が動かなくとも脳さえ動いてればそれは死体ではないし、そこから引っ剥がした脳を、臨終間もない遺体に付け替えて動けと命じて指先でも動かせれば、それは死者蘇生になるのだと、とてつもなくいい加減で、とんでもなく倫理観に反した持論をぶちかましては、青年達の代わりにお茶の相手をさせられている結城を面食らわせた。何度か反論を試みたが、少年は、この時点における正解は僕もよく知っていますよと嬉しそうに笑っては、空になったカップを振って、給仕をする青年の誰かにお茶のおかわりを要求した。

 そんな優雅で奇妙な一時を過ごす日もあれば、管轄下にある駐屯地へ電撃訪問し、土産だと、どこから手に入れてくるのか、チョコレートやキャラメルといった甘いお菓子を一人一人に手渡して、兵卒達を驚かせた。そして、どこかで衝突が起こったと聞けば、つまりは、軍が出張るほどの争いになったのならば、率先して’仲裁役’を買って出た。自ら前線へ赴き、恐怖とも戦う兵を鼓舞し、愛らしいその形で高揚させた。少年が発する一言一言は、不思議なほどに疲弊しきった兵士だけではなく、近辺の町や村の人々をも活気づけ、生きる限り自由であり、自由とは生きることだと諭しては、君達の自由を奪っていい理由など老いて死ぬ以外にはない、それまで笑って生きろ、笑いこそが百薬の長だ、酒はその次だと、ここでも自説をぶちかましては、誰も彼もを笑顔にさせた。

 その一方で、戦場においては、付き従う三人の青年達がそれぞれに与えられた’小隊’を率いて敵兵を薙ぎ払うすぐ後ろを、少年は、さも当然であるかのように口角を緩やかに上げながら、血飛沫と弾丸と悲鳴と銃声が飛び交う中を悠然と歩いた。死を恐れぬ勇猛な武人を体現した姿は、結城の後ろに控えているその他の兵卒にとっては、まさに武神がごとくに映っただろう。全戦全勝、戦の女神に愛された少年は、敵兵を完膚無きまでに鏖殺した。帝国兵は根絶やしにしろ、というのが、少年の口癖だった。帝国は害悪である。帝国人は諸悪の根源である。その血の一滴までもを世界から蒸発させ、その細胞の欠片すら残さずかき消せ。皇国の兵(つわもの)がすべきは、ただ一つ。悪を発するもののすべてをこの「星」から抹殺することである。潰せ潰せ潰せ。存在そのものを否定し、この世界の記録をも塗り潰せ。帝国と名のつくもの名乗るものは悉く消し去り潰せ。地と海の奥、その果ての果て、灼熱を放つ星の中心、業炎の大蛇に投げ込み灰さえ残さず燃やし潰せ。憐憫は不要である。慈悲など不要である。救済などあろうはずもない。帝国は帝国であるだけで滅ぼさねばならぬ「星」に巣くった腫瘍である。取り除き潰せ。帝国の因子を残さず絶やせ。彼らはすべて悪を撒き散らすために存在し、その悪がこの世界を滅ぼすのである。我らが皇国の兵は、決して悪には屈さず、善の刃を眼前に構え、その悪を跳ね返し、切り裂くものである。皇国はこの世界の剣であり盾である。我らがやらずして誰が悪を滅ぼすというのか。我ら以外に純粋に、悪を処せるものはないのである。我らの命は祖国の魂緒。その命を賭してでも、この命と引き換えてでも、悪を誠情(せいじょう)なる業火で焼き尽くし、清浄なる世界を取り戻すのだ。

 敵兵が流す血の大海に立ち、少年が高らかに宣言する声は大空を突き刺し、厚く垂れ籠めた雲さえも切り裂いて、天と地に響き渡った。勝利に歓喜する兵達の顔を、結城は複雑な思いで眺めた。少年の微笑みは、その時ばかりは、ほくそ笑む悪魔のそれに見え、少年の言葉の真意を測りかねた。少年の愛国心は狂信ではないと思ったが、どこかが決定的に狂っていると結城は感じた。だが、その狂いが何であるのかまではわからなかった。帝国が悪であり、それを滅ぼすのが世界平和のために必要であるとの論には賛成だったが、少年が執拗に帝国兵を、それこそ少年がいうように、元が人間であったのか疑いたくなるほどばらばらに切り裂き、細胞の一欠片すら残すまじとずたずたに引き裂いた肉片を’すり潰す’様を見ていると、少年の掲げる善の刃は、帝国という巨悪を言い訳に、戦闘という残虐非道な行為そのものを肯定し、兵士達の意識を殺戮へと駆り立てているように思えた。

 結城がそれを問えば、少年は艶のない大きな目をきょろりとさせて、「諜報員(スパイ)は敵地で死んではならないものですが、兵士は戦場で死ねといわれているわけですから、その恐怖を乗り越えて生き延びてもらうためには、自分を狙う敵を先に潰さなければなりません。なので、情け容赦なく、銃口を向け剣を振り上げてくる相手を殺せと、大げさにいっているだけです。そうしないと、彼らの半分は、なまっちょろい訓練を受けただけの地元で徴用、もしくは志願してきた貧しい育ちの兵員ですから、いざって時には役不立で、酷いときは味方を間違って傷付けてしまったりもします。母国からはるばる来ている正規兵が’利用’不能になっては指揮官としては困ります。なので、少しばかり誇張して、可哀相な君達が戦う原因は全部帝国にあって、帝国がなくなったら、君達は戦わなくてよくなって、結果として死なずにすむと話しているんです。大変言葉は汚いですが、彼らのような手合には、あれくらいが伝わりやすいんです。なんたって、人間とは権威に弱いですし、男というのは勇敢だの命を賭すだの正義だのって言葉が大好きですから、ああいう例えが一番記憶に残って、危機に瀕したときに思い出しやすいんです。言葉一つで、母国の人間を助けられるなら、僕は貴方からどんな誹りを受けようと構いません。それが僕ができる彼らへの救済ですから。軍人である彼らに待っているのは、異国の地での死、だけです。その死への弔いに、君達は母国と世界平和のためによく戦ってくれた、君達の活躍のおかげで僕達は生き延びることができた、君達の死は無駄ではない、君達は僕が掲げた善をまっとうして死んだのだから、僕は君達を誇りに思い、決して君達という憐れなる時代の犠牲者を忘れないと、先に述べているんです。そうすれば、彼らは、少なくとも孤独の中で死ぬことはないでしょう? 僕は彼らの命は救えませんが、彼らの魂をヴァルハラへは導けます。ああ、母国では皇つ國(かみつこく)でしたね、失礼。僕の魂は永遠に行くことのない場所なので、うっかり忘れてしまいます。戦争で奪われるべきなのは、戦争反対と訴える人間では無く、そんな無辜なる人々を戦地へ送り、自分たちの平和のために戦って死ねと罵しり、石を投げる卑怯者共です。そうであるべきなのです。なので、そんな薄汚い人間共のせいで殺される彼らを、ほんの僅かな間ですが、戦いから遠ざけ、かりそめの平穏を与え、悪いこともあったけれどいいこともあったなと、こんな糞っ垂れな戦場にあっても一分の(いちぶ)の幸いを感じて欲しいと願い、あんなことを平気で言うんです。でもまあ、僕の帝国嫌いは筋金入りですから、歴史から抹消したいというのは本音ですし、だからこそ、率先して戦場に出向いて、奴等を塵虫のごとくに踏み潰すのですが。」と、白い手袋をはめた左手で唇を撫でながら、愉快そうにくすくすと笑った。

 その手袋が血色に変わるのを、結城が見ることはなかった。

 もちろん、少年が腰に佩した刀を抜くのを見ることもなかった。

 少年の軍服が汚れることも、目深に被る軍帽が傾くことも、誰と話していても緩やかに上げた口角が崩れることもなかった。

 軍人としてかくあるべしとの教育を受けた少年は、同じ軍人達の前では冷笑と冷厳をまとって振る舞い、決して打ち解けようとはしなかった。少年が結城の前で見せるような少年の姿になるのは、少年が憐れみを向ける前線の兵士達と寝食を共にする数日間と、戦いのために居住地を追われて避難した人々を慰問する時だけだった。白い手袋を外し、人々と触れあい、楽しそうに笑っている顔に、嘘偽りは見られなかった。その時だけは、少年は軍人ではなく、一人の人間として’生きて’いるのだと思った。どうしてか、そんな気がした。

 そうして少年はかつて敵国だった彼の国の窮状を救い、勢いを増していた帝国の侵攻を妨げ、欧州各国にかけられていた鋭い鉤爪のほとんどを叩き折った。欧州における帝国の野望の一端は、三人の青年達と、少年が率いる、少年が自ら選んだという精鋭兵の大隊によって崩された。どれほどの弾丸を受け、大砲に吹飛ばされても起き上がり、猛然と敵兵へ斬りかかっていく様は説明のしようがない異常さではあったが、彼らを指揮する少年が一歩、足を踏み出す度に、眼前の敵が視認できる範囲で水平になぎ倒され、微細も動かなくなるのと比べたら、武器を手にして戦っている分、兵士達の方が正常であるともいえた。

 まさに少年は『死神』で、その足下の草は枯れ、その姿を見ただけで生者は死に至り、少年が選んだ死者は生者となって甦るのだと、この時ばかりは、現実主義(リアリスト)の結城でさえ幻想をいだいた。

 最大の極秘任務であった’彼の国への恩義’を手中に収め、あらゆる会戦を大勝利で飾り、欧州各国への’貸し’を土産に、僕の仕事はあらかた終わったから帰る、後処理はよろしく、残りの任期期間は有給扱いにしておいてと、引き留める上官達を尻目にさっさと帰国手続きを済ませた少年と共に母国へ戻った結城は、驚愕する見知った者達を冷ややかに睥睨しながら、ようやく帰ってきたのだと、かつて、結城が上官として仕えた面々が温かく迎え、労りの言葉と無骨な握手を寄越してくるのに、感慨を覚えた。上層部が一新されたことは、細々と残った情報網から知り得ていたが、末端の一兵までもが変貌していたのは結城の予想を遙かに超えていた。

 軍は、統率する人間の質によって変化するものではあるが、国際社会との協調と世界平和への従軍を掲げるような腰抜け、僅かに残存する過去を生きる模範的な軍人の言葉を借りるのならば、に劇変したのは、ある意味では奇跡的な現象だった。現在の総長が就任してから、軍内部で何があったのか。考えるまでもないと、結城の前に立ち、総長と親しげに話す少年の背骨から伸び蠢く無数の翼に、結城は無駄でしかない思考を放棄した。天使や悪魔の類が持つ粒子の翼は、少年の感情を表しているのか、白にも黒にも見え、光を放っているかと思えば、不意にあたりを闇で覆った。神なるものは、気分一つでいかようにも’世界’を変えられるのだと、結城は自分の胸あたりにある少年の頭部を見つめ、二人の会話を、この国の未来とあるべき姿とそのための方法論を、聞いていた。

 その後すぐに軍への復帰を果たした結城は、総長直下の参謀第一室、総長を補佐する人材が軍の内外から集められ組織された’特務機関’だと説明を受けた、に属する少年を仲介に、諜報員養成所の設立構想を申し出た。情報戦を制するものが勝者となれることを結城は自身がそうした活動をするより前から心得ていたが、それを理解せず、良しとしない連中によって辛酸を舐めることになった。今更それを恨んでも詮無いことで、結城は後ろを向くよりも前を向き、これからの母国を支える人材を育成することを選んだ。母国のための苗床になれと、少年はいった。戦争は回避出来ないと、少年はいった。結城がどれほどに足掻こうと、少年が、『死神』がそう言うのならば、近い未来に戦争は起こるのだろう。一時的に生爪を剥いだところで、細胞が生きている限り再生する。国内情勢が劇的に変化でもしない限り、帝国は侵略をやめようとはしないだろう。急激に巨大化した国を支えるにはその基盤はあまりにも脆弱で、帝国の名に相応しい力は社会にも経済にも国民にもなかった。公国時代の王制がどうにか繋いでいるだけの外交も、いずれは覇権という愚かな夢を見る者達に断ち切られる。独裁という孤立を望む人間が頂点に立とうとする国を、いかなる慈悲をもって救えばよいのか。それを願う人間と願わない人間との溝を埋めるにはどうすればいいのか。世界の天秤が傾く前に止めなければならないと、’星’が囁く。その声を聞き拾うものだけが、昊天に張り巡らされた天網に触れられる。失った片方の手が掴んでいた光の糸をもう一度手繰りよせ、残った片方の手と結ばなければならない。それを、次の時代を担うものに、同じ志を持つものに渡すことが母国へ戻った自身がなすべきことであると、結城は、総長の横に立ち、静かな微笑みをたたえて話を聞いている少年の背後に伸びる’灰色’の光を見ながら、決意していた。

 この国を護ることが、結城にとってかけがえのないものを守ることになるのだと信じて。

「さあ、食堂へ行きますよ。杖は下まで僕が持ちますから、中佐は体一つで階段を降りてください。ん? ああ、そろそろ、この刀杖も替え時ですね。グリップが緩んできました。というか、何に使ってるんです? まさか、僕が知らないところで、どこかの’女給’と逢い引きしているなんてことはないでしょうね? そんなことのために使えなんていってませんよ。その手のことは僕がやりますから、いってください。あ、でも、本当に必要なら、夢中になるくらい良い娘(こ)を呼んできますけど、どうしますか?」

 執務机の横にある杖立から取り上げた杖を、少年がくるくると回す。少年が用意したのは細身の刀身を仕込んだ短刀型のもので、手首側にある仕掛けを指で押せば、鞘である軸の部分が割れ、刃が現れるようになっていた。そのまま下から振り上げれば、相手を威嚇するだけではなく、間合いによっては傷付けることも可能だった。

「何故、そのような発想になるのだ」

 器用に細い手首に握り手を絡ませて、少年が杖と遊ぶ。その口から出てきた言葉に面食らうのは良くあることだったが、今日ばかりは、聞き流すことができなかった。

 少年に悪気がないのはわかっていて、帰りが遅かった理由もわかっていて、それでもなお、少年に問いかけずにはいられなかった。

 少年の大きな目が、瞬きをする。そうして、首回りが余った襯衣の襟に耳たぶがつきそうなほど頭を傾げると、穴から漏れたかのように、ほげ? と変な声を出した。

「おかしなことをおっしゃいますね。だって、中佐は、頭も体もまだまだ現役なんですから、お忍びで遊びに行きたいときだってあるでしょう。僕っていう煩い見張りがついているから、どうやってもお忍びにはならないだけで。いってくだされば、いつでもどこでも器量よしの名器持ちをデリバリーしますから、遠慮なんてしないでください。中佐のお体を健やかに保つことも、僕の仕事です。行きたいところがあるのなら、中佐を送り届けるのだって、やぶさかではありません。でも、僕はそんなにべったりくっついてるつもりはないんですけどね。こうして、握り手の合わせが昨日よりほんの少し緩んでるってことに、たった今、気がついたわけですから。今朝触ったときは昨晩と同じで、出掛けて帰ってきたら緩んでいたとなったら、そりゃあ、僕が留守の間に中佐が何をしていたのか、気になるじゃないですか。鬼の居ぬ間に洗濯で、お外に出たのならそれはそれで結構ですけど、グリップが緩むような逢い引き相手というのは、少々、僕としてはお奨めできないってだけです。まあ、もしかしたら、僕の勘違いかもしれませんね。たまたま、僕がいない間に、がたが来たのかもしれませんし」

 そういうと、少年はまた唇を尖らせ、手品でもするように杖を縦に掲げると、軸を割らずに刀身を抜き出した。目で追えない素早い動きは、腰に佩したものがただの脅しではなく、また、飾りでもないことを語っていた。

「どこにも、出掛けてはいない」

「そうですか。それなら、いいんです」

 つぅと、刃を上下に眺め見る少年の瞳には、銀肌に反射する光も映ってはいかなかった。

 何をしようと咎めはしないのに、こんなことをいうのは、少年が結城の身を案じているからに他ならなかった。事実、結城は外出先で何度か襲撃を受けていて、少年がいなければ、笑い話では済まないような事態になっていたかもしれなかった。結城に敵対する勢力があるのは結城自身も知っていたが、だが、少年が外出する時だけではなく、協會内でも結城の側を離れないのは、それらの勢力以外に結城を付け狙う存在があるからなのだろうと考えていた。結城が天網を使っても確証を取れない相手に対抗できるのは、少年しかいない。それが何であるのかを少年に問うても、答えをはぐらかされるのは想像がついた。少年が口にする言葉は真実であっても、その後ろには、少年が結城には知られたくない、否、仲間である青年達にも知られるわけにはいかない理由があるように思えた。

「事務所へ降りたときに使ったからだろう。緩んでいるとは感じなかったがな」

「うふふ……中佐に緩みを感じさせたら、僕がいる意味がなくなってしまいますよ」

 今日も事務所の電話は鳴りっぱなしだったんでしょうねといいながら、少年が刀を杖へ戻し、結城に向かって左手を差し出してきた。白い手袋が照明の光を受けいっそう白さを増して輝くのを、結城はわずかに目を細めて眺めた。

 少年と共にいるようになってから何年になるのか。

 実際の年月を数えるのは造作もなかったが、それよりも遥かに長い時間を共有しているような気がして、結城は度々、そうした問いかけを自身にするようになっていた。馬鹿げた感覚で、苦境にあった自身を救ってくれたという感傷から来ているのだとわかってはいた。少年が幸せになるために傍にいるのだということも理解していた。

 少年にとって結城は、幸福を得るための道具でしかないのだ。

 それでも、結城にとって少年は――

「……年寄り扱いをするな」

「年寄りだなんて思っていませんよ。これは、中佐をエスコートする騎士の手です。僕の大切な御方をあらゆる厄災から護るのが、僕の務めですからね」

 小さな手が、促すように上下に揺れる。結城はゆっくりと椅子から立ち上がり、少年へと近づくと、その掌に自身の右手をのせた。少年が、にっこりと微笑む。それが、本当なのか嘘なのかわからないいつもの笑顔は、やはり結城には眩しく映った。少年が何を思い、何を考え、何をしようとしているのか。きっと、最後まで知ることはないのだろうと、結城は少年の手を握った。

 突然のことに驚いたのか、少年の目が大きく見開かれた。 

「時は金なりだ」

「え?」

「無駄遣いを許した覚えはないぞ、冰雨(ひさめ)」

「…………、すみません。気をつけます」

 少年の膨らかな唇から出てきた言葉は聞き慣れないもので、だからこそ、結城は少年の頬が赤らみ、普段は絶対に逸らされることのない目線が外れたのを見て、自身の心情が何であるのかをはっきりと意識した。

 そのまま少年の手を取り、執務室を出る。先立って階段を降りる結城の後ろを黙ってついてくる少年の気配を繋いだままの掌に感じながら、結城は、少年が幸いを得られるならばどんなことをしてでも生き延び、共に描く未来を顕現させようと、少年から与えられた左手に力をこめた。

 偽りだとしても、この手で必ず幸せにしてみせると、在りし日の’あの人’の面影を偲び、重ねていた。