hour_bell~千年の記憶~

月うさぎの自創作
@tukiusa_sakuaka

1章~早朝の流れ星~

1、

「こら!!いつまで寝てるの!!??起きなさーい!!!」

耳をつんざくような大声が白羊宮内に響き渡った。先程までの白羊宮内に満ちていた静寂は一瞬にして壊れる。

声の主の予想は大体ついているが、今はキンキンと痛む自身の耳の痛みに悶えることしかできない。水瓶の中で何かブツブツと言っているようだが耳鳴りが酷くて全く聞こえなかった。

少ししてようやく耳が聞こえるようになってきたので僕は僕を起こしたヤツのことを睨みつけた。

そこにいたのはやはり僕が思った通りの人物であった。…いや、正直あれを人と形容するのは少し違う気がする。なぜならソイツは上半身は人間と何ら変わりはないが、人間として本来あるべきであるはずの"足”がない。代わりに本来足があるべき場所には鱗と立派な大きなヒレがついている。世にいう"人魚”と言うヤツだ。しかもコイツはただの人魚ではない。その存在は天上界の双魚宮にすむ魚座星霊"ピスケス”である。

僕はこの魚女のことが好きでない、というか嫌いだ。それも1、2を争うレベルで。

ピスケスには『水がある場所ならどこにでも瞬間転移することが出来る』という能力がある。それに加え、僕達の暮らす12宮殿内の水瓶は空にすることが出来ない。だからこうやって僕のとこに来ては世話をやいてくるのだが…。

正直言ってかなりウザいし、ありがたいとも思わなかった。

「…うるさいなぁ…。少し寝てただけだろ…。」

とは言ったもののこれは嘘だ。本当はこのまま一生起きないで生を終えようと思っていた。けど、体感ではあるがそこまで寝たつもりはない。長くてもせいぜい1年くらいだろう。

「何が"少し寝た”よ。40年も寝といてそんなこと言ったらしっかり寝たら何百年寝る気なの…。」

ピスケスは呆れて物も言えないと言った感じにため息をつきながら頭を抱えた。

僕も僕で驚いた。どうやら僕の予想は大分見当違いだったようだ。

人間とは違うから寝すぎて数ヶ月。とかはザラにある僕達だけどそれでも、どれだけ長くても1年以上は寝ることなんてまずありえない。

それが40年ときた。流石の僕も自分のことながらよく寝ていられたなと呆れ半分、感心半分に思ったほどだ。

…まぁ、当初は一生起きるつもりはなかったのだけれど。

「アンタが40年も寝てたから人間界では沢山の火山が噴火。それに新しく生まれた牡羊座の子供たちは加護を受けることが出来なくてほんのひと握り、運がいい子を残してみんな死んでしまった…。おまけにアンタはどれだけ起こしても全然起きないし。」

ピスケスは深刻そうに話してきた。表情はさも自分のことを話しているかのように苦しそうである。

が、僕は全くその話に興味がわかなかった。ピスケスにとっては大切な話かもしれないけど僕にとってはどうでもいいことだったのだ。

僕は僕以外の生物に大して興味がない。というか事自分に関しても全く興味がなかった。特に"人間”なんて大嫌いだ。

僕"アリエス”を含む"黄道十二星霊”はそれぞれ役目がある。人間界を管理したり、それぞれの担当する月に生まれた子供が無事に生涯を暮らせるように担当月は毎日"祈り”を捧げたりと。

つまり、僕達星霊は身を粉にしてアイツらを"守ってやってる”のだ。それなのに当人らはそのことに感謝しないどころか、僕達の存在すら認識していない。

そんなヤツらのためになんで僕が何かをする必要があるのだろう。人間界の環境は僕が定期的に行けば解消されるだろうけど、大嫌いな人間の住む世界に行こうなんて思いは毛頭ない。

僕らのことを大切にしない人間が死ぬこと自体至極自然なことなのだ。それを助けてやるほど僕は優しくない。

「だから?住んでる世界自体違うんだ。僕がアイツらに手をかけてやる義理なんてないね。」

口から出たこの言葉は言い訳などではなく、ただの本心だ。これから先も人間界に行くつもりはないし、行こうとも思わない。

「アンタねぇ!いい加減にしなさいよ!!いつまでそんな子供みたいなこと言ってるの!!」

当然の如くピスケスは怒鳴る。なんでか知らないけどアイツは人間贔屓だった。僕を除く十二星霊のヤツらは比較的人間に好意的ではあけれど、その中でもアイツは群を抜いていた。

昔、人間に肉を削がれ、その肉を"不老不死の霊薬”として売られたこともあるというのに。それでも必要以上に人間に手をかけている。

どれだけお人好しなのだろう。

「人間がいなかったら私達は存在しなかった!彼らが私達を"想像”してくれたから私達は生まれたのよ!!」

「……それが何?昔は僕達を信仰してくれていたかもしれない。だけど今は僕達の存在すら忘れた。それならもう僕達が面倒見てやる必要なんてないだろ。……それに、僕は生まれたくなかった。生きたくない。人間に恩義なんて微塵も感じない。」

そうだ。ヤツらは勝手に僕達を想像して、勝手に信仰し始めた。そうして僕達は生まれたんだ。

酷く長い、終わりの見えない"生”を押しつけられた。死にたくても死ねない。果てしなく長い日々。

そう思うと段々イライラしてきた。

「一々うるさいんだよ!魚女!!」

だから口から出てしまったこの言葉は仕方ない物なんだと思う。言い終わった後でどれだけしまったと後悔しても、もう後の祭りにすぎない。

「…………こっちが優しくしてあげてたら調子にのりやがって………。」

見るからに怒っているし、何かスイッチの入る音がした。とりあえず逃げようと思ったけどピスケスの操る水に拘束されて叶わぬ夢となる。そのまま窓際まで運ばれた。

この後何をされるかは大体察しがついていたからか頭が思考放棄をし始める。普段は思わなかった窓から見える星空が美しいなと柄でもなく思ってしまうほどである。星空の下には柔らかそうな雲がふわふわと敷き詰められていた。

「我儘言ってないで、」

瞬間、水の拘束が解け、体が宙に浮く。

「とっとと人間界に行けー!!!」

直後ピスケス渾身の尾ビレアタックに吹っ飛ばされた。パリーン!と白羊宮の窓が割れて、僕は真っ逆さまに落ちていく。

落ちながらこのまま落ちればギリシャ辺りに落ちるんだろうなぁとぼんやり考えていたのだが、突然何かに引っ張られるように斜めに軌道が変わった。一体何が起きたのか、と思い辺りに気を張ると、とても遠くからではあるが物凄く大きな力を感じる。

恐らくそれに引っ張られているのだろう。しかし人間界の管理を怠っていた僕はどこに向かって今落下しているのか分からなくなった。

速度は急激に増し、ドンドン降下していく。そのときこのまま落ちていたら地面に叩きつけられてしまうということに気がついた。

地面に叩きつけられて死ねるのなら喜んで叩きつけられようとも思うけど、生憎僕は死ねない質であるからただただ痛いだけである。

確かに死にたがりな僕だけど、決してMという訳ではない。このピンチを切り抜けるため僕は必死に考えた。

だが何もいい考えが思いつかないまま地面との距離は数キロメートルという所まで来てしまった。

「あー!!もう!!クソ魚!!ゲート使えよ!!バーカ!!!」

人間界に行くための安全な行き方もあるのにそれを使わず紐なしバンジーをさせたピスケスに文句を叫びつつ、僕は人差し指を地面に向けた。

「こうなったらイチかバチかだ…!」

覚悟を決めて人差し指に力を集中する。そして指先に込めた力を一気に地面へと発射した。

アリエスに伝わる『星の怒り(スター・ブレイク)』という能力。本来の使い方ではないが、今はこうすることでしか自分を助けられない。あと2発、計3発を地面に向けて放った。

出力最大で撃ちはなったため、かなり大きな爆風があがる。その風をクッションにして僕は勢いを殺した。

当初の落下地点よりかはかなり離れた場所になったが無事に着地に成功した。代わりに地面に巨大なクレーターが3つ出来、小惑星も同じく3つ破壊されたのだが直接自分に関係がある話ではないから気にしない。

「……で、無事に着いたのはいいんだけど………。」

そう。無事に着いたのだから地面に出来たクレーターなんてどうでもいいのだ。問題は………。

「……………ここ、どこ………………………?」

目の前には見たこともない大きな赤い、扉のない"門”が建っていた。