【食契】指揮官殿と黒猫【交流】

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@blueconpan


堕神は年々増え続けていると聞く。

今日も近くの商店から食材を調達した帰り「堕神が出たぞー!」と騒ぐ声を聞いた。

不安げな声を上げる者や狼狽え何処に逃げればと右往左往する者がいる中で

一匹の黒猫がふと立ち止まるとうーんと悩む声を挙げた。



「…今は食霊連れてきてないしな…」



さてどうしたものかと尻尾を一振り。

少々足りない食材に加え、そこまで手に入りにくい物ではないからと

付いて行きたそうな食霊達をやんわり抑えたため今日に限って食霊は一人もいない。

特に仲の良いキャビアに至っては最後まで駄々を捏ねていた。



「…キャビア連れて歩くと目立つし…」



本人は周りに興味がない様だったが、彼は案外モテる。

一度女性の客が「彼は可愛い」と言っているのを他の食霊伝手で聞いていた。

加えて彼の奇抜な服装と食霊の中では高身長なのも合わさって良くも悪くも目立つのだ。

渋っていたキャビアには申し訳ないが、すぐに戻るからと言い置いて今に至る。



「……、取り敢えず様子見くらいなら怒られないだろう」



そう簡単に判断をして、黒猫はひょいと塀に飛び乗ると堕神が出たと騒ぐ方へ走った。

…後で怒られるとも知らずに。







暫くひた走って着いた先は街の郊外にある一角だった。

既に住民は避難したのか人の気配は無く、崩れた家があるだけだ。

周りに視線を走らせると、小さな堕神が複数とそれらに囲まれる様に大型の堕神が一体。

長い足をくねらせながら辺りの物を薙ぎ払っている。



「…食霊と御侍の姿はない、な」



これだけ暴れているにも関わらず、近くに食霊も御侍の姿もない。

見付からなかったのか今向かっているのか。

一回戻って食霊を連れて討伐に乗り出した方がいいだろうかと堕神達の行動を見ていた時、

近くの茂みから何かが飛び出して行った。あまりにも突然、加えて素早い動きに目が丸くなる。



その影は人、だった。



姿勢を低くし、瞬く間に小さな堕神を一刀両断していく。

その人物に堕神が気付く頃には斬り伏せられ、あっという間に数が減っていく。



「凄いな」



食霊も連れていないのに舞う様に堕神を片付けていく様に思わず感嘆の声が漏れる。

素早い動きでずれてしまった軍帽を正す余裕まであって、只者じゃないんだろうと

黒猫はじっとその様子を観察していた。小さな堕神が片付いたのはものの数分、

残された大型の堕神は怒りからか大きな雄叫びを挙げ、複数の足を彼に向かって振り下ろした。

足を叩きつけた地面が抉れ、破片が飛ぶ。彼は左右に身体を移動させることで躱し、

そのまま相手の懐へ潜り込むと躊躇いなく刀を突き刺した。

深々と刺さった刀に堕神は最後の抵抗とばかりに暴れる。

それに対して更に深く刀を突き刺すと、漸く堕神の動きが徐々に弱くなっていった。

そして完全に動きが停止すると、彼は小さく息を吐いて深々と刺さった刀を引き抜いた。



「食霊も連れてないのに、君は強いんだな」



辺りに堕神がいなくなったのを見計らってから

ほど近いところまで近付いて声を掛ける。

すると近くに誰かいるとは思わなかったのだろう。

驚いた様にこちらを見る姿に居住まいを正して見上げた。



「………猫?」








それから堕神の討伐を報告するついでに彼と少しお茶をすることになった。

見てるだけで何もできなかったお詫びということで奢ると言えば、

彼には最初物凄く遠慮されたが、労いと報酬の様な物だと言うと

少し悩んだ後それならばと受け取ってくれた。



「助太刀できれば良かったんだが、生憎丁度食霊を連れていなくてな」

「いえ、俺が勝手にしたことなので…貴方が気にする必要はないですよ」



お気持ちだけでと言い、彼はカップに口を付ける。

何故あんなに強いのかと聞けば、彼はなんでも軍の指揮科に通っているのだという。



「…指揮科だったら前線出ちゃまずいんじゃないのか?」

「あ、いえ…大丈夫です!前線にいても指揮は取れますから…っ!」



ふと浮かんだ疑問を口に出せば、彼は慌てた風にそう言った。

どうやら他でも同じ様なことを言われた経験があるらしい。

罰が悪そうに視線を逸らした。



「…よく、食霊達に心配されてしまうんです」

「ああ、まあ食霊達からすればそうだろうな」



先程の闘いを思い返せば、確かに食霊からすればとんでもないことだろう。

守るべき筈の存在が先陣を切れば気が気ではない筈だ。

そう思うと脳裏によぎるのは自分の食霊のことで…。



「…悪い、長く引き留めてしまった。この後用事があるんだろう?」

「はい。もう少しすれば…そろそろ行かないといけな―「指揮官」



そこまで言って空になったカップを片付けようと席を立った彼に誰かが声を掛けた。

声の方向へと振り向く彼と同様にそちらへ向けば、少し小走り気味に駆け寄ってくる黄色の色彩が見えた。



「…!プリンさん…!」

「予定時刻になっても戻らないので探しましたよ。…こちらは…?」



プリンと呼ばれた青年は心配だったのか無事を確認してほっとした様に肩の力を抜くと、

初めてちょこんと座った黒猫の存在に気が付いたらしい。

ちらりと黒猫を見遣る様子に黒猫が口を開き掛けた時、新たな声が遮った。



「御侍」



振り返る前に体が宙を浮く。

見上げれば見知った顔が見下ろしていた。



「キャビア、よくここが分かったな」

「虚空の神の声を聞いたから、分かるんだ」



そう言ってキャビアはそっと目元を緩めた。

やはりこちらも心配していた様で「無事で良かった」と小さく呟いた。



「ああ、そうだ。紹介する、キャビア。

 こちら指揮官殿とその食霊のプリンさん…で良かったかな?」



二人に返答を促すと、彼―指揮官は軍帽を取り、会釈をする。

プリンも倣って軽く頭を下げるのを見届け、黒猫も名乗り返す。



「俺は見ての通りの猫、一応料理御侍だ。初めまして。

 こっちはうちの看板。キャビアも挨拶」



しかし促されてもキャビアは会釈どころか挨拶もしない。

ただ、じっと指揮官である彼を見ていた。



「…ええっと…俺に何か…?」

「キャビア、挨拶も無しに人のことじっと見るのは失礼だぞ」



戸惑いを隠せない指揮官を助ける様にそう言うが、

キャビアは聞こえているのかいないのか、その言葉に対する返事は無い。

少しして「ああ」と一人何か納得した様に呟くと「君が、」と言葉を続ける。



「守ってくれたのか。ありがとう」

「……え?」

「御侍を守ってくれて、ありがとう」



見上げてもマフラーに隠れている所為で見辛いが、

声音が随分穏やかなことにまた何かあったかなと猫は思うが口には出さなかった。

言った所で説明も難しいし、お礼を言っているのだから悪いことではない。

現に困惑はしていても、お礼を言われた指揮官は「いいえ、俺の役目ですから」と敬礼をして応えてくれた。



「指揮官、名残惜しいかもしれませんがそろそろ」

「ああ、そうですね。…では、猫さんもキャビアさんもまた機会があれば」

「こちらこそ。息災で」



連れ立って去っていく二人を緩く尻尾を振ることで見送り、

猫は「さて」と言うとキャビアを見上げた。



「帰るか」

「ああ」



帰る際にちらりともう一度あの二人に目を向ける。

なんだか仲睦まじく話しながら歩いて行く様子に「なるほどな」と小さく声に出した。



「?どうした?」

「いや、仲良いなと思って」

「…?御侍と食霊だったら当たり前だろう?」

「あー、キャビアにはまだちょっと難しかったか」



機会があれば話すよと言って、猫は一つ尻尾を揺らした。


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