白眉学園軽音楽部

木村(5)
@RiatoH3PO4

第8話.部室争奪戦(4月前半)



「じゃあまずは自己紹介ね」

 椎名は仕切るように言った。

 椎名たちより少し遅れて、軽音楽部に入部を希望する一年生がぞろぞろと集まってきた。これで椎名たちを含め、入部希望者は15人となる。

 第二部室に散らかったものをとりあえず端に退け、一年生たちは部室の中心に円になって立った。

 椎名は皆にわかるように挙手をして、自己紹介を始める。

「椎名瑠璃るり。下の名前嫌いだからシイナって呼んで。ギター希望、っていうかギターやってます。よろしく」

 シイナは下ろした手を、そのまますぐ隣に立っていた真壁柚の肩に置いた。真壁柚は一瞬「へっ?」と戸惑うが、すぐに皆に向き直る。

「あっ、真壁柚です~。マァって呼んでね! ベース希望です!」

 柔らかく言って、マァはシイナとは反対側の隣に立つ香川沙羅の背中を叩いた。

「かっ……香川沙羅、です……さ、サラって呼んでください……! ギター希望です……」

 緊張気味にサラが言い終えると、自己紹介の順番を察した百合原碧が口を開く。

「百合原碧、ボーカル希望。ユリとか、まあ好きに呼んでください」

「あ、えっと、中川なかがわ乃愛のあでーす。呼び方はノアで! ドラムやりたいです~」

「……あかつき華月かつき。呼び方は普通にカツキで。ドラム希望」

小森こもり鈴芽すずめです。スズメって呼んでください! ベース希望でーす」

篠原ささはらもなかです! 呼び方はモナカで! ギターかっこいいからやりたくて来ました、みんなよろしくね~!」

「……線川せんかわ千鶴ちづる。呼びはラインで。ボーカル希望、よろしく」

古賀橋こがはし牡丹ぼたん。普通にボタンって呼んでくださーい。ギターやりたくて来ました~」

荒巻あらまき翔平しょうへいで~す。ショウちゃんとか呼ばれること多いかなー。ベース希望。よろしくね~」

「……山梨やまなし小豆あずき。同じくベース希望。呼び方はなんでも……」

「新野涼真です。呼び方はなんでも。ボーカル希望」

「あ……」

 志村に順番が回ってくる。一瞬どもって、志村は震えた声で言った。

「し……志村……真貴まき……です。苗字で呼んでほしいです……」

 そこまでで黙り込む。原田が小さく「パートは?」と問うと、ハッと顔を上げた。

「あッ……えっと……」

「ドラム希望、でしょ」

 隣の新野涼真が咄嗟にフォローに入る。シムラは新野涼真を見上げた。

「ご、ごめん、ニィさん……」

「にぃさん?」

 シムラの声に、マァが敏感に反応する。

「ニィって呼ばれてるの?」

「あー、まあ」

「えーなんかカワイイね! 私もそう呼ぼうかな」

「いいけど……カワイイか?」

「カワイイはちょっと適当に言ったけど」

「感想に責任感皆無か」

 ニィは淡々とツッコむ。原田が「あのー」と小さく挙手した。

「俺、原田さきです。ギター希望。……下の名前好きじゃないから、苗字で呼んで」

 早口で自己紹介を済ませる。シイナは「これで全員ね」と入部希望者を見渡す。

「それにしても、入部希望者って結構いたのね。これで廃部にしようだなんて笑わせるわ」

「は、廃部!? 廃部になるの!?」

 モナカが驚いて身を乗り出した。シイナは「えっと」と口ごもる。

 ユリがシイナの代わりに「ううん」と首を振った。

「顧問が入部認めてくれたから、大丈夫。廃部にはならないよ」

「そ、そっか……でもここ、そんなにギリギリなのかな。確かに今の部員は少ないみたいだけど……」

 モナカはちらりとカツキを見て言う。ユリが首を傾げると、カツキが口を開いた。

「中等部の頃から軽音楽部に入りたかったから、前から調べてたの。今年残ってる部員は三年生の四人だけで、一つ上のドラム担当の先輩が卒業したけど、バンドを組んでる」

 マァは「わ~」と感嘆しながらニィの顔に目を向ける。

「いっぱい知ってるね! ニィ君みたい!」

 無邪気なその声に、ニィは何も答えない。カツキは一瞬眉を顰めたが、すぐに無表情に戻って溜息を吐いた。

「中等部から軽音楽部目指してた人間なら皆知ってる。大したことじゃないよ」

「私は知らないからすごいよ~」

 柔らかに笑うマァを後目に、ニィはちらりとシムラを見た。

 杉崎先輩とのやりとりと、ドラムがいないバンド。そして、ドラム希望のシムラ。

 なんとなく、先輩方にとってのシムラがどういった存在なのかが見えてくる。

 しかし、ニィは何も言わない。

 ニィは、俯き気味のシムラからふいと目を逸らした。



 そのまま部活動は始まった。

 部室の掃除を優先しつつ、部活動の時間をどう利用するかを話し合い、その日は解散。

 翌日からは、部室を片付けた後パートごとに基礎練習やスコアの読み方の勉強などをしつつ部員同士の交流を深めていく、という日々が続いた。

 時折訪れる三年生の部員たちは、何かしら因縁をつけて、片付けたばかりの部室を軽く荒らしていく。

 それでも一年生にとっては大したダメージにはならず、順調に部活動は進んでいた。……ように見えた。




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