白眉学園軽音楽部

木村(5)
@RiatoH3PO4

第8話.部室争奪戦(4月前半)



 部室に到着した一行は絶句した。

 まず、広い。階段を上って四階に着くと、目の前の空き教室がそのまま部室。その隣の空き教室も部室。そのまた隣の空き教室も部室だ。

 そこから少し壁が続き、一番奥、突き当たりに大きな扉が見える。そこも部室なのだ。

「……四階全部、軽音楽部?」

 椎名が呆然と呟く。新野涼真は頷いた。

「一番奥が第二、あの壁の向こうが第一、奥から第三、第四、第五。全部で五つ部室がある」

「……あんた、謎に軽音楽部について詳しいわよね」

「中等部の頃から軽音楽部に入部するって決めてて、色々調べたりライブ見にきたりしてた。第二部室にステージがあって、ライブもそこでやる」

 新野涼真は説明しながら奥に向かって歩を進める。第二部室のドアノブに手を掛け、ぐっと手前に引いた。

 重そうな扉が開く。小窓から見えていた防音カーテンを退け、新野涼真は眉を顰めた。

「……汚い」

「え?」

 原田と椎名も部室を覗き込む。そして、絶句した。

 続いて部室を見た志村が、落胆するように息を吐く。

「……多分、杉崎さんたちの仕業かと」

 第二部室は、散らかっていた。

 机や椅子がごった返し、粉々のチョークが散らばり、切れた弦や折れたスティックが転がっている。

 バンドスコアや音楽雑誌なども所々に落ちており、ページも破られ、撒かれていた。

 絡まったコードや倒れたギタースタンド、工具までもが散乱している。

 防音カーテンには遮光昨日もあるため、電気を点けていない部室は暗く、扉から射し込む自然光に照らされた部分しか今は見えない。それでも、部室全体がそうなっていることは何となく察せた。

「うわ、何これ」

 女子生徒たちも覗き込み、ドン引きの声をあげる。新野涼真はカーテンを掴んだまま部室に足を踏み入れ、部室の壁を一周するように歩いてカーテンを開けた。

 窓から光が射し、部室全体の様子が見えてくる。予想通り、第二部室内は全体が散らかっていた。

「酷いな」

 原田が溜息混じりに呟く。椎名は頷いた。

「早く片付けなきゃ。明日からあたしたちの部室でしょ」

 椎名は言いながら、足元のバンドスコアを拾い上げた。ページはびりびりに破られており、もう読めそうにない。

「これ、もう捨てたほうが良さそうね。……先輩は音楽やる人間として、色々欠けてるように思えるんだけど」

 椎名は志村を見る。志村は小さく頷いた。

「僕もそう思います」

「よね~」

 椎名は深く溜息を吐いた。

「まあいいわ」

 椎名は振り返り、女子生徒たちを見た。

「名前言ってなかったわよね。あたし椎名。皆は?」

 女子生徒たちは顔を見合わせてから椎名に向き直る。

「私は百合原ゆりはらみどり

 安岡と言い合っていた女子生徒が最初に名乗る。

「私、真壁まかべゆず!」

 背の低い女子生徒がにこやかに言う。

「か、香川かがわ沙羅さらです……」

 髪の長い気弱そうな女子生徒が控えめに言う。

「あんたたちも自己紹介したら?」

 椎名は原田たちに促す。

「あ……俺原田」

「新野涼真」

「し、志村……です」

 三人が名乗り終えると、百合原碧が「あれ」と何かに気が付いた。

「あれ一年生じゃない?」

 開いたままの扉の向こう、廊下の奥を指差して、百合原碧は言った。その場の全員が扉の外を見る。

 一年生のネクタイを着けた生徒が数人、部室に向かって歩いてきていた。




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