白眉学園軽音楽部

木村(5)
@RiatoH3PO4

第7話.人気投票と遠い記憶(12月前半)



 シムラはニィの腕を引いて、第一部室へと連れ込んだ。電気を点け、扉を閉める。

 重ねられた椅子を一つ出し、そこにニィを座らせた。重ねられたままの椅子に、黒歴史ノートを置く。

「ニィさん」

 名前を呼ぶと、ニィは顔を上げてシムラを見た。

「どうしてシイナさんが怒ったかわかる?」

 ニィは何も答えない。ただじっとシムラの顔を見つめている。

 シムラはその場に膝をつき、下からニィを覗き込んだ。

「シイナさんは確かに、ここでも飛び抜けて美人だと思う。けど、第三者があんなふうに他の誰かと比較して喋るのは、すごく失礼なことなんだよ」

「……比較……」

「うん。ニィさんは特に意識せずにああいう言い方をしたのかもしれないけど、ああやって言われたシイナさんの気持ちも考えてみたほうがいいんじゃないかな」

「…………」

「玄冬のギターにシイナさんを選んだのは、シイナさんの顔が良かったからだけじゃないでしょ?」

「…………」

 ニィはじっとシムラを見つめる。シムラはその瞳を見つめ返した。

「……シム君」

 ニィの右手が、包むようにシムラの頬へと触れる。

「ニィさん?」

「俺は……」

 ニィは言いかけるが、バサッという音で言葉を遮られた。

 音のしたほうを見ると、黒歴史ノートが椅子から落ちている。

 シムラはニィを見つめたままだ。ニィは、床に落ちた黒歴史ノートを眺めながら口を開く。

「俺はシム君を守りたい。その為にバンドを組まなきゃいけない」

「……どういうこと?」

 シムラは首を傾げる。

「……ずっと……そう、『最初から』……」

 ニィは、先ほどシイナに言われた「最初から」という言葉を思い出す。

「最初から……シム君を、守らなきゃって」

「…………」

 シムラは何かを考え込むように目を泳がせながら、自分の頬に触れるニィの手を上から握った。

「……最初から、俺を守らなきゃって?」

 ニィは小さく頷く。

「最初っていつから?」

「……いつって」

「俺と会ったとき? 6月? バンドを組むのが俺を助けるためってどういうこと?」

「……どういう……」

 呆然と復唱するニィの手をそっと下ろさせながら、シムラは立ち上がった。

「俺ね、高等部の入学式の日の記憶がなんかおかしかったんだ。初めて歩く学園を、知ってるような気がしてた」

「……記憶がおかしい?」

「うん。遠足も体育祭も合宿も、どうしてか知ってる気がした。デジャヴって言われたらそれまでだけど」

 シムラは「でも」と続ける。

「でも、文化祭はなんにもわからなかった。初めての記憶だった……って言ったらなんか変だけど、でもそんな感じ」

 シムラは黒歴史ノートに目を向ける。

「黒歴史ノートのことも、知らなかったと思う。でも青春バンドは懐かしい気がした」

 黒歴史ノートを手に取って青春バンドのページを開く。シムラはニィのほうを振り向いた。

「……ニィさんの『最初から』も、これに似てる?」

 そう問われ、ニィは呆然とする。

 『最初から』という言葉が似合うこの感覚は一体、いつからあったのだろう。




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