白眉学園軽音楽部

木村(5)
@RiatoH3PO4

第5話.文化祭準備はお化けと共に(11月前半)



「うわやばっ」

 作業を続けてしばらくしてから、ハラダが突然焦り始めた。

 部員たちがハラダを見る。ハラダは少しだけカーテンの開いている窓を指差した。

「暗い」

 部員たちも窓に目を向ける。

 日はどっぷりと暮れ、空は真っ暗だった。

「うわっ」

「え、やば何時?」

「六時半!」

「え!?」

 全員作業に夢中で、いつの間にか夜になっていたことに気付かなかった。部員たちは慌てて片付けを始める。

「シム君、俺らも帰らなきゃ」

「あ、うん。あとこれだけやってく」

 シムラは段ボールを貼りつけながら、ニィに笑いかけた。ニィは「うん」と頷く。

 他の部員たちは急いで後片付けを済ませて次々と帰宅していく。

「ニイノ君シムラ君!」

 帰りかけたユリが二人を呼ぶ。もう他には誰も残っていなかった。

「二人最後だから、窓と部室の鍵確認お願い! ユリ先に帰るね、おつかれ!」

「はーい、おつかれ」

 ニィが片手を上げて返事をする。ユリは小走りで去っていった。

「ニィさんは帰らないの?」

「外暗いからね。シム君送ってかなきゃ」

「え……」

「あ、いや……そういう意味じゃなくて」

「……ふふっ。うん。ありがと」

 シムラはお礼を言って笑う。ニィもホッとしたように微笑んで、立ち上がった。

「リュック持ってきといていい?」

「うん」

「シム君この紙袋も?」

「あ、うん。ありがとう」

 シムラと自分の荷物を持ち、ニィは再び先ほどまで自分がいた位置に座る。シムラの隣だ。

「ニィさん、黒歴史ノートのバンドさ」

「ん?」

「玄冬はまだやらないの?」

「んー……やりたいけど、ちょっと条件が複雑だから。文化祭終わってからやるよ」

「ボタンさんとアズキがまだ黒歴史ノートのバンド入ってないでしょ? 二人は入れない感じなの?」

「それも追々考える。でも多分入ってもらうことになるかな」

「どんな条件?」

「それはまだ内緒」

「内緒かぁ。黒歴史ノートって、バンドのこと以外に何か書いてないの?」

「んー、タイタンのこととか。あ、あと神様云々みたいな?」

「じゃあもしかしてあれ書いてある? 『神様は気まぐれ』ってやつ」

「あー、なんか書いてあった気がする」

 ニィはリュックから黒歴史ノートを取り出してページを開く。

「あ、ほら。『神様は気まぐれ』」

「わーほんとだ。やっぱ有名なんだね」

「有名なんだ」

「うん。神様に会ったことある人が言ってたんだって」

「神様って会えんの?」

「たまーに会えるみたい。会ったときは助けてくれるんだってー」

「へえ」

「でもこの神様は俺がよく話してる神話とかとはまた違う存在でねー」

「色々あるんだ」

「うん。神話っていうよりは、今も神様は俺たちのことを見てて……んーと、例えば俺が今段ボールで指を切っちゃうとするじゃん」

「うん」

「それは俺の不注意だけど、俺が痛くて悲しい気持ちになるでしょ? だから、この不注意を神様が俺に与えてるんだよ」

「……ん?」

「えっと……神様が何もしなかったら、人間は幸せなまま過ごすんだよ。嫌なこととか悲しいことなんか無しに。でも人間は貪欲だからもっと幸せになろうとしちゃって、逆に不幸が集まって大変だから、神様がこういうちょっとした不幸せを与えて、上手くバランスとってるの」

「……それ本当の話?」

「や、違うよ? あくまで一説、っていうか俺の知ってる人が言ってたこと。俺が神話とか神様とかに興味持つきっかけになった人」

「へー……シム君はそれ信じてんの?」

「信じてるっていうか、おとぎ話みたいな感覚かなー」

「なるほどね」

 ニィは黒歴史ノートに目を落としながら相槌をうつ。シムラは一瞬手を止めて、視線を下げた。

「……俺はね」

「ん?」

「……自分が自分として生まれた時点で、すごく不幸だと思ってたんだよね」

「……うん」

「……でも、今の俺は幸せだから。神様が不幸しか与えないっていうのは、もしかしたら違うんじゃないかなー、って思ってる」

 シムラはニィを見てはにかむ。ニィもふっと微笑んだ。

「よし、おしまい!」

 シムラはそう言って立ち上がる。気付けば片付けも終わらせていた。

「じゃあ帰るか」

「うん!」

 二人はリュックを背負って、窓や扉の鍵がきちんと閉まっていることを確認しに回る。第三部室などの離れた場所も確認し終えて、二人は第二部室に戻ってきた。

「シム君忘れ物ない?」

「大丈夫ー」

「じゃあ電気消すよ」

「はーい」

 ニィがぱちんと電気のスイッチを切った。第二部室の電灯が消え、真っ暗になる。

「……え、」

 暗闇になった部室を見て、シムラは小さく声を漏らした。ニィは首を傾げる。

「どうした?」

「っ……なん、で……」

「……シム君……?」

「……ッ」

 困惑するニィの声が届いていないのか、シムラは目の前の闇を見つめながら、力が抜けたようにその場に座り込んだ。

 怯えるようなか細いシムラの声が、呼ぶ。

「……『ケイ』……」


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