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第2章 前編・中編・後編

『先程、国宝の建築物が何者かによって破壊されました』

 薄暗闇の空間に、画面の光と音だけが響く。

『破壊者はそのまま何処かへ逃走をしていますが、後ろ姿の写真だけ国宝建築物付近の監視カメラが捉えていました』

 小さな画面に映し出された画像には、薄桃色の髪を団子にまとめた小さな少女の後ろ姿が捕えられていた。服装はセーラー服に見える。周りのモノと比べると身長は結構小さいのでは無いだろうか。学生にしては小さすぎる気もするが、学生でも考えられないような大きなダンベルのようなものを持っている。両側に大きな目玉がついたそれは、どうやらただの武器ではなさそうだが。そこまで見終わると、見ていたパソコンをパタッと閉じた。そして、音も立てずに立ち上がると、暗闇に紛れて見えなかったその姿が差し込む月の光に照らされてその相貌を表す。現代と比べれば少し古いような学生帽、学ランの上に羽織を羽織り、綺麗に揃えられた短髪を見るに、明らかにそれは少年だった。少年がいるこの場所も、よく見ると廃墟のようだった。少し崩れかかってるところがあるとはいえ、殆どそのままで残っている。アイゼア街では廃墟を住居として使う人間がいるのはあまり驚くことでもなかった。しかしその大半は、犯罪者の住処となっているという。少年は外に出ると、スタスタと歩き出した。しんと静かな街は、少年の革靴の音がよく響く。時間は既に、亥の刻を回っていた。


*


「ガシャーン!」

 持っているダンベルを振り回すと、何かに当たり壊れる音がする。「ああ、またなんか当たったな」と少女は不満そうに呟いて、まるで建築物が邪魔だとでも言うように少女の目の前に立ち塞がる建物を壊していく。よく見れば、少女はアイマスクのようなものをしているのにダンベルを振り回している。だというのに、狙いは目の前の建物一直線で、的確にその建物だけに殴りかかっていた。夜の物凄い音に驚いた住民は、わらわらと外に出てくるなり「何やってるんだ!」と叫び出す。それはそうだ。だって今少女が壊している建物は、国宝建築物なのだから。

「国宝…? 壊しちゃいけないなら、道端に置いておくな!」

 少女はムッとした顔で叫ぶと、そのまま走り去っていった。追いかけるよりも国宝が壊されたことによる騒動の方が大きく、少女は難なくその場を回避することに成功した。がむしゃらに走った少女は、十字路にでた。夜というのもあるし、最近犯罪が増えているというのもあってこの時間は車通りも少ない。少女は走りから歩きに変わり、てくてくと誰もいない十字路を歩いていく。

「かごめ かごめ かごのなかのとりは」

 一息ついたと思ったら、何者かの歌が聞こえてきた。少女はビクッと肩を揺らし驚いた様子を見せたが、そこで立ちどまり、耳をすませた。

「いついつでやる」

 そこまで聴いて、少女は何かを思い出したようにはっとすると、その声に合わせて一緒に歌い出した。立ち止まって一緒に歌っていると、コツ、と後ろに誰かが近づいた足音がする。

「お前、変なヤツだな」

 歌の途中でその声の主であろうか、少し驚いたような低過ぎず、かといって高くもない男の声が少女の後ろから聞こえた。

「変? 懐かしい歌だなって思って歌ったんだ、何が悪い!」

 少女は不満を口にしてその声に反応する。その声の正体は、学生帽を被ったあの少年だった。

「いや、失礼。僕の歌を聴いて一緒に歌い出す人間なんて初めてだったからね、少し驚いただけさ」

 少年は薄く笑う。革靴の音を響かせて、少女の前に行くと「ねえ君」と改めて話しかけた。「なんだおまえ」と少女はダンベルを構えて少年に問いかける。

「今まで幾つの建物を壊したんだい?」

 「またその話か」と明らかに不服を顕にした少女だったが、「覚えてないけど沢山壊したぞ」と答えた。少年はそれを聞くや否や、「あっはっはっは」と腹を抱えて笑い出す。何が面白いんだ、と少女の顔が更にムッとすると、少年は「いやごめんつい」と軽く謝罪をする。

「やっぱり面白いね、君。僕の見込んだとおりだ」

「何言ってるかさっぱりわからん! おまえ、なんて名前だ! そこからまずおしえろ!」

 少年は「ああ、そうだね」と納得をしたように呟くと、短めの自己紹介をした。

「僕は彼方。京彼方、君に同盟を組まないか提案をしに来た」

 そこまで言うと少女の方も満足がいったのか、攻撃態勢を緩めた。「次は君の名を聞きたいな」と少年が促すと、少女は元気よく答えた。

「あたしはアンナ! アンナトルスタヤだ! こっちはあたしの相棒のアイ!」

 「アンナ」と名乗った少女は自らが手にしているダンベルを「アイ」と呼び自慢げに掲げる。能力は人間が持つだけではない。能力が無い人間でも扱うことが可能なもの、それが武器だ。アイゼア街にいる人間は能力持ちかこの能力添加された武器持ちかのどちらかにわかれる。少女の「アイ」は、後者だろう。性能は少女の今までの使いぶりを見る限り、照準を定めると言ったところだろうか。

「ところで彼方とやら、同盟を組みたいっていったな? それってなんだ!」

 京は驚いた。今時同盟という言葉の意味を知らない者は少なくとも幼子以外居ない。目の前の少女は身長はとても低いとは言え、制服を見る限り学生だ。しかし京が驚いたのはそこではなく、少女を見て気づいたことがあったのである。

「君、もしかして目が見えてないのかい?」

 アイマスクをしている時点でまさか、とは思っていた京であったが、今アンナなる少女がとった行動でそれが明確であることが判明したのだ。何故なら彼女は、京の方を向くのではなく、京から見て左側を向いて話しかけているのである。

「ふん、目が見えないくらい何のハンデにもならないぞ」

 アンナは相変わらず左側を向いて話している。京はそれが面白かったのか顔に手を当て声を出さず笑いを堪えていた。

「……失敬。同盟というのはまあ、僕と仲間にならないかと言ったところかな」

「仲間?」

 アンナはその言葉の意味が理解できない、というふうに首を傾げる。京はアンナの向く方向に行き、「そう」とその意味を端的に説明する。

「僕には達成したい目的がある。それには心外だが一時的にでも仲間が必要だと感じた。……そこに君が現れた。さっきの国宝破壊事件、見事だったよ」

 アンナはアイを握り、話をじっと聞いていた。

「一言で表せば、君はこの世界ではもう罪人。政府から追われるのは目に見えている。そこでだ、その罪人同士で同盟を組んだとしたら、どうなると思う?」

 アンナは「んっと……んー」と唸ったあと、「強そう!」と閃いたかのように言った。

「そう、強い。だから政府に追われても対処が効く。勿論同盟の中では殺し合いも犯罪行為も禁止だ。僕にも君にも益があることだと思うんだけど、どう?」

 アンナは少し下を向いて考えた。この男は信用していいのか、この彼方という男は嘘を言っていないか。……悪魔でないか。少し考えた末、答えが出たのかアンナは顔をあげた。そして、アイをクルっと一回転させて、彼方の方へ向けた。

「いいぞ! その同盟とやら、なってやろう!」

 「決まった!」という声が聞こえてきそうな程のドヤ顔をするアンナは、改めて同盟を組むことを承諾した。京は礼を告げ、反対側に向き直る。

「早速ついてきてもらいたいんだけど、君僕の後ついてこれる?」

 アンナはムッとして、アイを京に再度向ける。

「あたしの鼻だけでも問題ないが、おまえのにおいはまだ慣れてないからアイに照準を合わせた! 普段はこうして殴ってるが殴らなければ方向はわかるはず……」

 「あ」とアンナが声を出した時には既にアイで京に殴りかかっていた。京は軽くそれを避け、宙を舞う。

 「だと思ったよ。早く僕から照準を解除するんだ、こんなんで目的地に行くとか流石に僕も疲れる」

 「ごめん!」とアンナが叫び、アイの照準を解除するのを待って京は近づく。「君の鼻も今はあまり頼りにならなそうだよね」と溜息をつくと、仕方ないとでも言うようかのようにアイの持ち手部分を掴んだ。

「無理のない程度に僕が引っ張っていくから、アイの方向に君は歩いてくれればいい」

 「頭いいなおまえ」と京を褒め、それに従うの意を示すのかアイをクイックイッと引っ張ってみせた。その力の強さが京が踏ん張ってないと持ってがれそうなのに少し身の危険を感じたが。一先ず自分の住処に帰って詳しい計画を立てるのがベストだろう、そう考えた京は、新しい同盟者を引き連れ夜の街を後にした。


*


「はあ……やっぱでけえな」

 一ノ瀬皐月は目の前の高層ビルを見上げて思わず零す。一ノ瀬にとって二回目である政府の拠点、今回は正式に呼び出されたのだ。Rightの頭領として。

「見たことはあるけど初めて来た……」

 その隣で一ノ瀬の後ろから顔を出すようにして覗いているのはフードを被った少年とも少女とも取れる人物、カナだった。

「何度来ても慣れる気しねぇなこりゃあよ」

 「離れるんじゃねぇぞ」と一ノ瀬は後ろのカナに言ってビルの自動ドアを通り抜ける。中に進むと中央に黒いスーツの女性が立っており、一ノ瀬が名前を告げると「あちらへ」とエレベーター前に案内された。

「フロア70で主様がお待ちです」

 感情がまるで篭もってないような声でそう一言言うと、元の立ち位置に戻っていってしまった。エレベーターに乗り、少しだけビルに入った時の緊張が解れたのかカナが溜息を漏らす。外の景色が一望できるエレベーターでは、どんどん街が小さくなっていく様子が見えた。隣でぽそっと感嘆の声が聞こえるのをそっと頬を緩めながら一ノ瀬はエレベーターが目的地まで着くのを待つ。『フロア70です』アナウンスと同時に扉が開くと、そこには一ノ瀬が前回も話した中年男性が立っていた。

「やあ皐月君。……と、こちらは先日言っていた最初の仲間の子かな? お疲れ様、二人ともこっちだよ」

 男はにこやかに二人を奥の部屋まで案内した。案内された部屋は窓が無く、少し薄暗くなっており、思わず「なんだここ」と一ノ瀬が零すほどだった。

「そちらのお方のお名前はカナ君であってるかな?」

 突然話しかけられることを想定しておらず、カナは肩をビクッと震わせてから「はい、そうです」と恐る恐る答えた。

「Rightが立ち上がったその日に入ってくれたそうだね、ありがとう。聞けば皐月君と親しいそうだね、皐月君の知り合いならばとても頼もしい」

 男がお辞儀をすると、慌ててカナも「こちらこそ」とお辞儀をする。

「まさかこんな早く駆けつけてくれる人がいるだなんて思わなくてね。暫く皐月君一人じゃ、と思って我々からも実はささやかな協力者を提供するつもりでいたのさ」

 カチッと何かの機器の電源を入れる音がした。途端薄暗い部屋は眩い光が走る。薄暗かった部屋は真っ白になり、一気に近未来的なその姿を現した。

「余計訳わかんねぇ! なんだここ!?」

 一ノ瀬が予想通りの反応をしたのか男はははと笑う。真っ白な空間に、1台のパソコンのようなものが置いてあった。男はそれをカチカチと慣れた手つきで操作すると、部屋の壁に白の長い髪を黒いリボンでひとつにまとめた血の気のない少女が映し出された。どうやらこの部屋ごとスクリーンのようになっているらしい。

「Iris、起きなさい。君の新しい上司だ」

 その少女は男の声を聞いて、ゆっくり目を開く。あくまで映像として映されている為か、生気は感じられなかった。

「要求、承認。只今より、こちらの人間をIrisの支えるべき者といたします」

 どこか機械的に話すその少女は、一ノ瀬たちの方に向き直すと、一礼をした。

「はじめまして、サー。私は対Criminal用兵器・開発コードネームIris。以後、お見知り置きを」

 何が起きてるのか理解できない二人を見兼ねて男が説明を添えるように話し出す。

「紹介が遅れてごめんね。彼女が言ったようにこの子は対Criminal用兵器。政府が開発したAIだ」

 AI。それは所謂人工知能。聞いたことはあったが、実際にこうして目の当たりにすると言葉も出ないものだった。しかも、見たところ唯のAIではないように見える。

「この子は学習すればする程それが身につくタイプの子でね。限りなくその感性は人間に近いから、私たちの中でも最高傑作と言える代物だよ」

「仲間ってまさか、このAIのことか?」

 男は「そうだよ」と微笑む。まさか仲間と言われてAIだなんて誰が思うだろうか。それに、上司だ仕える者だ言われても、AIへの接し方なんて知るはずも無い。

「基本は人と接するように話しかければIrisは答えてくれるよ。Irisが知識を蓄える意味でも、君たちにこの子を貸しだして沢山のことを教えて欲しいと思ってね。どうだい?」

 一ノ瀬はカナの方を見た。カナは一ノ瀬に全て任せる、といった様子で目配せをする。一ノ瀬はそれを見て意を決したのか、ひと呼吸して男の方に向き直る。

「喜んで承ろうじゃねぇか。こちらとしてもファミリーが増えるのは嬉しいしな!」

 男は笑顔で「ありがとう」と言うと部屋の外へ出ていった。

「今日の要件はこれで終了だから、皐月君たちはもう帰って貰って大丈夫だよ」

 その男に着いて行くようにして部屋を出た一ノ瀬たちにそう伝えて、「それじゃあ私は別の仕事があるから失礼するね」と忙しない様子で奥へ行ってしまった。残された二人は取り敢えずエレベーターまで向かう。どうやらAIが仲間に加わったらしい。が、あの男は何も端末らしきものも渡さなかった。あのスクリーンに映るのを見るに、どうやらあの子は電子内でないと移動は不可能そうである。どうやって会話するのか。姿がまず見えないのならば仲間といったところで意味はない。

「皐月、皐月。ちょっと、見て」

 隣でカナが驚いたような、慌てたような声を出す。「なんだ?」とカナが持っている携帯端末を一ノ瀬が屈んで見てみれば、一ノ瀬も「うお!?」と声を上げた。

「……何を驚いているのです?」

 そこには、先程の少女が映っていた。いや、いたと言った方が正しいだろうか。

「そうか……携帯なら確かに入り込めるよなぁ~」

 納得してひとり頷く一ノ瀬を横に、カナは画面の中の少女に向かって話しかける。

「貴方は画面の中だったら何処でも移動が可能なの?」

「はい。アクセス可能な機器でしたら大抵のものに潜り込むことが出来るようになっています」

 質問に対して無駄のない答えを返すその姿は、確かにAIのそれを感じさせられる。一ノ瀬は「おっと自己紹介してねぇな」と一言漏らすと、改めて軽く自己紹介を少女にした。

「俺は一ノ瀬皐月、こっちはカナってんだ。これからよろしくな、Iris」

「一ノ瀬様とカナ様。呼び方へ登録致します。……完了」

 何もかも機械的に返されてしまう返答に「んー、やりづれぇな」と頭をかきながら一ノ瀬は溜息をつく。

「Irisよぉ、そういう堅っ苦しいのは俺らファミリーの中じゃ無しにしねぇか?」

 ダメ元覚悟でそう言うと、Irisは首を傾げる。

「堅苦しい、というのを修正するにはどうしたらいいのですか?」

 一ノ瀬は「そこからか……」と頭を抱える。どうやら教えることは沢山ありそうだ。

「まずはその喋り方だな。了承、とか◯◯を登録、とか。機械的処理なんだろうがそういうのは口に出さないか、わかりましたとかそういう言葉の返事でいい」

 Irisは頷く。そして、早速言われた通りに「わかりました」と返事する。

「カナ、帰りながらIrisに質疑応答してやってくれねぇか。多分それが一番手っ取り早いだろ」

 カナは「わかった」と頷くと、早速「聞きたいこと、ある?」とIrisに向かって話しかけていた。いきなり難ありな仲間の加入だが、大きな助っ人になることは間違いなしである。知識は一ノ瀬とカナで補っていけば良いのだ。Rightが立ち上がって早一週間、既に一ノ瀬を入れて三人がRightの一員である。今のところ順調だ。一ノ瀬は何だかんだ満足そうにマスクの下で顔を綻ばせ、話をしている二人をひきつれて基地への帰り道を歩んだ。


*


「たのもう! Rightのリーダーの家はここであってるか!」

 早朝4時、一ノ瀬家の前で声を張り上げしっかりチャイムも鳴らす男がいた。Rightが成立してから4日。Irisが加入して以来初めて外部からの訪問客だった。

「……随分、早い時間から来るんだね」

 眠そうに目を擦りながらカナが扉の隙間から顔をだす。フードは意地でも外さないという意気なのか、パジャマらしき服の上にパーカーだけを羽織り、しっかりフードを被っていた。

「あれ、あんたがリーダーか? テレビで見た男とは大分こう……ちんまいな」

 それは貴方の身長が高すぎるせいだろう、と言いたそうな顔でカナはじっと目の前の青年を下から上まで一通り怪しいところがないか確認する。

「……リーダーはまだ寝てる。起きるまで話は僕が聞くから、入って」

 半開きだった扉を全開にし、カナが誘導するように部屋の中に手を向ける。「おじゃまします」と律儀にも一言呟いてその青年は中に入った。


*


 青年の目の前にこと、と暖かい紅茶が出される。余裕を持って座れば丁度四人家族が座れそうな四角いテーブルは、この目の前の子とリーダーで住んでいるにしては些か大きいのではないだろうかと青年は出された紅茶を啜りながらぼやっと考えた。青年がぼんやり虚空を眺めていると向かい側にカナが座る。

「貴方はRightに入りたいから此処へ?」

「おう! これなら俺にも出来るんじゃないかと思ってな」

 カナは青年を再度じっと見つめる。怪しいところは見たところ無いし、いやまあ、あると言えばこんな早朝に人の家を訪ねるということなのだが。それ以外の印象としては悪い人では無さそうである。褐色肌で恐らく190近くある身長、年齢共にひょっとしたら皐月より高いかもしれない、そんなことをまじまじ見ながら考えていたら青年から声がかかった。

「なあ、俺になんかついてるか……?」

 見れば少し同様をしている。初対面でこんなにまじまじと自分を見られては誰でも恥ずかしさは感じるだろう。カナは「ごめんなさい」と軽く頭を下げもう一度青年に向き直る。

「一応聞く……Rightに入りたい動機は何?」

「お金が欲し……いや! 正義に燃えているからだ!」

「……お金は?」

「欲しいです」

 一連の流れの後、カナはひと呼吸おいて、「まあ、もっともな動機だね」と納得する。決して納得するものではないと思うが。面接だったら割と即却下である。

「そういえば、名前は?」

「俺は本町春路。はるじと呼んでくれ」

 「はるじ」とカナは1回口に出してから「わかった」と了承の意を示す。

「本町春路、新しいメンバーとして新規登録します」

 「うお!?」とこれまた皐月に負けないくらいの反応を表す。カナの携帯の中から声を出すソレは本町も目の前で見るのは初めてだったのだ。

「毎回皆さん驚きますが、私も一応この場にずっといましたので」

 感情は相変わらず篭っていないように聞こえるが、初めて一ノ瀬達と対面した時よりは僅かだが憤りのような声を出していた。

「悪いな……あんたもRightの人か?」

 その少女は携帯の中から首を縦にふる。

「AIのIrisと申します。以後お見知り置きを」

 「世の中はこんなにもハイテクになったのか……」と本町はひとりぼやきながら携帯画面の中にいるIrisに向かってお辞儀する。

 「よろしくな、Iris!」

 その後に「あ」と小さく声を漏らし本町がまだ自分を案内してくれた子の名前を聞いていないことを思い出す。

「まだあんたの名前聞いてなかった……すまん、教えてくれないか?」

「……カナ。僕のことはカナと呼んで」

 「カナ! よろしくな!」と笑顔で元気よく言われてしまえば反応する他なく、表情はあまりないが小さく「よろしく」と返した。

「おお? こんな朝早くから客か!?」

 寝癖もそのままにやっと我が組織のリーダーが起きてきた。やっとと言えどもまだ朝の5時過ぎである。ここではこのリーダーが正常といえよう。

「あんたがテレビに写ってた一ノ瀬皐月か!」

 本町は一ノ瀬を見るなり深いお辞儀をする。まだ寝起きで事がよくわかっていないリーダーはカナの方を見て現状の説明を促した。

「Rightに入りたいって1時間前くらいにおしかけてきた」

 リーダーも来たしあとはよろしく、とでもいうようにカナは奥のキッチンに行ってしまった。

「随分とやる気がある兄ちゃんじゃねぇか」

 やっと現状を理解した一ノ瀬は先程カナが座っていた場所に腰掛ける。本町をカナ同様まじまじと見て、「よし合格」とにこにこしながら本町に告げた。どこら辺が合格に値するものだったのか本町にはわからないが、取り敢えずRightに入れてもらえるということは確定したようなので改めて「ありがとうございます!」と一礼する。談笑が始まった頃合にキッチンの方へ行っていたカナが戻ってきて一ノ瀬にはホットミルクを、本町にはおかわりの紅茶をカップにつぐ。「さんきゅ」と一ノ瀬はホットミルクをすぐ手に取りその温かさを堪能する。極度の寒がりである一ノ瀬は朝のこのホットミルクが一日の始まりと言っても過言ではない。本町も「ありがとな」とそれに習うように入れてもらった紅茶を再び口に運ぶ。気分は朝のティータイムといったところか。

「ところでよぉ」

 一ノ瀬はホットミルクを半分ほど飲み干してカップをコトンと置き、心底疑問だとでも言うように首を傾げて本町に尋ねた。

「やる気があるってのはわかったんだが、どうしてこんな早朝に来たんだ?」

 突如「ああ!?」と本町が立ち上がる。

「ばばば、バイト! すいません、俺これからバイトなんです……! 詳しい話は後ほど!」

 半ば叫ぶようにして言ったあと、1度お辞儀をして、風のような速さで一ノ瀬家を飛び出して言ってしまった。本町が非常識なほど早朝に来た意味はわかったが、ホントに非常識だった。普通入りたい組織の面接にも似た挨拶の日にバイトは入れないだろ、と携帯の中で様子を伺っていたIrisも含めその場の3人全員が思った。

「良いヤツではありそうだけどな~……」

 ぼそっと呟いた一ノ瀬のその言葉に2人は首を縦に降るばかりである。連絡先すら交換せずに飛び出されたものだからもう一度彼がここに来るのを待つしかない。またもや難ありな仲間の加入の予感であるが、素直にファミリーが増えるのは嬉しいようで一ノ瀬はマスクの下で喜びの笑みを浮かべていた。