【異形のサーカス】むかしむかしのおはなし

Ⴛ̅̀⇂ȷ̶˝ƕ₹な(´⊙౪⊙)۶ッッッィィィィイイイイヨッシャアアアアアアアァ!!!!🍄
@marine_menhely

ひっこし

多脚の少女と出会ってすこし経ったある日。

ふたりは別の牢に移された。

この前まで閉じ込められていたそれより、何倍も大きな牢だ。

彼女たちの軽い身体は乱雑に放り込まれる。

そして、ガチャン、という重苦しい、扉の閉まる音。

「…ウーン…ッ」

多脚の少女が身体を地面からひっぺがすとすぐ、多腕の少女が身体を寄せてくる。

「…クラい…こわイヨ…」

不安げに震える多腕の少女の肩を、抱いてさする。

「ダイジョウブだ。ダイジョウブ」

本当は自分だって震え出しそうなのに。不安で仕方ないのに。

それでも彼女は、親友のことを励まし続けた。


「「…!」」

ふたりの耳が、何かの音を受け取った。

ぺた、ぺたり…という、静かな、でもはっきりした音を。

「ッ!」

「ヤダ、ヤダ…、ヤダ、ヤダ……!」

「ダイジョウブだ、おちツけ」

泣き出しそうになるのを堪えながら、多脚の少女は、少し多い親友の手のひとつをぎゅっと握る。

「ダイジョウブだ、ダイジョウブ」

自分にも言い聞かせるようにして呟く。

ぺたぺた、という音が近づいてくる。

闇の中で、人影が揺れる。

声も出ないような恐怖が、全身を這い上っていく感覚。


ぺたり、と音が止まって。

「新入り…カ?」

そんな声が頭上から降ってくる。

「ひっ…!」

「…っ!」

ふたりの喉奥から短い悲鳴が漏れる。

しばらくして、また声がする。

「…コドモ、か」

さっきと同じ声がそう言うと同時に、その声の主の姿がはっきりと見えた。

猫背ぎみで、ガタイがいい。

頭は、スキンヘッド。

筋骨隆々とした男だ。

一見、普通の人間のかたちをしているように見える。

が、腕がヘンテコな形をしているのがわかった。

片腕だけが、異様に太い。

右腕だけ、別の人間…いや、別の大きないきものの腕を縫い付けたような、そんなようなかたちをしていた。


「…アンタらも、異形ジャねえか。」

低い声が言う。

「ッタク、奴らモ酷ェ事しやガるなぁ」

目の前の大男に、多脚の少女が問う。

「…オマエ、だれだ?」

目の前の大男は、吐き捨てるように言った。

「俺、ナマエ、無い」

「…ナマエが、ナイのカ?」

多脚の少女は、少し考えて。

ぱちん、と小さな手を打つ。

「じゃア、おれがナマエ、つけテやる!」

ウ〜ン、と彼女は悩むだけ悩むと、口を開いた。

「オマエ、きょうカら、『ギル』だ!」

「…『ギル』…?」

ぽかんとしたままの大男に、多脚の少女はにぃ、っと笑ってみせる。

「ダって、オマエ、つよそうじゃん!ギル、つよソウでオマエににアウとおもウぞ!」

「…『ギル』…かぁ」

大男は、呟く。

「悪かねェな」

牙のように鋭い八重歯を覗かせて、大男は笑う。

「気に入っタ!よシ、俺はギルだ!」


「…とこロで、アンタら、名前、何ダ?」

大男が言う。

「ア、ソウだ。おれタチのナマエ、いっテナイな」

ひとつ、咳払いをして。

多脚の少女は、幼くも凛とした声で言う。

「おれはココネ!んで、コッチが…」

ひょこ、と身体の後ろから出てきた親友の名前を紹介する。

「コッチが、ナツミ!おれの、シンユウ!」

にっと笑って、多脚の少女は拳を握って突き出す。

「ヨロシクな!」

大男は、一瞬驚いたような顔をして。

でも、すぐに白い歯を覗かせて、同じように拳を握って。

「おう!」

拳を軽くぶつけ合う。

「ホラ、ナツミも」

親友に言われ、戸惑いつつ、多腕の少女は少し多い手のひとつを差し出して、声を絞り出す。

「ヨロシク、おねがイしマス…!」

大男は、その手を握って上下に大きく振る。

「わわ…!」

「おう、ヨロシクな!」

「うわわ、い、イタイ…!」

「ア、すまん!スマンな」

「ハハ、ギル、チカラ、ちょっとつよすギだな!」


3人分の笑い声が、牢に響き消えた。

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