荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第10話 赤い悪魔【後編】1

 依然として喜びに沸く3人を尻目に、マディソンが口を開く。

「で、でもさぁ……弱点がわかっても肝心の居場所がわからないんじゃどうしようもないよ」

 水を差されたとでも思ったのだろうか、ニコラスは唇を尖らせる。

「そ、そうだな……。でもまぁ、それはいずれ何とかなるだろ! 有志たちが頑張ってるし!」

「な、何とかなるってだんな~! それじゃあ困るよ~もう!」

「んなこと言ったってしょうがねぇだろ、物事はなるようにしかならないんだから!」

「そりゃあそうだけどさぁ……」

 肩を落とすマディソン。すると、何かに気づいたジェーンが口を開く。

「ねぇ、ニコラス。さっきマディソンが『赤い悪魔がだんだんコッチに来てるみたい』って言ってたけど、今夜の巡回は繫華街の中心部を重点的にした方がいいんじゃないかしら?」

「中心部を?」

「えぇ。もし、赤い悪魔が事件を起こしながら“もっと人間が大勢いる場所”を探っているのだとすれば、次はきっとこの辺りで事件が起こるハズよ。……ま、これはあくまでも“推測”だけど」

「そうか……その可能性もあるな。よし、戻ったらモーガンたちと相談してみるぜ」

「えーっ!? じゃ、じゃあ早く今日のお買い物も済ませなきゃっ!!」

 ジェーンとニコラスのやり取りで不安に駆られたマリアは真っ青になりながら椅子から立ち上がると、さっさと買い出しへ向かう。そこへすかさず「買い物に行くのなら、自分のタバコもお願いします」と、死神は注文を入れた。

「あらら、行っちゃった。……昼間でも油断は出来ないわね、ニコラスもみんなも気をつけて」

「えぇ、あなたもね」

「あぁ~~、早く解決しますように。このままじゃあっしも心労で白髪だらけになっちまう」

「やっだ、アンタが真っ白になったらそれこそ“悪い魔法使い”じゃない!」

「うるさいよ!!」

 マディソンとジェーンのやり取りがツボに入ったのか、ニコラスは腹を抱えて大笑いし、死神も必死に笑いを堪えているのか両肩が震えている。……果たして本当に大丈夫なのだろうか。


***


 一方、繫華街――ジョーキッド出現の影響か、朝でもたくさんの人で賑わっていたメインストリートも、すっかり何の障害も無く快適に歩けるようになってしまっている。しかし、それでも他の町と比べればまだまだ活気はある方だ。

 その中を歩く女性――エミリー。依然としてその表情は暗い。時折、小さなため息をつく。

「あれから色々と考えたけれど……やっぱり、何も解決策が浮かばない。……どうしよう……お父さんに相談したって、350ドルもの大金……用意してもらえるハズが無いわ。……それも“殺された恋人の復讐の為”だなんて知ったら尚更……」

 どうやら、依然として良い金策は浮かんでいないようだ。

 1870年代に登場した大陸横断鉄道――輸送手段の発達と共に比較的扱いやすく丈夫な“羊”が新たな家畜として台頭してきたことにより、牛の価格が徐々に下がりつつある現在(1880年)――多くの牧場主が十分な利益を確保出来ずに悲鳴を上げている。

 無論、エマーソン牧場も決して景気が良いとは言えない状態だ。そんな中、いくら娘の為とはいえ、380ドルもの大金などすぐに工面出来るハズも無い。それはエミリー自身もよくわかっている――だが、それでもエミリーは諦められないようで、唇を噛んで必死に考え込む――と。

「きゃっ!」

「いでっ!」

 反対側から歩いてきた男にドンッとぶつかった。驚いたエミリーは咄嗟に顔を上げた。

「この小娘、どこ見て歩いてんだァ!?」

「ご、ごめんなさい! ……考えごとをしていて、ちゃんと前を見ていませんでした」

 エミリーがぶつかった背の高い初老の男。ここでは珍しい色眼鏡を掛け、ストライプ模様の綺麗なスーツ姿に葉巻を咥えている、町で見掛ける男とは違いかなり羽振りが良さそうだ。

「(うわ……この人、ハリー=ウィルソンに顔と雰囲気がチョット似てる……)」

 男の顔に青ざめるエミリーをよそに、男は不満気に腕をはたいている。

「チッ、男だったらこの火のついた葉巻を顔面に押しつけて殴り飛ばしてるところだ」

「ご、ごめんなさい……。わ、私、急いでるので、これで失礼しますっ」

 ペコリと頭を下げ、さっさと通り過ぎようとしたそのときだ、男に腕を掴まれた。

「おい待てよ。よそ見しながら人様にぶつかっておいて“詫び”も無しか? あァ!?」

「わ、詫びって――私、ちゃんと謝りました! だから放してくださいっ!」

 腕を掴む手を振り払おうとするも、男の力は強く容易に解けるものではない。

「謝っただァ~!? ごめんなさいで済んだら世の中、保安官なんか要らねェんだよ!」

「じゃあ、いったいどうしろと言うんですか!? 慰謝料でも支払えと!?」

 次の瞬間、男に顎を掴まれるとクイ、と持ち上げられた。

はした金・・・・なんか要らねェんだよ、こちとらバリバリの“凄腕投資家”だからな。むしろ金は掃いて捨てるほどある。――そうだな、よ~~く見るとお前“イイ女”だ。今日1日俺に付き合ってくれたら許してやる。……何ならこのまま俺の“愛人”にしてやってもイイぜ?」

「な、何ですって!? じょ、冗談じゃないわ! わ、私には――!!」

 “大切な恋人がいる”――男に言いかけたそのとき、エミリーの唇が止まった。

「……あ、……」

「あァ? ――大切な何だよ?」

「……、……」

 ロビンはもういない――エミリーはそれを思い出すと、大きな瞳を涙で潤ませる。

「? なに泣いてんだよ? ……あぁ、そうか。誰か“大切なヤツ”がいたがフラれたんだな? だったらちょうどいいじゃねェか、凄腕投資家の愛人になれば、この先“金に困る”ことは無い」

「お金……」

「そうだ。ドレスも宝石も、欲しいものは何だって買ってやるぜ」

「(そうだ……私は、彼の“復讐”をしなければならない……たとえどんな手を用いても、復讐の対価を、お金を集めなければ……! ……でも……そしたら……)」

 男が本当に“凄腕の投資家”であるのだとすれば、復讐の対価の残り350ドル出すのは容易いことだろう。しかし、承諾すればエミリーは男にその身を差し出さなければならなくなる――。

「で、どうするんだ小娘。俺に付き合うのか? 早く決めろよ、俺は気が短いんだ」

「うっ……」

 男と付き合うだけで350ドルが手に入るのなら――悪魔の囁きに耳を貸しかけたそのとき。

「オイ! そこのお前! いったい何やってんだ!?」

 突然響いた声に我に返ったエミリーは声の聞こえた方へ視線を向けると、そこにはダリスが。

「ダリスさん!」

「あァ? 何だテメェ?」

 ややあって振り向く男と視線がかち合うと、ダリスはその“顔”に思わず度肝を抜かれた。

「うわッ! ハリー=ウィルソン――じゃねェ。何だよ他人の空似か、驚かすんじゃねーよ!」

「あァ? なに言ってんだ。テメェが勝手に驚いたんだろうが」

「とにかく、その女から手を放せ。俺は保安官だ、 言うとおりにしねェと逮捕すんぞ!」

「逮捕だァ? ――ハッ、俺がいったい何したって言うんだよ?」

「女の腕を掴んで、どこかへ連れて行こうとしてんじゃねェか。――立派な“誘拐罪”だぜ」

「誘拐? 人聞きの悪いこと言うんじゃねぇ、この小娘が人様にぶつかっておいて詫びのひとつもねぇから、そのオトシマエつけてもらおうとしてたんだよ。それがイケナイことなのか?」

「そうだよ。少なくとも、俺とコイツ俺の銃は許さねェ」

 真剣な表情でそう言うとダリスはホルスターから銃を二挺抜いた。それを見た周囲がざわつき始めると、男もさすがにマズイとでも思ったのだろうか、舌打ちをしながらエミリーの腕から手を放すと黙ってその場を後にした。


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