荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第10話 赤い悪魔【後編】1

 トルカ町 某所 某時刻――。

 何年も使われていないであろう一軒の小さなあばら家。そこへ数人の死体を抱えたジョーキッドがやって来る。朽ちかけたドアを蹴り開いて中へ入ると、死体を放り投げた。

「ハァ、ハァ……ハァ…………」

 やはり死体を運びながら逃げて来た疲労は相当なもののようで、息も絶え絶えなジョーキッドは壁にもたれかかるとズルリと床に崩れ落ちる。

「ウゥ……つ、つかれ……た……。チョットだ、け……寝てから……喰おう……」

 虚しく転がる“食料”を横目に、ジョーキッドは静かに瞼を閉じた。隙間から月明かりが差し込むだけの真っ暗な室内には、ジョーキッドの微かな寝息と外で鳴く虫の声だけが響く――。

 賭博サルーンでダリスが言ったことはアッサリ当たった。ジョーキッドはトルカ町のどこかに根城を構えたらしい。考えるまでもなく、このあばら家を“拠点”として市街地へ行っては餌を狙い凶行に及ぶに違いない――獰猛なゴキブリ退治は一筋縄ではいかないようだ。


***


 翌日、いつもの酒場のいつもの席――新聞を広げる死神の表情は固い。というのも、死神も依然としてジョーキッドに関する情報を何も得られないままなのだ。

「フム、今度は賭博サルーンにジョーキッドが出現、銃乱射、か……」

 二階からマリアが降りて来て、続いてマディソンとジェーンが来店するとテーブル席はすぐにいつもの顔ぶれで埋まった。みんなが揃うのに気づくと、死神は新聞を畳んで傍に置いた。

「みなさん、おはようございます」

「おはようございます、先生!」

「おはよう、だんな! あとお嬢ちゃんも!」

「おっはよー! ねぇ、昨日も赤い悪魔が現れたんですってね! しかも賭博サルーンに!」

「えぇ、そのようですね。表が騒がしかったですから、予想はついていました」

「最初は郊外の牧場、次は西の住宅街、今度は繫華街の片隅――なんか、どんどんコッチに迫って来てるみたいでおっかないよなぁ……ああもう! 早く何とかしてもらいたいもんだ!」

「マリアは昨日も怖くて眠れなくって、おかげで目元に隈が出来ちゃいました……」

「本当よねー! 睡眠不足はお肌の大敵なのに! ねぇ死神、昨夜ニコラスから聞いたんだけど、アンタあの赤い悪魔の暗殺依頼受けたんですって!? なら、とっととやっつけちゃってよ!」

 それを聞いたマリアとマディソンは思わずガタッと椅子から立ち上がった。

「えぇっ!? 本当なんですか!? 先生!?」

「そうなの!? 死神のだんな!?」

「……。本当です。それから、さっさと倒せなど無理を仰らないでください。自分も仕事を遂行しに行きたいのはやまやまです、だが、肝心のジョーキッドの行動パターンが掴めない。標的の所在地や行動パターンが掴めなければ、殺せるものも殺せませんよ。そうでしょう?」

「あははっ! ま、それもそうよね~」

 そのとき、スイングドアが揺れた。入って来たのはニコラスで、いつもの席に固まる連中を見つけると歩み寄って来る。そして、別のテーブル席から椅子を拝借してくると腰を下ろした。

「よっ! みんなおはよう!」

「ニコラスさん、おはようございます!」

「あっ、ニコラスのだんな! ダリスは!? ダリスのヤツはもう大丈夫なのかい!?」

「ん? あぁ、あいつのことならもう心配要らねぇよ。今日から復帰だ」

 それを聞くと、マディソンは胸を撫で下ろした。

「まったく、ダリスのヤツ心配させやがって! 今度会ったら一発小突いてやらないと!」

「ハハハッ。……ところで死神、お前にひとつ情報があるぜ」

「情報? もしや“金の在り処”でも教えてくださるのですか?」

「そうさ。金は金でも歩く金塊――即ちジョーキッドの情報だ」

「首に掛けられた賞金が上がったというのなら結構です」

「昨日、賭博サルーンに現れたヤツは客たちを殺し、その死体を持って逃げたそうだ」

「死体を?」

「あぁ。その場で死体を解体して喰わなかったのは、一昨日の事件でモタモタしてたら敵に発見されるリスクが高くなるのを学習したからだろうと……つまり、ヤツはこの町のどこかに根城を構えた可能性がある。そう――誰にも見つからずに“安心して食事が出来る”場所を……」

「そして、その根城を“拠点”とし、腹が空けば市街地へ行って人間を襲う――と」

「そのとおり。しかし、肝心の根城がどこかまではまだわかっていない」

「この町には身を隠せる場所などいくらでもありますからね」

「そうさ。今日のミーティングでは有志たちの代表にも参加してもらって、巡回がてら“怪しい場所”が無いか調べてもらうことになったが……時間が掛かりそうなのは間違いないな」

「それがわかれば結構です。……後はジョーキッドが動き出す時間か……」

「そのことだが、牧場主のロータスが殺されたときは“昼間”だった。だが、一番最初の家畜殺害と一昨日の住宅街、昨日の賭博サルーンの事件はすべて“夜間”に起こった事件だ」

 ニコラスの情報を聞いた死神の表情が動いた。

「夜間に……。……そうか――ニコラス、あなた、今とても“良いこと”を仰りましたよ」

「えっ? 良いこと?」

 何か言ったかな? と、首を傾げるニコラスに死神は小さく頷くと、言葉を続ける。

「最初の事件でジョーキッドがずっと物置小屋に潜んでいたのを疑問に思っていましたが、何ということはない。あの男は“日中の強い日差し”に弱い――だからずっと隠れていたのだ」

「太陽の光……。――! そうか! だから“夜間”に事件が集中したのか!」

「えぇ。そしてあなた方保安官が物置小屋へ駆けつけドアを開けたとき、差し込んだ光に一瞬怯んだのは、ずっと暗がりに潜んでいたのもあるが、何よりも“太陽の光”が苦手だったことだ」

「じゃあ、その推測どおりだとすれば、あいつは昼間は動かない・・・・ということか!」

「そういうことになります。……ただし、自分の推測どおりであればの話ですがね」

 死神の的確な推理に微かな希望を見出したニコラスと女性陣が湧きたった。

「ヤツが動かない“昼間”が狙い目か……! よぉし、さっそくモーガンたちに報告だ!」

「さっすが死神! 冴えてるー!」

「先生すごーい!」

「みなさん、喜ぶのはまだ早いですよ。これはあくまでも“推測”に過ぎません」

「この中じゃマシな頭してるお前が言うんだ、たぶん当たってるよ」

「たぶんでは困ります。こればかりは確実に当たっていてくれなくては」


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