荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第10話 赤い悪魔【後編】1

 一方、レイン――先の通報者たちからの報せで男たちが慌ただしく動くのを横目に、娯楽区画からメインストリートへ入り、その先――住宅街へと向かってひた走る。

 と、そのときだ。「おーい! レイン!そんなに慌ててどこ行くんだー!?」

「えっ!? あーっ! お前ら!」

 呼び声に気づくと足を止める。レインの視線の先にはいつも一緒になってたむろしているチンピラ仲間数人の姿が――長い髪を結った体格の良い黒人の男、小汚いカウボーイ崩れの男、全身黒づくめのチャラチャラした金髪の男、灰褐色の髪に黒を基調とした恰好の目つきも態度も最悪の男、噛みタバコを噛みながら手の中でナイフを転がす派手な茶髪にスーツ姿の男。……良くも悪くもバラエティー豊かである。

 一度逃げたジョーキッドが再び現れたことで町中が嵐に包まれる中、いつもと変わらずに店の前に座り込んでくだらないお喋りをしている彼らもまた“お気楽”な人間の一部だ。

「なに真っ青になって走ってんだ!? 服の色と同化してて近くに来るまで気づかなかったぜ」

「そういうお前も肌も服も“真っ黒”で、夜になったらどこにいるのかわかんねぇぜウォルター。ひょっとしたら“殺し屋”の素質あるんじゃねぇのか?」

 レインのジョークがツボに入ったのか、黒人の青年ウォルターは腹を抱えて笑う。

「おっと、こんなくだらねぇ話してる場合じゃねぇ! お前ら、ヤバいことが起こったぞ!」

「何だよ!? やっと“イカサマ”が見破れるようになったのか!?」

「ちげーよバカ! 赤い悪魔が現れたんだよ! それもよりにもよってうちの店に!」

 チンピラたちは目を丸くしながら驚愕の声を上げると、互いの顔を見合わせる。

「赤い悪魔が!? 賭博サルーンに!?」

「うへえ! サイアクじゃねーか!」

「赤い悪魔って賭博すんのか? マジかよチョーウケる!」

「うるせぇ! ウケるのはお前の頭だよブラッド! ネジ全部取れてるんじゃねぇのか!?」

 レインのツッコミに、目つき最悪の男ブラッドもツボに入ったようで大笑いしている。

「だからさっきから妙に町の中が慌ただしいのかー!」

「保安官連中に任せときゃヨユーだよヨユー。それに有志の追跡隊だっているんだし」

「バッカ、保安官と有志だけでどーにかなる相手じゃねぇんだよ! とにかく俺はダリスを呼びに行かなきゃいけないんだ! じゃあな、お前らも早く家に帰った方がいいぞ!」

 仲間たちと別れて住宅街へ入ったレイン。それからややあってダリスの自宅に到着すると、ドアをノックして「おーい! ダリス! ダリスいるかーっ!?」と叫ぶ。

 少ししてドアが開いた――叫び声に悪態をつきながら顔を覗かせたのはダリス本人。

「あれ!? レインじゃねーか! いったいどうしたんだよ!?」

 友人レインの突然の訪問にダリスは目を丸くすると、急いでドアの外へ出て来た。

「大変だダリス! うちの店に赤い悪魔が現れやがった!」

「な、何だって!?」

「今、通報を受けた保安官連中が向かってる! それでダリスにも手を貸してほしいって!」

「わかった! すぐに行く!」

 レインから報せを受けたダリスは急いで自室へ戻り着替えを済ませて玄関へ――と、その途中、姉のレイチェルと鉢合わせた。

「ちょっとダリス、あんたどこに行くつもり!?」

「緊急の仕事だよ! 赤い悪魔が繁華街に現れやがったんだ!」

「仕事って、あんたまだ謹慎中でしょ!?」

「今はそれどころじゃねーんだよ! じゃあな姉貴、ちゃんと戸締まりしておけよ!」

「ああちょっとー! もう! ダリス、あんたも気をつけなさいよー!」

 慌てて出て行った弟に姉は唇を尖らせる。なんだかんだ言いながらも心配なのは変わらないらしい。一方、ダリスは自宅から繁華街の保安官事務所へやって来ると急いで武装を強化し、事件が起きた娯楽区画の賭博サルーンへ向かう――すると、ややあって野次馬の群れが見えてきた。

「どけ野次馬ども! 保安官だ!」

 野次馬たちを押し退けるとホルスターから銃を抜いてスイングドアの脇に身を寄せる。そして、恐る恐る隙間から中の様子を窺うと“意外な光景”がダリスの目に飛び込んできた。

「あれ!?」

 我が目を疑ったダリスは咄嗟に中へ飛び込んだ。激しい銃撃戦どころかすでに戦いは終わっていて、荒れ果てた店内には戦いの末に敗れたガンマンたちと逃げ遅れて銃撃戦に巻き込まれた客の死体が虚しく転がっている。だが、諸悪の根源・ジョーキッドの姿は店のどこにもない。

 そして、カウンターの前では先に到着していたモーガンたちと、無事だったらしいサルーンのマスターが鬼気迫る表情で話し合っている。そのとき、ニコラスは入って来たダリスに気づくと手を振って彼に声を掛けた。

「あっ! ダリス! ようやく来たか!」

「遅れて悪い! すっかりプライベートモードだったぜ! それよりジョーキッドは!?」

「見ての通り、俺たちが来たときにはすでにゴキブリジョーキッドは逃げた後さ」

「何だって!? 十八番の“死体の解体ショー”もしないでか!?」

「あぁ。……そのことなんだが、マスターから“奇妙な証言”を得ることが出来た」

「奇妙な証言?」

 ニコラスから顎で指されたマスターは暫し押し黙ると、おもむろに口を開いた。

「……赤い悪魔は銃撃戦が決着すると数人の死体を抱え、侵入して来た大窓から逃げて行った」

「死体を持って!?」

「そうだ」

 マスターに続き、モーガンもジョーキッドの予想外の行動に動揺を隠せない様子で口を開く。

「恐らく昨夜の件で“その場で死体を解体して喰っていては敵に発見されるリスクが大きくなる”と学習したんだろう。……まったく、大したもんだぜ」

「褒めてる場合かよ! ――死体を持って逃げたということは、あのヤロー町のどっかに“巣”を張ったに違いねェ! ヤバいな、早くその巣を見つけ出して叩かねェと!」

「あぁ、だが、町は広いし身を隠せる場所なんかクソほどある。……お手上げだよ」

「マイク! お前なに半分諦めてるんだよ! 町の住民たちも協力してくれている今だからこそ、何としてもジョーキッドを見つけ出して倒さなきゃいけねぇんじゃねぇか!」

「ニコラスの言うとおりだぜ。あのヤローをブッ殺さなきゃ死んだロビンも浮かばれねェ!」

「そうだが……、……」

「マイク!? お前そんなに“弱気”になって、いったいどうしちまったんだよ!?」

「何でもねぇよ。……連日の騒ぎでチョットだけ神経質ナーバスになってるだけだ。……俺は先に事務所に戻る。すまんが3人とも、後を頼んだ。……」


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