荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第10話 赤い悪魔【後編】1

「あーっ! チクショウ! また揃わなかった! ほら、次――」

「はい、アガリ~! お先に失礼~!」

「あ~っ! ずるーい! はい、次はあんたの番よ。早く引いて早く!」

「へいへい……ゲッ! ジョーカーだ! ……って、あ――言っちまった!」

「あははっ! あんたバカじゃないの~!?」

「うるせぇ! このクソ娼婦、俺にジョーカーなんか掴ませやがって。絶対許さねぇからな!」

「たかがジョーカーくらいでガタガタうるさいわよ。あんた欠陥住宅か何か?」

「俺は一等地の大豪邸だよ」

「はいはい。お詫びに後であんた同様しょぼくれた“ムスコ”も掴んであげるわよ」

「慰めるように優しく掴んでしゃぶってもらわなきゃ気が済まないぜ」

「しゃぶってほしければ“追加料金”出しな、一等地の欠陥大豪邸」

「生憎、出せるモンは溜まりに溜まった“精液”だけだ。――おっしゃ! アガリ!」

「えーっ! 何それサイアク!」

「お前らのくだらねぇ“シモ話”聞いてる俺らの方が最悪だよ。なぁ?」

「別にいいじゃない。第一、ここはそういうくだらないことを話しながら遊ぶ場所よ」

「キャー! さっすがねえさん! 惚れ惚れしちゃう~っ!」

「……。ケッ!」

 そのとき、客連中の後ろの大窓の外でゆらりと“影”が動いた。次の瞬間、ガラスを突き破って店内に何かが飛び込んで来た。

「うわっ!? な、何だ!?」

 大きな音と共に舞い落ちる破片の雨――真っ赤なロングコートと真っ白の長髪を靡かせるその“侵入者”は、先日、まんまと追っ手をまいて逃げおおせたジョーキッドだ。

「に、人間だ! 赤いコートの!」

 何が起こったのかまったく理解が追いつかず動揺する客たちをよそに、空で一回転しながら華麗に着地したジョーキッド。そして素早く立ち上がってホルスターから銃を抜くと、なんと客に狙いを定めて乱射し始めた。

「うわあっ!」

「きゃーっ!」

「ぐわっ!」

 無造作に撃ち放たれる凶弾に身体を貫かれた客たちがどんどん倒れていく。

「な、なんだコイツはーっ!?」

「お、おい! あ、アレ――手配書に描いてあった“赤い悪魔”じゃあないのか!?」

「な、何だって!? だ、誰か保安官を――うぐあっ!!」

「うわあああーっ! に、逃げろーっ!!」

「キャーッ! 誰か助けてーっ!!」

 突然のジョーキッドの“奇襲”に店内は大混乱に陥った。轟く銃声、阿鼻叫喚しながら逃げ惑う客、まさに地獄絵図だ。そんな中、居合わせた数人の賞金稼ぎたちが咄嗟に自分たちの席のテーブルをひっくり返し“盾”代わりにすると、ホルスターから銃を抜く。

「ひょーっ! 赤い悪魔だってよ! まさかこんなところでお目に掛るとはなあ!」

「飛んで火にいる何とやら――コイツを殺せば賞金の30万ドルは俺たちのモンだ!」

「あぁ――必ず首を取ってやるぜ! へヘヘ」

「おっと、そうはいかねぇ。あのクソゴボウ野郎は俺たちが頂くぜ!」

「んじゃ、誰が最初にヤツを殺せるか“競争”だ!」

「へヘヘ、望むところだ!」

 ジョーキッドの恐ろしさを知ってか知らずか、すっかり“ゲーム”感覚だ。賞金稼ぎたちはテーブルから顔を出すとジョーキッドに発砲――賭博サルーンが一気に“戦場”と化した。

「マスター! 生きてるか!?」

 発砲が起きたとき、咄嗟に物陰に身を伏せていたレインが四つん這いになりながら急いでカウンターの裏に回って、同じく身を伏せている店のマスターに声を掛ける。

「おおレイン、無事だったのか!? まったく、とんでもないことになったもんだぜ。お前はガンマンたちが戦っているうちに急いで保安官を呼んで来るんだ! 恐らく長くは持たない!」

「わかった! マスターはそのまま隠れてろよ!」

 銃撃が収まるタイミングを見計らって、何とか賭博サルーンから脱出したレインは急いで保安官事務所に向かい走って行く。しかし、ジョーキッドはなぜ依然として町中が警戒を強める中、“奇襲”というあまりにもリスクの高い手段を取ったのだろうか? やはり死神の言うように、ただの“ゴキブリ以下”のマヌケなのだろうか――? 謎は深まるばかりである。


***


 時を同じくして保安官事務所ではジョーキッドが現れたことをまだ知らない愉快な中年3人衆が応接スペースでコーヒーとつまみ片手にいつものくだらないお喋りに興じていた。しかし、次第に表が騒がしくなるのに気がつくと、ニコラスがソファーから腰を上げて怪訝そうに窓の外を窺う。

 ニコラスが窓の外を窺ってすぐにドアが開くと、血相を変えた男たち数人が飛び込んで来た。彼らは賭博サルーンにいた客連中で、中には銃撃で負傷したのだろう、苦悶の表情で腕を押さえる者も。

「あっ――おい、お前らいったいどうしたんだ!?」

「大変だ、保安官! 発砲だ! 例の“赤い悪魔”が賭博サルーンで暴れている!」

「何だって!? ジョーキッドが!?」

 男たちの話に、ニコラスの顔は青ざめ、モーガンとマイクも思わず立ち上がった。

「あのクソ野郎~! 寝静まった頃どころか起きているときに堂々と現れやがって! やっぱりゴキブリ以下のクソバカ野郎だ! それで、死傷者は!? 大勢いるのか!?」

「ああ、すでにもう何人も殺されている! たまたま店内に居合わせたガンマン数人が応戦してるが、ヤツらじゃあんな化け物に勝てるワケがねぇ! だから早く来てくれ!」

「正直俺らでも勝てるか危ういが……わかった! モーガン、マイク! 行くぞ!」

「あぁ! みんな、悪いが外を回ってる有志たちにもこのことを伝えてくれ! 何分、相手は凶暴な“肉食ゴキブリ”だ。俺たちだけで退治するのは骨が折れる。どうか頼んだぜ!」

「わかった! アンタらも気をつけろよ!」

 武装した保安官たちは現場の賭博サルーンに、通報者たちは町を回る有志たちの元へとそれぞれ駆けて行った。前回の事件から間も置かずに再び町に獲物を求めて現れたジョーキッド。保安官の威信を賭けて、今度こそあの残虐非道な“悪魔”を捕えなければならない。

 現場へ向かう道中、ニコラスが口を開いた。

「おい、ダリスも呼んだ方がいいんじゃないか!?」

「なに言ってんだ、あいつ今日の日が変わる頃まで謹慎中だろ」

「そうだが、今は“非常事態”なんだ。前倒しだよ前倒し」

「ニコラスの案に賛成だ。今はひとりでも戦力が欲しい」

「しょうがねぇな、じゃあその辺のヤツにひとっ走りして呼んで来てもらおう!」

「ここら辺に都合よくあいつのチンピラ仲間がいればいいんだが……!」

 そのとき、向こう側から見覚えのある男がこちらへ向かって走って来るのに気づいた。

「おい、あいつダリスの仲間じゃねぇか!? 名前は、ええと――」

「レインだレイン。二流賭博師!」

「あー、そうそう! 賭博師のクセしてイカサマもロクに見破れないマヌケ!」

「全部聞こえてんだよオッサンども! ちょうどよかった! ――店に、赤い悪魔が……!」

「あぁ、さっき客連中から通報を受けたよ。お前、ダリスんちの場所知ってるよな!? ひとっ走りしてあいつ呼んできてくれ! あいつは今日まで謹慎中だが、今はひとりでも戦力がほしい!」

「あぁ、わかった! オッサンたちは早く行ってマスターを助けてくれ!」

 レインはそのまま住宅街へと向かい走って行った。肩越しに彼を見送ると保安官たちはすぐさま前を向いて現場へと走り出す。果たして、ジョーキッドが逃走するまでに間に合うのか――。


5 / 13

著作者の他の作品

その場のノリと思い付きだけで書いた「荒野の死神」のハロウィンパロ。ただの...

舞台は17世紀ヨーロッパ。トランシルヴァニア公国の貴族「ギュスターヴ」の跡...