荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第10話 赤い悪魔【後編】1

 それから時は過ぎ夕方――真っ赤な夕陽に染まる繫華街は買い物や家路に向かう大勢の人たちで賑わっている。そんな中、保安官事務所では、昼間、ニコラスから報告を受けたモーガンたちが再び有志の代表を交えて今夜の巡回について話し合っている。

 男たちが真剣な面持ちで話し合う傍らで、ソファーに腰掛けるダリスはソワソワしていて何やら落ち着かない様子だ。しきりに窓の外を見つめている。

「もう夕方だけどレインとエミリー、まだかな……」

 待てど暮らせど現れる気配の無いレインとエミリー。ふたりともまだ仕事が片づいていないのだろうか――ダリスは壁に掛けられた時計を見る。

「おいダリス、何よそ見してるんだ。お前も真剣に話聞け」

 注意するモーガンに、ダリスは顔を背けたまま答える。

「よそ見しながら聞いてるから心配すんなよ。今夜は繁華街の中心部を重点的に回るんだろ?」

「そうだよ。なんだ、ちゃんと聞いてるじゃねぇか!」

「だから言っただろ? よそ見しながら聞いてるって。お前ボケてんのか?」

 同じくソファーに腰掛けるニコラスがテーブルの上に町の地図を広げると口を開いた。

「だんだんコッチに近づいて来ているというマディソンの言葉と、それに対するジェーンの提案は無視出来ないからな。――事実、赤い悪魔は日を追うごとに中心部に迫って来ている」

 地図には事件が起きた“日付”と“場所”が記されている。

「しかし、ジェーンの提案どおりに繁華街の中心部に人員を集中させるのはどうなんだ? 逆にジョーキッドが警戒して、どこか人のいない場所に移動して事件を起こす可能性があるぞ?」

「もちろん、それも予測している。だからこそ“可能な限り”集中させるんだ」

「……。上手く行くといいんだがな……」

 ニコラスの隣でため息を吐きながらそう零すマイク。昨晩からずっと沈みがちな彼の横顔を、モーガンとニコラスは無言で見つめる。

「そういえば代表、昼間の巡回はどうだった? ヤツが隠れていそうな“怪しい場所”は見つかったか?」

「むしろ怪しい場所だらけで皆目見当もつかない。とりあえず目に入った場所はすべて探ったが、赤い悪魔どころかネズミ一匹も見当たらなかったよ」

「……。……そうか」

 相変わらず目ぼしい収穫は無い――有志の代表もモーガンたちも落胆のため息をついた。

「クソッ、あの野郎……いったいどこに隠れてやがるんだ……!?」

「とにかく考えるんだ。……どこかに俺たちが“見落としている”場所が絶対にあるハズだ!」

「繫華街と住宅街、郊外以外で怪しい場所――うーん……どっかあったかなぁ……」

 必死に考えを巡らせるモーガンとニコラス。しかし、案の定何も浮かばないようでふたり揃ってウーウーと獣じみた唸り声を上げている。

 と――そのとき、ドアが勢いよく開くとレインが飛び込んで来た。しかし、その顔色はスーツと同じく“真っ青”だ。いったい何があったのだろうか?

「あっ! レイン! 遅かったじゃねぇか、首長くして待ってたんだぞ!」

「悪い悪い! なかなか店の中が片づかなくってさ!」

「それで、金は!?」

「そ、それが……。チョット、チョット表まで来てくれ! オッサン、一瞬ダリス借りるぜ!」

 レインは慌ててダリスの腕を引っ張ると、そのまま外へ引きずり出す。

「ど、どうしたんだよレイン!? ……。……ま……まさか、ひょっとして……!?」

 レインの様子に“嫌な予感”を感じたダリスの顔色がどんどん悪くなっていく。

「そう! そのまさかだ! ここに来る前、家で俺の今月の“給料”と博打で得た“分け前”ぜんぶ数えたら合計で300ドルだった。――そう、あと50ドル――あと50ドルだけ足りない・・・・!」

 予想外の展開にダリスは思わず悲鳴を上げる。

「何ィーッ!? ご、50ドル!? たった・・・50ドル!?!?」

「そうだよ! あとたった・・・50ドル足りないんだ! ――ど、どうしようダリスっ!」

「お、俺に言われても――マスターに言って何とか残りの50ドル借りられないのか!?」

「ムリだよ! 給料だって頭下げまくって何とか前借したんだぞ!? これ以上、貸してもらえるワケがない!」

「……。そ、そんな……――こ、ここまで来て金がわずかに足りないなんて……!」

「ダリス、お前、あと50ドル持ってないのか!?」

「持ってるワケねーだろそんな金! ……チ、チックショー……あと“チョット”ってところで……! もう死神もモーガンたちも新たな“情報”を得て、次の対策を練ってるんだぞ!?」

「ゴメン。……俺も何とか打開策を考えたんだけど、何も浮かばなくって――!」

「死神かモーガンたち、このどちらかが町のどこかに張られたジョーキッドの巣を見つけ出すのも時間の問題だ……クソッ! いったい……いったいどうすれば……!?」

 掴みかけた希望の光、しかし、あと一歩のところで届かず激しく落胆するダリスとレイン。

 復讐の対価・残り50ドル――タイムリミットが刻一刻と迫る。


第10話 赤い悪魔【後編】1 fin


13 / 13

著作者の他の作品

その場のノリと思い付きだけで書いた「荒野の死神」のハロウィンパロ。ただの...

舞台は17世紀ヨーロッパ。トランシルヴァニア公国の貴族「ギュスターヴ」の跡...