荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第9話 赤い悪魔【中編】3

 ロビンの死は保安官たちの心に深い悲しみと傷を残した。いつもミーティング中だろうが何だろうが、くだらないお喋りばかりしている3人も、今日だけはそんな気分になれないのだろう。淡々と業務連絡と報告、そして今日の仕事の段取りの話を済ませると、議題はダリスの処分へ――。

「それで、ダリスの処分についてなんだが……」

「モーガン」

「ん? 何だ? ニコラス」

「前以って言うが、これは俺個人の“意見”に過ぎない。……昨日、ダリスを怒鳴っておいてこんなことを言うのも何だが、俺はダリスが途中で離脱したのはラッキーだったと思っている」

「二、ニコラス!?」

「ニコラス、お前……!」

 ニコラスの口から飛び出した“予想外”の言葉に、モーガンとマイクは自分の耳を疑った。

「だってそうだろ!? ――いいか、ふたりとも。よく考えてもみろ、あのとき牧場で俺たち5人でジョーキッドと戦ってもあのザマ・・だったんだぞ!? ダリスが一緒だったところで何が変わる!? いや、何も変わらない。むしろ、死体が“ひとつ”から“ふたつ”になっていただけだ!」

「……。…………」

 普段なら真っ先にダリスを責め立てているであろうニコラスが、冷静な見解をしている。それだけで充分驚きだが、何よりも彼の言うことは真っ当だった。5人でも手こずった不死身の怪物相手に、たったふたりで勝てるわけがない。つまり、あのとき――夜道でジョーキッドと遭遇したその時点で、ロビンかダリス、はたまた両者の死は避けられないことだったのだ。

「……。確かに、ニコラスの言うことは尤もだ。たとえあのときダリスが一緒にいたところで、あのジョーキッドを倒せるハズがないし、あまつさえ余計に悪い結果を招いていただろう」

「だからといって、お咎め無しというわけにはいかない。……いかに相手が悪かったにせよ、あいつが任務を途中放棄したのは確かなんだ。その責任はきちんと負わせなければならない」

「わかってる。それに、こんなときにダリスにまで抜けられたら、俺たちは間違いなく過労死だ。あいつには“罰”として俺たち以上に働いてもらうんだよ。それこそ馬車馬のごとくな」

「……」

「ニコラス、お前の意見はよくわかった。……マイク、お前は今の話を聞いてどう思う?」

「俺はニコラスの意見に賛成だ。確かに、ダリス自身はどうしようもないバカだが、犯罪者の検挙数は目を見張るモノがある。それに射撃の腕も良い。あいつはこの事務所に必要な存在だ」

「……! マイク……!」

「モーガン、お前は? お前は今のニコラスの話を聞いてどう思った?」

「……。俺もお前らに賛成だよ。あいつは人としては“二流”だが、保安官としては“一流”だ。あとは掃除がもっと丁寧で、書類に書く字も綺麗だったら言うことは何もねぇ」

「掃除と書類の字に関しては、お前も人のこと言えねぇぞ。モーガン」

「そう言うお前もだよ、ニコラス」

 相変わらず容赦ないマイクのツッコミに3人はどっ、と笑った。

「――じゃあ、ダリスの処分については“全員一致”で間違いないな?」

「おう」

「じゃあ、ニコラス。そういうことだからお前、巡回のついでにダリスの家へ寄って通達してきてくれ。“自宅謹慎は今日で終わり。明日からまた事務所に出勤して死ぬほど働け”――ってな」

「わかった。じゃあ、さっそく朝の巡回行って来るぜ!」

 腰を上げたニコラスは準備を済ませると、さっさと事務所から出て行った。モーガンとマイクは閉るドアを見つめたのち、互いの顔を見合わせると微かな笑みを零しながら肩をすくめた。

「……ニコラスのヤツ、ダリスのこと本当に心配していたんだな」

「あぁ」

 ダリスの処分が決まったときのニコラスの顔は、とても安心していたように見えた。

「さてと……モーガン、俺も巡回に行って来るよ」

「なに言ってんだ、俺が代わりに行くからお前はここで茶でも飲みながら待機してろ」

「リハビリさ。……それに、ロビンの葬儀についてマディソンとも色々と話さなきゃならない。だいたい、今は非常時で人数もいないんだ。こんな時にのん気にしてられねぇよ」

「……」

「と、いうことで留守番ヨロシクな。スイートハニーの切れ痔と仲良くしろよ」

「フン、言われなくても切れ痔とは毎日イチャついてるぜ」

「おお、お熱くて羨ましい限りだ」

「熱々過ぎて既にケツから火を噴きかけてるよ。お前とニコラスが巡回から帰る頃には、事務所は地獄の業火に包まれて炭クズになってるだろうぜ。俺と一緒にな。はっはっは!」

「笑えねぇよバカ。じゃ、行って来る」


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