荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第9話 赤い悪魔【中編】3

「させん!」

 死神が撃ち放った弾丸がジョーキッドのペッパーボックスを弾くと、続けざまにニコラスのショットガンの散弾が彼の華奢な身体を貫く。

「ウガッ!!」呻き声を上げて床に倒れ伏したジョーキッド。――しかし、程なくして起き上がると、やはりまったくダメージを受けていないらしく、コキコキと首を鳴らした。

「――!!」

 ジョーキッドと一度戦ったニコラスには”想定内”であったが、弾をまともに喰らったのになぜか死なない・・・・ジョーキッドに、死神とジェーンは戦慄すると、額から冷や汗が一筋流れ落ちる。

「ど、どういうこと……!? ショットガンの弾をまともに受けて平然としているなんて!」

「確かに弾丸は身体を貫いた。……バカな、本当に“不死身”だとでも言うのか?」

「……そうさ。あまりにも現実離れし過ぎて、夜メシと昼メシが逆流しちまいそうだろ?」

 ジェーンは咄嗟にライフルの銃口を向ける――が、ニコラスがそれを制止する。

「……。……ヒ、ヒヒヒヒヒ……やめとけ、撃つだけ弾のムダだ。……オレは、そんなモンじゃ絶対に死なねェ……。今の見ただろ? オレはどういうワケか撃たれても“絶対に”死なねェんだ」

「世の中に“絶対”なんて無いわ。撃たれても死なないのというのなら、いっそのこと首を斬り落とせば死ぬのかしら? ねぇ? 赤い悪魔さん?」

「……“首を落とす”……。面白ェ、やってみろよ。……ただし、やれたら・・・・のハナシだけどなァ! ヒ、ヒヒヒヒヒ……! ヒャーッハッハッハッハッハッ!!」

やれたら・・・・? ――バカ笑いしてるところ悪いが、運命の女神は俺たちの味方だ。外を見てみろジョーキッド、この家は完全に包囲されている。逃げ場はどこにも無い」

 ジョーキッドはおもむろに振り返り窓の外を見る。確かにニコラスの言うとおり、外には灯火の大群が見える。

「……」

「いかにお前が不死身の怪物といえども、この人数相手に切り抜けることは不可能だ」

「そう。アタシたちを殺したところで、アンタは“袋のネズミ”であることに変わりないわ」

「さぁ! 大人しくお縄につけジョーキッド!」

「……、…………」

 銃口を向けながらにじり寄る3人、後退るジョーキッド。西部史上最悪の猟奇殺人鬼・赤い悪魔もいよいよ命運尽きたか――と、思われたそのとき、ジョーキッドは振り返ると銃を拾い窓から外へ飛び出した。

「! みんな、ジョーキッドが逃げたぞ! 捕らえろーっ!!」

 ニコラスの合図と同時に外で待機していたモーガンとダリス、住民たちが一斉に取り押さえようと声を上げてジョーキッドに飛び掛かる。だが、次の瞬間、ジョーキッドは大きく跳躍すると壁を蹴り屋根の上へと登った。

「何ィーッ!?」

「や、屋根の上へ跳び上がっただと!?」

「なんて跳躍力だ! あ、あのヤロー、本当に人間か!?」

「撃て! 絶対に逃がすなーっ!!」

 一斉に発砲するも、素早く屋根伝いに走るジョーキッドには当たらない。モーガンは舌打ちをすると、群衆を率いて逃げたジョーキッドを追う。こんな大騒ぎに発展させておいて、二度も取り逃がしたとあってはベテラン保安官の面目丸潰れだ。自分のプライドの為だけではない、これ以上の被害拡大を防ぐ為、殉職したロビンの為――何としてでも確保しなければならない。

 モーガンたちがジョーキッドを追跡する一方で、現場では残された死神とジェーンがジョーキッドの恐怖の余韻に浸っていた。

「……あれが、西部最悪の殺人鬼・赤い悪魔……想像以上の化け物だわ……」

「えぇ。弾丸を受けても死なないとなると、万が一暗殺依頼を受けても遂行するのは難しい」

 想像以上の怪物っぷりに改めて震撼するふたり。その傍らで、ニコラスはジョーキッドが喰い散らかした夫婦の無惨な亡骸を沈痛な面持ちで見つめていた。

「……」

 たったひとり生き残った彼らの娘、ルーナの今後が心配なのだろう。その表情は暗く重い。

「……、……くそっ! ……俺たち保安官が不甲斐ないばかりに……。すまねぇルーナ、パパとママを喰っちまったあいつをやっつけてやるって約束、守れなかった……」

 砂にまみれた裸足で、涙で目を真っ赤にしながら歩いて来たあの小さな姿を思い出すと、やるせなさで熱いものがこみ上げてくる。そして、感情を抑え切れなくなったニコラスはその場にへたり込んでしまった。

「ニコラス……」

「……」

 すすり泣く彼の後ろ姿を、ふたりはただただ見つめることしか出来なかった。

「……。ジェーン」

「何?」

「赤い悪魔はまた現れるはずだ。今のうちに新たな“対策”を講じるべきです」

「対策、ね……。そんなもの、あの化け物相手じゃその場しのぎにもならないわ」

「ですが、諦めて何もしないよりはマシでしょう?」

「そうね。……対策ついでにあの怪物を“倒す方法”も探さなきゃならないわ」

「えぇ。赤い悪魔・ジョーキッド=ザ=ハートイーター……あの男には謎が多過ぎる。だが、この世に“不死身”の生物などあり得ない。……必ず息の根を止める“方法”があるはずです」

「……。何だか、悪い夢を見ているようよ」

「……。夢などではない。……すべて紛れもない“現実”だ」

 独りそう呟くと、死神は静かに窓の外を見つめた。地上を照らす満月が、妖しいまでに輝いている。――そしてこの日、モーガンと住民たちによる大追跡劇も虚しく、ついに何処かへ逃亡したジョーキッドの行方を掴むことは出来なかった。


***


 〔“保安官大失態。住宅街に現れた赤い悪魔を二度も取り逃がす”〕

 翌日、町中に配達された新聞の一面にはさっそく昨日の事件のことが掲載されていた。事務所でコーヒー片手に一面を読んでいたモーガンは渋い顔をすると、新聞をデスクに叩きつけるように置いた。

「何が“大失態”だ。俺たちの苦労も知らずに、批判だけはいっちょ前だな」

 モーガンの言うとおり、ジョーキッドの恐ろしさは捕り物に参加していた人間たちにしかわからないだろう。何も知らない人間が頭ごなしに批判をするのは容易い。

「モーガン! モーガンはいるか!?」

 呼ぶ声と共に中に入って来たのは、怪我で入院しているはずのマイクだ。

「マイク! なぜここに!? 退院はまだまだ先だろう!?」

「ロビンがジョーキッドに殺されたって聞いて、慌てて勝手に退院して来たんだ!」

「……。……、…………」

「モーガン、それで――ダリスのヤツはどうしたんだ……?」

「……、ダリスは一応自宅謹慎させている。……まだ、正式な処分は決めていない」

「……。そうか……、……」

「…………」

 場に漂う重い空気を切り裂くように、続けてニコラスが入って来た。

「あれ、マイク!? ――お前、何でここに!?」

「ニコラス……ロビンが、ロビンが……殺されたって聞いて……――」

「……。…………」震えるマイクの声に、ニコラスも俯くと目に薄っすらと涙を溜める。

「……マイク、ニコラス、ふたりとも座るんだ。そろそろ朝のミーティングを始めよう」


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