荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第9話 赤い悪魔【中編】3

 一方、ジョーキッドを捜し手分けして民家を当たるジェーンと死神。しかし、当たる家はどこもこれといった収穫は無いようで、合流したふたりは残念そうに首を横に振り、ため息をつく。

 すると、そのとき。適当に辺りを見回していたジェーンが遠くに人だかりを見つけた。

「ねぇ! 死神、あそこ! 人だかりが出来てるわ!」

「おや、何事でしょうか」

「わからないけど、行きましょう!」

 ふたりは大急ぎで駆けて行くと、住民たちに声を掛ける。

「ねぇ、みんな! 赤い悪魔は!?」

「ん――あぁ、ジェーンか。赤い悪魔はこのアビントン家に侵入したらしい! 娘が目撃したそうだ。で、今、ニコラスがひとりで中へ入って行った!」

「ニコラスが中へ!? あのバカ、ひとりで突入するなんてムチャにも程があるわ!」

「ジェーン、我々も行きましょう」

「あら死神、アンタ見物だけするんじゃあなかったの?」

「えぇ、より近くでね」

「あはは! 怖いもの知らずもここまでくると立派な才能ね。わかったわ、行きましょう」

 笑い合うと、ジェーンと死神も中へ入って行く――と、そのとき。入れ違う形で向こうから要請を受けた増援が到着した。その中には、モーガンと放心状態だったダリスの姿も。

「おーい! ジョーキッドを見つけたってのは本当か!?」

「あぁ! このアビントン家に。――今、ニコラスとジェーン、死神が中へ!」

 思わぬ人物の名に、モーガンは驚愕の声を上げた。

「な、何で死神までいるんだよ!?」

「そんなの知るかよ。誰か暗殺依頼でも出したんじゃあないのか?」

「でも、って――ガキの使いじゃねぇんだぞ……」

「いいじゃないか別に。相手はあの赤い悪魔だ、むしろおあつらえ向きだと思うぜ」

「そうそう、それに万が一死んだってよそ者だ。俺たちには関係ない」

「まぁ、そりゃあそうだけどよ。……いったい、何がどうなってやがるんだ??」

 その頃、家の中へ突入したジェーンと死神。ふたりはホルスターから銃を抜くと警戒しながら辺りを見回す。不気味に静まり返ったこの家のどこかに、赤い悪魔・ジョーキッドが潜んでいるのだ。決して油断は出来ない――と、そのときだ。二階から下りて来たニコラスと鉢合わせた。

「あれ!? 死神にジェーン!? お前ら、何で――」

「しーっ!」

「おっと」咄嗟に口を塞いだニコラスはキョロキョロと辺りを見回す。

「……お前ら何でここにいるんだよ? 特に死神」

「ただの見物です」

「そうかよ、見物料は高くつくぜ」

「アタシは助けに来たんだからね」

「それよりも、赤い悪魔は?」

「二階と屋根裏にはいなかった。となると、残りはここ一階だ」

「……向こうから微かな物音と、人の気配を感じます」

「向こうはリビングだ。――と、いうことはあの野郎はディナーを終えてソファーに腰掛け優雅にくつろいでるってことか。イイ御身分だぜ。……クソったれめ、ロビンの敵を討ってやる!」

「ニコラス、気持ちはわかるけど決して先走るんじゃないわよ。さ、行きましょ」

 3人は慎重な足取りでリビングに向かうと、ニコラスが壁際から中の様子を窺う。その後ろでは、ジェーンと死神が臨戦態勢に入る。

「! いた! ――あの野郎!」

 ニコラスの視線の先――ジョーキッドがふたつ目の死体の解体を終え、抉り取った心臓を喰らっている真っ最中だった。周囲はおびただしい血とばら撒かれた臓物で目も当てられない状態になっているが、今の怒りに燃えたニコラスの目にその“惨状”は映っていない。彼の瞳に映っているのはただひとつ。――大切な仲間を殺した憎い相手・ジョーキッドだけである。

「……ロビン……!」ニコラスの脳裏に今日のパーティーで幸せそうに笑っていたロビンとエミリーの姿が過ると、ジョーキッドに対する“怒りと憎しみ”が一気に頂点に達し大爆発した。

「うおおおおおっ! ジョーキッドーーっ!!」身を出したニコラスが怒りの咆哮と共にジョーキッドにショットガンの銃口を向ける。

「!」

「バカ、ニコラス! 先走るなって――」

 ジェーンの制止も虚しく室内に強烈な破裂音が響いた。しかし、ショットガンの弾はジョーキッドに当たらなかった。そう、ニコラスが引き金を引くよりも一瞬早く、ジョーキッドは回避行動に移っていたのだ。

「ウガアアアアアアーーッ!!」

 ニコラスの発砲に怒ったジョーキッドはホルスターから銃を抜くと撃ち返してきた。ニコラスは咄嗟に壁際に身を隠し、飛んでくる弾丸を回避する――この発砲を皮切りに、両者の間で“銃撃戦”が勃発した。

「! 銃声だ!」

 響いた銃声に外で待機する住民たちがどよめく。――ニコラスの怒涛の追撃にさすがのジョーキッドも怯んだのか、咄嗟に近くの三人掛けソファーに身を隠した。

「チッ! 撃たれても死なない不死身の化け物のクセしていっちょ前に隠れやがって」

「バカ! このバカ! 何で撃つのよ!? 先走るなって言ったでしょ!?」

「うるせぇ! 我慢ならなかったんだよ!」

「このスカタン! 猪突猛進! 無鉄砲!」

「なんだとコラーッ! この怪力ゴリラ女!」

「おふたりとも、夫婦喧嘩なら後になさい!」

 所かまわず喧嘩を始める夫婦を仲裁すると、次は死神が壁際から身を出しジョーキッドに弾丸を撃ち放つ。ジョーキッドはソファーを盾に飛んでくる弾を防ぎつつ死神に反撃。死神も壁際に身を隠し、飛んでくる弾を回避――銃撃戦ならではの一進一退の攻防が続く。

「チッ……このままでは埒が明かない!」

「一斉攻撃してジョーキッドを追い込もう。増援が家を包囲しているハズだ!」

「そうね、このままでは弾を無駄に消費するだけだわ!」

「では、自分とニコラスが行きます。ジェーン、あなたは後方支援をお願いします」

「OKよ!」

「よし、行くぞ! 一発でキメるんだ!」

 ニコラスと死神は弾を装填し、ジェーンはライフルを抱える。一方のジョーキッドも弾が切れたようで弾切れに気づくと、流れるような手つきでペッパーボックスの“銃身”を取り外し、予備の弾を装填する。

 ニコラスが攻撃しようと顔を出したその瞬間、ナイフが1本、彼の頬をかすめて後ろの壁に突き刺さった。突然、飛んできたナイフにニコラスは呻き声を上げて怯むと再び身を隠す。

「ニコラス! 大丈夫!?」

 傷口から滲んだ真っ赤な血が、流れ落ちる涙のようにニコラスの頬を伝う。

「クソッ! そういやあの野郎、銃の他に“投げナイフ”も持ってたんだった! くっそー、俺の“ハンサムフェイス”に傷がついちまった。これじゃカワイ子ちゃんたちにモテねぇぜ」

「しかし、このまま隠れていても状況は変わらない。危険を承知で行くしかない」

「へッ、簡単に言ってくれるな。一回でナイフ3本も刺された俺の気持ちがお前にわかるか?」

「わかりませんね」

「だろうな、お前に人の気持ちがわかったら、殺し屋なんて“汚れ仕事”やってねぇだろうよ。――いいか、ふたりとも、1・2・3で行くぜ」

「えぇ、わかったわ」

「構いません」

「よし。――行くぜ。……1……2……3!!」

 合図と同時にニコラスと死神が飛び出すと、ジェーンもすぐ後に続く。攻撃しようと顔を出したジョーキッドは突撃してきた3人に気づくと、素早く立ち上がりその銃口を向けた。


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