荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第9話 赤い悪魔【中編】3

 夜の繁華街。ジョーキッドを捜して蠢く灯火の群れの中を、死神はコートを靡かせながら進む。真っ暗闇でも多少の灯りがあれば十二分に見えるのだろう、猛禽類に匹敵する彼の漆黒の瞳は、人波に紛れながら遥か遠くを歩くジェーンの後ろ姿をハッキリと捉えると、目標に向かってまっすぐ駆け出して行った。

「ジェーン」

 追いついた死神は肩を叩く。ジェーンは振り返ると、驚きで思わず口を塞いだ。

「死神!」思わぬ人物の登場に、ジェーンの顔が綻ぶ。

「アンタは来てくれたのね! さっすが~!」

「フフ、タマ無しと罵倒されて黙っているわけにはいきませんよ」

「あはは! せっかく来てくれたのにこんなこと言うのは申し訳ないけど、アンタは絶対に来ないと思ってたわ」

「今回は“見物”するだけですよ。まだ正式に暗殺依頼を受けていませんからね」

「でも、万が一攻撃されたらそのときは戦うんでしょ?」

「もちろん、自分もまだ死にたくありませんから。――それで、赤い悪魔は」

「まだ見つかってないわ。……住宅街は広いから、きっとまだ捜しきれていない場所があると思う。こうして繁華街を捜しているのも、住宅街からここに来てる“可能性”もあるってだけよ」

「……。ジェーン。赤い悪魔が“民家”に潜伏している、という可能性は?」

「いいえ、さすがに民家までは……」

「先日の事件では、現場のすぐ脇にある“物置小屋”に潜んでいたそうですね。逃走した赤い悪魔が未だ発見されていないということは、人がいる家に侵入している可能性が大いにある」

「――!」死神の助言に、ジェーンはハッとした。

「……。言われてみればそうだわ……どうして、今まで“それ”に気づかなかったんだろう」

「民家を当たりましょう。どこかに“いるなずなのに連絡が取れない”家が必ずあるはずです」

「えぇ、急ぎましょう!」


***


 一方、住宅街。依然捜索を続けるニコラスは逸る気持ちを抑えながらも、必死に辺りを見回して不審者の影が無いかを探る。住民たちにも協力を要請し、大捜索を始めてからかれこれもう十数分が経つが、一向にジョーキッドの足取りは掴めないままだ。

「ダメだ。隠れて過ごせそうな場所もぜんぶ探ったが、やはりどこにもいない!」

 やはり、大勢の住民たちが自分を捜しているのに感づいて、町の外へ逃げてしまったのだろうか? しかし、あのジョーキッドが人間を恐れて逃げたりするとは到底考えられない。むしろ、獲物が向こうからたくさんやって来て、願ったり叶ったりだろう。

「……銃を向けられたって平気な顔をして向かって来るような、イカレ野郎なんだ。逃げるワケがない――きっと、きっとまだこの住宅街のどこかにいるハズだ……!」

 折れかけた心を奮い立たせ、引き続き捜索に当たろうとしたそのとき、向こうから幼い少女がひとり、泣きながらこちらへ歩いて来るのが目に入った。靴は履いておらず、裸足のままだ。

「……あれは、子ども? 何でこんな夜にひとりで?」

 不審に思ったニコラスは少女の元へ駆け寄ると、声を掛けた。

「お、おい――こんな夜に、ひとりでいったいどうしたんだ!? 両親――パパとママは?」

 ニコラスの質問にも、少女はただただ泣くばかりで答えようとしない――いや、答えようとしない、というよりも“答えられない”と言った方が正しいのかもしれない。

「泣いてばかりじゃ俺もどうすることも出来ない。答えてくれ、お前のパパとママは?」

「……、……パパと、ママは…………」

「あぁ――パパとママは、どうしたんだ!?」

「……、真っ白な……髪の毛の、赤い服を着たヘンなの・・・・に食べられちゃったああああっ!!」

「――!! な、何だと! 赤い悪魔――!」

「うわああああん! パパーっ! ママーっ!」

「なんてこった……また、あの野郎の犠牲者が……!」大泣きする少女の傍らで身震いを起こすニコラス。しかし、これは重大な手掛かりであると同時にまたとない好機だ。もし、この好機を逃せばまた次の犠牲者が出ることになりかねない。

「お前の名前は!?」

「ルーナ。……ルーナ=アビントン」

「アビントン……確か、町の銀行の職員だ。ルーナ、住所――お家の場所は!?」

「えっと、あっち……」

「――よし、大至急行くぞ! ルーナのパパとママを喰っちまった赤いヘンなのはこのオジ――おにいさんがやっつけてやる、だから安心するんだ。いいな?」

「……うん、ありがとう。お巡りさんのおじさん」

「“オジサン”じゃなくて“おにいさん”だ。さぁ、行こう! ルーナのお家まで!」

 被害者夫婦の娘・ルーナを抱きかかえると、ニコラスは第二の現場となったアビントン家へ駆けて行く。果たして、ジョーキッドが逃走するまでに間に合うか。事態は一刻を争う。

 ルーナのしどろもどろな案内で、若干もたつきながらも何とか現場へ到着したニコラス。すると幸運なことに、彼がやって来たとほぼ同時に向こう側から他の住民たちもやって来ると、家の前で合流する。

「おーい! お前たち~!」

「あっ、ニコラス! 赤い悪魔は見つかったか!?」

「いや――だがさっき、向こうでこのルーナに出会って話を聞いたんだが、どうやら赤い悪魔はこのアビントン家に侵入し、夫婦を殺して喰ったらしい!」

「何だって!? ア、アビントンが……!」

「あぁ、ヤツはまだのん気にディナーを楽しんでいる真っ最中かもしれない。俺が先陣を切るから、お前たちはヤツの逃走に備えて家を包囲してくれ。あと、ついでにこの子のことも頼む」

「あぁ、気をつけて! ――おい、誰か繁華街へ行ってもっと応援を呼んで来てくれ!」

 ルーナを住民たちに任せると、ニコラスは単身、家の中へ突入して行った。


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