荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第9話 赤い悪魔【中編】3

 一方、保安官事務所。そろそろふたりが戻って来る頃だろうと見計らったモーガンとニコラスが巡回の準備を済ませる。そこへ、先ほどジョーキッドと遭遇した男女が駆け込んで来た。

「保安官! 保安官はいるか!?」

「ここにいるよ。いったい何事だ!? 事件か!?」

「ああそうだ、すぐに来てくれ! じゅ、住宅街に殺人鬼がいる! 」

「何だって!? 殺人鬼!?」

「さっき巡回中の保安官にも話したけど、髪の長い不審者が女の腹を切り裂いて、内臓を引きずり出していたのよ! 早く何とかしてちょうだい! 怖いし気持ち悪くて敵わないわ!」

 ふたりからの情報に、モーガンとニコラスは驚愕した。

「何だと!? 髪が長くて、内臓を引きずり出す……!」

「モーガン! 間違いない、ジョーキッドだ! あの野郎、まさか本当に生きてやがったとは~! ったく、なんてこった……崖から落ちたってのに、ゴキブリ以上にしぶてぇ野郎だ!」

「巡回中の保安官にも話した、ということは、ダリスとロビンが現場へ行っているハズだ! 急いで武装を強化しろニコラス! 俺たちもふたりの応援に行くんだ! ったく、前の戦いから無事生還出来たばかりなのに、とことんツイてねぇぜ! 何だ? 今年は厄年か?」

「いや、俺たちが巡回中の保安官と会ったとき、保安官はひとりだけだったよ」

「何だって? もうひとりはどうしたんだよ!?」

「そんなの俺たちが知るもんか。それより早く行って殺人鬼を捕まえてくれ!」

「クソッ! 何がどうなってんだ……おい、ニコラス行くぞ!」

 更なる準備を済ませてモーガンとニコラスが事務所を出ようとしたそのときだった。出入り口で賭博場帰りのダリスと鉢合わせた。

「ダリス!」

「あれ!? どうしたんだよモーガンにニコラス、そんな重装備で? 戦争にでも行く気か!?」

「そうだよ! 住宅街で勃発した“第二次赤い悪魔戦争”に行くんだ!」

「――!! あ、赤い悪魔だって!?」

「それよりお前、何でひとりなんだよ!? ロビンと一緒じゃなかったのか!?」

「えっ――そ、それは……、……。…………」

「ダリス! 黙ってねぇで何とか言え!」

 ニコラスの剣幕に押し黙っていたダリスは、重そうに口を開く。

「ロ、ロビンとは賭博場の前で別れたんだ。……どうせ、今日も何も無いと思って――」

「なっ……!? このバカ野郎!!」

 ニコラスの本気の怒号に、ダリスの肩が跳ねた。――ここにきて、ダリスはようやく“事の重大さ”に気がついたようで、その顔からはどんどん色が失われていく。

「ミーティングでモーガンに『二人一組で行動しろ』って言われてただろ! ダリス、お前がバカなせいで、今、ロビンはたったひとりでジョーキッドと闘っているんだぞ!」

「……。……、……ロビン……」

「ニコラス、お説教は後だ。ダリス、とっとと準備しろ! ロビンの応援に向かう!」

 ダリスは俯き唇を噛むと、すぐに顔を上げて中へ駆け込む。そして、急いで戦いの準備を済ませると事務所を飛び出し、矢のように住宅街の方へ走って行った。そのすぐ後をモーガンとニコラスも追う。

 暫くして事件現場の住宅街に到着した3人。辺り一帯を見回すが、人の姿はどこにも見られない。それどころか、人の声も、発砲音も何も聞こえない。いったい、ロビンとジョーキッドはどうなったのだろうか。

「嫌に静かだな……本当にこの辺りで事件は起きたのか!?」

「あのふたりの顔色を見ても虚偽だと思うか? 固まっていても仕方ない、手分けして捜そう」

「クソッ! ……ロビン……!」

 散開してふたりを捜そうとしたそのときだ。ダリスが遠くに何かを見つけた。

「ん、――おい! ニコラス! モーガン! あれ!」

 ダリスが指差す先を注視するふたり。月明かりに照らされたやや遠い場所で“何か”がふたつ横たわっている。その周囲には、数羽の鳥もいるようだ。

「何だ、ありゃあ……?」

「俺が見て来る。ふたりはここで待て」

 ニコラスとダリスに指示を出すと、モーガンは慎重に地面に横たわるものの傍へ歩み寄る。

「――!! ……あ……」

 “それ”を確認したモーガンは戦慄すると、思わず手で口を塞いだ。

「……、…………」

 モーガンが見たもの、それは血溜まりの中に沈むロビンの“惨殺死体”だった。歴代の被害者同様、腹を大きく切り裂かれ、辺りには引きずり出された内臓が散らばっていて血の臭いに誘われて来たのであろうカラスがそれを啄んでいる。その傍らには“同じ方法”で殺害された女性の死体。そして、ふたりの胸には“銃創”がひとつ。これが致命傷になったに違いない。

「……、……ロビン……」

「モーガン!」――駆け寄って来るニコラスとダリスを、モーガンは「来るな! ふたりとも!」と、声を上げて制止する。

「モーガン……!?」

「見るな!――いや、見ないでくれ! ……、……ふたりとも……酷い亡骸だ……」

「ふたりとも、って……じゃ、じゃあ、もうひとつの死体は……――!?」

「……、……ロビンだ。――腹を裂かれ、内臓を引きずり出されている」

「!!」

 モーガンの言葉を聞いたニコラスとダリスに激震が走った。そして、あまりのショックでダリスは後退り持っていた銃を地面に落とすと、無言でガクリと膝から崩れ落ちていく。

「ロビン……。間に合わなかった……クソッ!!」

「……、……。――! 待て、ジョーキッドは!? あいつはいったいどこへ!?」

「女とロビンを殺して喰らったあと、どこかへ消えたと考えるのが妥当だろう。しかし、15年前たった一晩で集落を全滅させた食欲の権化が、たかが人間ふたりで満足するとは到底思えない」

「ということは、まだこの辺りをうろついてるかもしれねぇってことじゃねぇか! なんてこった、ヤバいじゃねぇか! 早く見つけ出して何とかしねぇと、また犠牲者が出るぞ!」

「ああ。――ダリス!」

 ダリスにも呼び掛けるものの、彼は依然として地に両膝をついて俯いたままだ。ニコラスは傍へ寄って片膝をつきダリスを揺さぶると「おい、ダリス! 聞いてんのか!?」と、彼に声を掛ける。だが、ロビンの死のショックでニコラスの声が届いていないのか、ダリスから返事は無い。

「ダリス、立て! ジョーキッドを捜すぞ! まだ付近をうろついてるかもしれない!」

「……、……」

「おい! 聞いてんのか!?」

「……俺のせいで、俺のせいで……ロビンが……死んだ……、……殺された……」

「ダリス、しっかりしろ! 落ち込むのは後だ、今はジョーキッドを捜すんだ!」

「……」

 ダリスはすっかり打ちひしがれてしまったようだ。顔色は最悪で、ブツブツと聞き取れない程の小さな言葉を延々と漏らす唇と身体は耐え難い精神的ショックで震えている。……この様子では、モーガンたちと一緒にジョーキッドを捜すのは不可能だろう。


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