荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第9話 赤い悪魔【中編】3

「……じゃあ、今度こそ俺たちは行くよ。まだ巡回も残っているからな」

「あァ。……ロビンの為にも、俺がしっかりしなくっちゃあな。……じゃあ、ふたりとも、また明日――事務所で会おう。……必ず……必ず行くから」

「あぁ、じゃあな。――あっ」

 帰ろうと振り返ったふたりが声を上げた。向こうから、買い物かごを持ったエミリーがこちらに向かって歩いて来る。俯き加減で歩を進めるエミリーはまだ、自分を見つめるニコラスたちの視線に気づいていない。

「ダリス! エミリーが向こうから来るぞ!」

「えっ!?」

 ふたりの声に同じく俯き加減のダリスが顔を上げる。――間違いない、あのピンク地に赤い水玉模様のワンピース姿の女性は紛れもなくエミリーだ。やはり最愛の人・ロビンを喪った心の傷は大きく深いのか、その表情はとても暗くて重い――痛ましくて見ていられない程だ。

「エミリー!」

 ダリスは咄嗟にエミリーに声を掛けた。エミリーは声に気づくと顔を上げる――が、ダリスの顔を見た途端、一気にその表情を強張らせた。

「出掛けてたのか、俺、ロビンのことでお前に話が――」

「来ないで!!」

 駆け寄って来るダリスを拒絶するように、エミリーが声を荒らげる。エミリーの気迫にダリスは気圧されたように肩を震わせると、足を止めて彼女の目の前に立ち尽くす。

「……、……」

「いったい……、……いったい“何を”しに来たんですか?」

 そうダリスに問い掛けるエミリーの声は“怒り”に震えている。

「……。謝りに、来たんだ。……あのとき、俺がロビンをひとりで行かせちまったから、あいつはジョーキッドに出くわして、そして殺された。……だから、事の当事者として、俺は――」

「私に謝ったところで、死んだロビンは帰って来るんですか!?」

「――!」

 ダリスを見据えるエミリーの瞳から哀しみの涙が滲むと、一気に溢れ出す。

「ダリスさん……私、そこにいるニコラスさんから聞いたのよ? 昨夜のこと……。……あなたが、あのときロビンから離れないで一緒にいてくれたら……彼は、彼は死なずに済んだんですよ!? ――どうして? ねぇ、どうして彼をひとりで行かせたりなんかしたのよ!?」

「……、俺は……」

「エミリー、それは違う! ――いや、こいつが軽率な判断をしてロビンをひとりで行かせちまったのは事実だ。だが、相手は不死身の怪物で、仮に一緒に行ったとしても――」

「言い訳なんて聞きたくないわ! ……やっぱり、あなたのせいでロビンは死んだのね……!」

「……」

「この人でなし! ロビンを、私のロビンを返してよーーっ!!」

「!!」

 エミリーの悲痛な叫び声と同時に、乾いた音が辺りに響いた――。

「……、――はっ!」

 音が響いてすぐにダリスは我に返った。――目の前には、唖然とした様子で赤く染まった頬を押さえるエミリーが。そう、エミリーの言葉に激昂したダリスは思わず彼女を平手打ちしてしまったのだ。

「……、……」

 ダリスはエミリーを叩いてしまったその手と、叩かれて茫然とする彼女の顔を交互に見ると、自分の“やってしまったこと”に気がついた――そして、心の中をグルグルと巡る“やり場のない感情”に目を見開き、強く唇を噛み締めると、逃げるようにその場から走り去ってしまった。

「ダリス!! ――エミリー、大丈夫か!?」

「……、…………」


***


 繁華街の路地裏――。ダリスは声にならない叫びを上げながら何度も拳で壁を殴っている。一心不乱に壁を打ち続けるその拳は激しく傷つき、溢れ出た血が滴り落ちる。

「何で、何で俺はエミリーを叩いちまったんだ!? あいつは何ひとつ“間違ったこと”なんか言ってねェじゃねェか! ――そうだよ、俺のせいであいつは、ロビンは死んだんだ! 俺が、俺がどうしようもなくバカなせいでッ!!」

 滲んだ涙で前が見えなくなると、ダリスは壁を打つのをやめてその場にへたり込んだ。

「……、……俺の、俺のバカヤロォ~~……ッ!!」

 ダリスにとって、打ち付けた拳の痛みよりも、エミリーを叩いてしまったことの“痛み”の方がずっとつらいのだろう。そして、心の奥底からこみ上げてくる激情を抑え切れなくなると、ダイナマイトが爆発するかのごとくダリスは叫んだ。

 誰もいない孤独な路地裏で激しく慟哭し続けるダリスの脳裏に、ロビンとエミリーの顔が浮かんでは消えていく。――トルカを覆う血濡れの悪夢に、果たして“終わりの時”は来るのだろうか。


第9話 赤い悪魔【中編】3 fin


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