荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第9話 赤い悪魔【中編】3

「ニコラスさん、行っちゃった……」

「ねぇ、死神のだんな。ロビンが死んだことにダリスが関係してるってどういうことだい? ……ま、まさか――ダリスのせいでロビンは死んじまったってこと……!?」

 マディソンの問い掛けにも、死神は口を噤んで答えようとしない。

「グレイシーくん!!」

「だって、そうでしょ!? あのふたりもさっき『ダリスは今、自宅謹慎中のハズだ』って言ってたし! ……きっと、いつもみたいにロビンのことすっぽかして自分はどっか遊び行っちまったに違いない。あのダリスなら、あり得ないことじゃないよ! まったく、あいつイイ歳して本当にバカだ! バカ過ぎるっ!」

「……グレイシーくん……」

「葬儀屋さん……」

 友人の犯してしまったであろう取り返しのつかない“過ち”に情けなさと怒りで両手で握り拳を作ると、バンッとテーブルを叩いて俯くマディソン。そんな彼を心配そうに見つめるフィリップとマリア。一方、ふたりを尻目に死神はグラスを傾け口にわずかな量の酒を含んで味わうと、小さく音を立てて飲み込んだ。


***


 場所は変わりトルカ町の郊外――ジョーキッドによる第一の殺人事件の現場となったロータス牧場の反対側に位置する小さな牧場・エマーソン牧場。敷地を囲う柵の前ではダリスが悩まし気に右往左往している。どうやら死神の読みどおり、彼はエミリーに“謝罪”をしに来ていたが、事の当事者としてどう言葉を掛けたらいいのかわからず、深く思い悩んでいるようだ。

「おい、ニコラス! あそこ! あそこでウロウロしてるヤツ!」

「あぁ! 間違いない、ダリスだ! ――悔しいがあの野郎死神の言うとおりだった。おーい! ダリス! ダリスーっ!」

「――! ニコラス、と、マイク……?」

 ふたりはダリスのところまで駆け寄ると、彼の脳天に一発ずつ鉄拳をお見舞いした。

「いっでェーッ!?!? い、いきなり何しやがるんだクソオヤジどもっ!!」

 頭を押さえながら叫ぶダリス。間髪入れずにニコラスが彼の首に両手をかける。

「このバカ! バカ! クソバカ! 自宅謹慎中なのに何でフラフラしてんだよぉ~!!」

「ぐええええっ、し――死ぬ、死んじまう……!!」

「あぁ! お前みたいなどうしようもないバカはとっとと死んじまえ~!!」

「おい、ニコラスやめろ! それ以上絞め上げたら本当に死んじまうぞ!」

 ダリスの首を絞めながらガクガクと揺さぶるニコラスを、マイクが間に割って入って宥める。

「マ、マジでし、死ぬかと思った……。ふ、ふたりしてここまで何しに来たんだよ……」

「今日のミーティングでお前の処分が決まったから、報せに来たんだよ」

「……そうかよ。で、俺の処分は何だ? 絞首刑か? 火炙りか? それとも車裂き刑か?」

「全部だよ――と、言いたいところだが違うんだな。……ダリス、お前への処分は次のとおり。“明日から通常どおり事務所へ出勤して、馬車馬のごとく働くこと”――以上だ」

「えっ……――」

 まったく想定外の通告に、ダリスは驚きのあまり言葉を失った――自分の軽率な判断のせいであんな事態を引き起こしてしまったのだ、絶対に“懲戒処分”だと思っていたようだ。

「……、……な、何で……!?」

「何で? そんなの決まってんだろ。今、保安官事務所は致命的に人手不足だからだよ」

「ハリー=ウィルソンから賄賂貰ってた連中いただろ! 使うならあいつら使えよ! 俺は――」

「バカ! あんなヤツら使えるか! それに、あいつらならハリーが死んですぐに住民たちからの要求で、昨日ひとり残らず町から追放されたよ。まさか、そのこと知らなかったのか?」

「今、知ったよ」

「と、いうことで今日で謹慎は終わり――明日からまた事務所に出て来いよ。俺も、マイクも、モーガンも――みんなでダリス、お前が来るの待ってるからな!」

「……、…………」

 あまり納得がいっていないようで複雑そうな表情をしながら俯くダリス。そんな彼をふたりは激励でもするかのようにバシバシ、と、無言で何度も何度も肩を叩いた――。

「さ、処分の通告もしたし帰るぞダリス。一応、お前はまだ“謹慎中”なんだからな」

「今、今日で終わりって言ってたじゃねェか」

「バカ! 今日の“日付が変わった頃に”終わりだよ」

「……。いいよ、ふたりは先に帰ってくれ。俺、エミリーに会わなきゃ。……俺がバカなせいでロビンは死んじまったんだ。せめて、あいつに会ってひと言“詫び”を入れなきゃいけねェ。……たとえ許してもらえなくてもいい。俺のしたことは絶対に許されることじゃないのは、俺自身が一番わかってる」

「……ダリス……」

「…………」

 マイクとニコラスは互いの顔を見合わせる。きっと、これ以上説得したところでダリスの意思は動かないだろう。それならば、いっそ彼の思うままにさせた方がいいのかもしれない。

「わかったよ。じゃあ、エミリーと話をしたら寄り道せずにまっすぐ家に帰れ。いいな?」

「あァ、約束するよ。……ニコラス、マイク……ふたりとも、世話かけて悪かった」

 珍しく素直なダリスに、思わずふたりの背筋が凍った。

「よせよ、柄にもないこと言うの。気持ち悪ぃ!」

「ニコラスに同意。ダリス、お前は素直よりクソ生意気なバカの方がお似合いだよ」

「……。ケッ! 何だよ! 俺だってな、落ち込むことくらいあるっつーの!」

「ハハハッ! そりゃそうだな! こんなことがあっても平然としてたら、プッツンしてブン殴ってるところだ。……いいか、ダリス。気をしっかり持てよ。ジョーキッドは町から消えたわけじゃない。――今までと同じく、町のどこかで鳴りを潜めているだけに過ぎない」

「そうさ。天国のロビンだってきっとこう言ってるぜ――『僕が死んだことでウジウジしてる暇があるなら、みんなと力を合わせてジョーキッドを、僕の仇を討ってください』ってな」

「……!」

 マイクから掛けられた言葉に救われた思いなのか、ダリスの瞳に今まで失われていた“光”が戻り始める。――マイクの言うとおり、いつまでもロビンの死を嘆き、下を向いているわけにはいかない。彼の為にも、ジョーキッドを倒して町に真の平穏を取り戻さなければ――ダリスは自らを奮い立たせるように強く拳を握った。


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