荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第9話 赤い悪魔【中編】3

 フィリップが酒場へ入り店内を見回すと、思ったとおり奥の席に死神とその仲間たちが固まっているのを見つけた。連中の姿を確認したフィリップは、やや早歩きでテーブルへ歩み寄る。

「あら、フィリップじゃない!」

 フィリップに気づいたジェーンが手を振ると、続いてマリアとマディソンも手を振る。

「みなさんどうも。……昨夜、使用人から住宅街に赤い悪魔が現れたと聞いて……。まったく、父の悪政から解放されたばかりだというのに、とんでもないことになったものです……」

「本当だよ~! あっしなんか昨夜は怖くて全然眠れなかったんだから!」

「マリアも、怖くて眠れなかったです……うぅ……」

「アタシたち、今、赤い悪魔を倒す“方法”をみんなで話し合っていたところよ」

「赤い悪魔を、ですか!?」

「えぇ。――昨夜、自分とニコラスとジェーンは民家に潜んでいた赤い悪魔と戦いました」

「な、なんですって!? それで、結果は……!?」

「倒せていたら今頃、新聞の一面を華々しく飾ってるわよ」

「……。そ、そうですよね……でも、みなさんが無事で本当によかった……」

「まぁ、ロビンは死んじまったけどさ……。ねぇ、葬儀にはだんなも出るんでしょ?」

「う、うん。……マーティスくん、エマーソンさんと正式に婚約が決まったって聞いて、僕も嬉しかったのに……。正直、今でも彼が亡くなったなんて信じられないよ……」

「うんうん、恋人とあんなに幸せそうだったのに。――ところで、ダリスのヤツは大丈夫なのかねぇ? ロビンが死んじまったショックで憔悴しきってるって聞いたけど……」

「……。そういえばロットマンくん、今日はまだ姿を見ていないな。……大丈夫かな」

「あいつなら大丈夫だよ」突然、後ろから声を掛けられたフィリップは驚きで跳び上がると振り返る――そこにいたのは、マイクだ。

「マ、マイクさん!」

「よう、数日振り。ったく、俺を差し置いて野外パーティーなんか開きやがって~。死ぬまで根に持つからなこの野郎」

「あ、あはは……す、すみません……」

 ふと、マイクはテーブルに目をやったそのとき――マリアの隣のジェーンと目が合った。

「あっ……」

「お、お前――! ジェーンじゃねぇか! ――い、いつ帰って来たんだっ!?」

「……。今から4日前……レストランで発砲事件が起きた日よ」

「なっ……!? よ、4日前だと!?」

「……」

「この野郎、4日も顔を見せないで……! ジェーン、お前、チョットこっちへ来い!!」湧き上がる怒りで身体を震わせるマイクは怒号を発した。

「――! ……」

 マイクの気迫に肩を震わせたジェーンは気まずさで俯き、唇を噛んでおもむろに席を立つと、マイクの傍へ――と、次の瞬間、店内に乾いた音が響いた。

「あっ――!」

「マ、マイクさん! な、何も叩かなくても……!」

「うるさい! ――このバカ! ……お前が町を飛び出してから今日までの3年間、親父とお袋――そして俺とニコラスがどんなにお前のことを心配したかわかっているのか!?」

 マイクの叱責にジェーンの目頭からじわじわと涙が溢れると、頬を伝い零れ落ちる。

「……、……。……ごめんなさい、兄貴……。これはニコラスにも言ったことだけど、アタシ……どうしても……黒い蠍が許せなくって……! ダニエルの仇を討ちたくって……!」

「……。もう、ダメだと思っていた。俺も、ニコラスも、親父とお袋も……。賞金稼ぎ、テキサス・レンジャー、私立探偵――今までに数えきれない程の人間が黒い蠍のメンバーとその本隊を追って荒野の果てへと行った。……しかし、生きて帰って来た者は誰ひとりとしていない」

「……」

「……、ジェーン、よく……よく無事に帰って来てくれた。今すぐ実家に行って、親父とお袋に頭下げて来い。どうせお前のことだ、あのふたりにもまだ顔を見せてないんだろ?」

 マイクの問いかけにジェーンは黙って頷くと、涙を拭って店を後にする――黄土色のポンチョを靡かせて出て行く妹の後ろ姿を見送ると、マイクも鼻を啜り死神たちへとその視線を向けた。

「悪かったな、みっともないところを見せて」

「お気になさらず」

「それでさっきの話だが、ダリスは明日には現場復帰するよ。だから心配は要らない」

「そ、そうかい? それならいいんだけど……」

「……ロットマンくんもだけど、エマーソンさんのことも心配です。……恋人のマーティスくんがあんなことになって、すごく悲しんでいるに違いない」

「…………」

 しんみりする一同。そのとき、勢いよくスイングドアが開くとニコラスが入って来た。

「あっ、ニコラスのだんなだ。おーい、だんなー!」

「おお――って、あれ!? マイクまでこんなところで何してるんだ!?」

 意外な顔ぶれにニコラスは目を丸くすると駆け寄って来る。

「何って、休憩しに来たんだよ。俺、まだ病み上がりなんだぞ。お前こそ休憩か?」

「違うよ。今、必死こいてダリスのバカを捜してるんだ」

「何だって? あいつは今、自宅謹慎中で家にいるハズだろ!?」

「それがレイチェルに訊いたら出掛けてるって」

「な、何だって!? あんのクソバカ野郎~! ――あ、痛てててて………!!」

 思わず胸を押さえるマイク。どうやら、傷に響いたらしい。

「おい大丈夫かよ!?」

「だ、大丈夫だ。それより、あいつが行きそうな場所は当たったのか?」

「あぁ。最有力候補の賭博場にはいなかった。たむろしてたチンピラ仲間たちに聞いても、今日はまだ会ってないって。となると、後は酒場かと思ってここまで来たんだが……」

「あっしたち、ずっとここにいたけどダリス来てないよ? ねぇ?」

「えぇ」

「他の酒場は? 当たってみたか?」

「あぁ、念の為、当たってみたが収穫ナシだ。――あのバカ、見つけたらとっちめてやる!」

 苛立ちで鼻息を荒くしているとふいに「ニコラス」と、死神に声を掛けられた。

「あぁ? 何だよ死神」

「ロビンさんの恋人の方……エミリーさんのご自宅などは当たりましたか?」

「いや。……そもそも何で今、エミリーが出てくるんだよ?」

「あなたとマイクさんの話から自分が勝手に想像するに、ロビンさんの死にはダリスさんが少なからず関係している――そうではありませんか? だとすれば、彼は謝罪のひとつでもしに、彼女の元へ出向いているはずです。尤も、ダリスさん――彼に“自責の念”があればの話ですが」

「――! そうか! 死神、お前たまにはイイこと言うじゃねぇか!」

「灯台下暗しとはこのことだ。ニコラス、さっそく郊外のエマーソン牧場へ向かおう」

「あぁ! 死神、戻ったら酒奢ってやるぜ! じゃあな!」

 死神の助言を聞くや否や、ニコラスとマイクは矢のように店から飛び出して行った。


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