荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第9話 赤い悪魔【中編】3

 一方、巡回がてら処分決定の報告をしに住宅街にの一角に建つダリスの自宅へと向かったニコラス。ドアをノックすると、程なく開いて若い女性が顔を覗かせる。彼女はダリスの姉だ。

「あら、ニコラスさん」

「よっ。ダリスのヤツはいるか? ……仕事のことで、チョットな」

「あぁ、あのバカから事情は聞いているわよ。……あいつのせいで、助手の方には本当に申し訳ないことをしたと思っているわ。……本当に、どう償ったらいいのか……」

 当事者の親族として罪悪感に苛まれる女性に、ニコラスは首を横に振ると言葉を掛ける。

「……いいや、あれは遭遇した相手が悪かったんだ。もし、あのとき――ダリスが離脱しないでロビンと一緒にいたら、間違いなくダリスも殺されていた」

「……。あんなバカ、代わりに殺されちゃえばよかったのよ。小さい頃から悪さばかりして私やお父さん、お母さんを困らせて。今回のことだって、私たちがどんなに心を痛めたことか」

「そんな言い方はないだろ? 確かにあいつはバカだけど、お前の弟じゃねぇか」

「弟だなんて思いたくもないわよ、あんなヤツ。……そういえば、ダリスのことだったわね。あいつ、今、出掛けてていないわよ」

「出掛けたぁ!? 自宅謹慎中なのに!?」

「あいつが他人の言うことなんて聞くと思うの? 私たちの言うことだって聞かないのに」

「あ、あんのバカ~! ど、どこ行くとか聞いてるか!?」

「さぁ? どうせ賭博場か酒場じゃない?」

「クソッ! ――あ、ありがとなレイチェル! あまり気を落とすなよ! じゃ!」

 ダリスのあの性格から考えて、命令を守り家で大人しくしているわけがないと予想はしていたが、まさか本当に不在だとは……ニコラスは姉・レイチェルから聞いた“ダリスが行きそうな場所”へと駆けて行く。

 繫華街の一角・娯楽施設が並ぶ地区へやって来たニコラス。さっそく普段ダリスが出入りしている賭博場に入ると、キョロキョロと店内を見回す。そして、店の奥に並ぶビリヤード台の隅で綿埃のようにたむろするダリスのチンピラ仲間数人を発見すると、彼らに歩み寄り声を掛ける。

「おい、そこのお前ら!」

「あ? 何だよ保安官、俺たち今日はまだ何も悪いことしてねぇぞ!」

「これからするのかよ? おい、それよりもお前らダリス知らねぇか!?」

「知らねぇ」

「今日はまだ会ってねぇよ」

「何だよ? アイツとうとうクビか!? ハハハ! チョーウケる!」

「残念、逆だ。ダリスの手も借りたいくらい今ウチ事務所は忙しいんだよ」

「ハリー=ウィルソンから賄賂貰ってたヤツら全員切ったツケ・・だよ」

「そうそう」

「あのジジイもあんな連中に金渡すくらいなら、俺らにくれって話だよ」

「バーカ! お前らに金を渡すのなんか、ドブに捨てるのと同じだよ」

「なに言ってんだ、俺らは“未来ある若者”なんだぜ。オッサンと一緒にすんなよ」

「その日暮らし同然のクセしてなーにが未来ある若者だよ。未来のこと考えてんなら、こんなところに入り浸ってないで今からマジメに働けスカタンども! ……そうか、ここにはいねぇのか。だとしたら、後は酒場か? ったく、ビアホールを含めて町に何件あると思ってんだ」

 絶対にいると思われていた賭博場にはいなかった。他に可能性があるとすれば、やはりメインストリートにある一番大きな酒場だろう。ニコラスは舌打ちをすると、賭博場を後にした。

「ダリスの大バカ野郎~! 謹慎中なのにいったい何考えてやがるんだ!? ……いや、何も考えてねぇか」


***


 一方、時を同じくしていつもの酒場のいつもの席。死神とその仲間たち(マリア・マディソン・ジェーン)がテーブルを囲み静かに酒を飲んでいる。昨夜の赤い悪魔・ジョーキッドの事件の影響で、いつも住民たちの笑い声で溢れていた酒場の空気は一変、ひどく張り詰めている。

 空気が変わったのは何も店内だけではない。町の道端では旅人や住民たちが凝り固まって新聞片手にジョーキッドの話題で不安そうに揺れていて、酒場の前では壁に貼られた“手配書”に賞金稼ぎたちがハイエナのように群がっていて、ちょっとした騒ぎになっている。

「おい見ろよ、赤い悪魔だってよ」

「“歩く金塊”がとうとうこのネバダにも来たって感じだな」

「賞金30万ドルだってよ、一生暮らせるじゃねぇか」

「毎日、ウマイ酒飲んでイイ女と遊べるぜ」

「あぁ、不死身の怪物だか何だか知らねぇが俺が見つけ出してブッ殺してやるぜ!」

「お前も狙うのか!?」

「当然だろ。だって30万ドルだぞ30万ドル」

「マジかよ!? お前も命知らずだなぁ! 今までに赤い悪魔を追って何十人もの賞金稼ぎが散ったってのに! ――あ、そういえば聞いたか? 黒い蠍ブラック・スコーピオンの賞金がまた上がったの」

「知ってるよ。確か“一味全体”で70万ドルに上がったんだろ? とんでもねぇよなぁ」

「さすがに黒い蠍は無理だろ。他の犯罪集団とは規模が違うぜ規模が」

「そうそう、ジェームズ一味も真っ青を超えて“深緑色”だよ」

「ヤツらのヤバさはある意味、赤い悪魔以上だ。賞金云々の前に関わらねぇ方がいい」

「やっぱり、金塊の山を手に入れるのにはそれ相応の“リスク”が伴うってことか」

「そういうこった」

 そして、酒場から3件離れた宿屋では観光客たちが大慌てでチェックアウトを済ませている。伝説にもなっている西部史上最悪の猟奇殺人鬼が現れたとなれば、町から逃げ出したくなるのも無理はないだろう。……どこもかしこも、ジョーキッドの出現でパニックに陥っている。

「まずいことになったな……。長年に渡る悪政からようやく解放されたばかりなのに」

 酒場の前の騒ぎをやや遠くから見つめる人がひとり――フィリップだ。

「このままではトルカを訪れる人が減って、町の経済が大打撃を受けてしまう。……何とか策を講じなければ。しかもタイミングも悪いことに、秋のキャトルドライブが近い……」

 キャトルドライブ(ロングドライブ)とは、西部開拓時代に行われたカウボーイの一団による牛群の輸送のことだ。カウボーイたちが各地でジョーキッドの出現の噂を流すのは明白。風評被害を防ぐ為にも、あらゆる手段を尽くしてこの最悪の事態を打開しなければならない。

「……みんなと相談しよう。きっと、この酒場に集まっているハズだ」


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