荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

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第9話 赤い悪魔【中編】3

 町の平和を祝う盛大なパーティーも特に大きな騒ぎも無く無事に終了し、夜。保安官事務所ではマイクを除く4人が応接スペースのソファーに腰掛けながら、コーヒー片手に残り物の料理をつまみ、何やら真剣な表情で話をしている。恐らく、今後のことでも話しているのだろう。

「さて、そろそろ夜の巡回の時間だが、今回も“二人一組”で回ってもらう」

「えーっ! またかよ!? 何で!? ここんところずっとじゃねーか!」

「先日のジョーキッドの件だ。これは町へ帰る途中にニコラスとも話したことだが、俺とニコラスは、ジョーキッドはもしかしたら死んでいない可能性がある――そう考えている」

 モーガンの突拍子もない言葉に、ダリスはキョトンとする。

「はァ~!? 何ボケたこと言ってんだよ!? あの高い崖から真っ逆さまに落ちたんだぞ? 誰がどー考えても、死んでるに決まってんじゃねェか! 気にし過ぎだって! なァ!?」

「でも、ふたりが考えるように“万が一”という可能性だってありますよ」

「何だよロビンまで!? ヘーキだって! あれから今日まで何も無かったじゃねーか」

「いや、最低でも1週間は警戒するべきだ」

「……。ったく、みんなして心配性だなァ。そんなグダグダ考えてばかりだと、そのうちフィリップみてーに胃に穴が空くぞ!?」

「えっ!? フィリップさん、悩み過ぎてついに胃に穴が空いちゃったんですか!?!?」

「バカ、例えだよ例え」

「お前が何も考えてねぇだけだろ、チョットは脳ミソ使えアホンダラ」

「よせよ、こいつに3分以上脳ミソ使わせたら確実に熱暴走オーバーヒートするぜ」

「はは、そりゃ言えてる!」

 どっ、と大笑いするモーガンとニコラスにダリスはむかっ腹を立てて歯ぎしりすると、腰を上げて棚からランプを人数分待って来る。そして、ドカッとやや乱雑にテーブルの上に置くと、くつろぐロビンに目を向け「オラ、ロビン! とっとと準備しろ! 見回り行くぞ!」と、彼を急かす。

「ええっ!? ちょ、ちょっと待ってくださいよ! まだコーヒーが!」

「そんなもん、戻って来てからでいいだろ! 早くしろ!」

「え~……もう、ダリスさん、すーぐ癇癪起こすんだから~……」

 ダリスに振り回されてブー垂れるロビンを尻目に、ダリスはさっさと準備を済ませると、ロビンを待つことなくひとりで先に出て行ってしまった。

「あーっ! ちょっとダリスさん! 置いて行かないでくださいよーっ!」

 叫びも虚しく閉るドア――どうやら、彼はかなりご機嫌斜めのようだ。

「……。モーガンさんとニコラスさんのせいですからね」

「はっはっは! まぁロビン、ダリスのことはテキトーにあやしておいてくれ」

「て……テキトーに、って言われても……」

「いつもマイクがしてるみたいにすりゃあ平気だよ平気」

「そ、そんなこと言われても……あ~もう、マイクさ~ん! 早く帰って来てくれ~!」

 そんなこんなで夜の繁華街をランプ片手に歩くふたり――。夜の繁華街は昼とは打って変わって静かだ。たまに夜遊びでふらついている住民と旅人、そしてそれを狙う客引きの娼婦を見掛けるくらいで、後は特に不審人物も、変わった様子も見られない。

「今日も平和ですね~。あの辺りっていつも何かしらの騒ぎが起こるのに、ここ数日ずっと静かだ。いつもこうだと嬉しいし楽なのになぁ」

「だよなァ~。ったく、あのオヤジ連中、取り越し苦労もイイとこだぜ」

「あはは……まだ根に持ってる。じゃあ、後は住宅街の方を見て回って帰りましょう」

「おう」

 飲み屋と娼館を通り過ぎて、賭博場の前に差し掛かったそのとき。

「おーい、ダリス~!」

「ん? ――おお、お前ら!」

 入口脇にたむろするダリスのチンピラ仲間らしき若者数人が手を振っている。やはりダリスの仲間だけあって、全員チンピラらしいド派手な髪型と恰好をしている。

「ランプ片手になにフラついてんだよ? 仕事か!?」

「そうだよ。ハロウィーンの予行練習でもしてるように見えるか?」

 ダリスの言葉がツボにでも入ったのか、連中はギャハハ、と笑っている。

「俺たち、これから賭博場で遊んで行くんだけど、ダリスお前も付き合うかー!?」

「おーっ! イイな! 行く行く!」

「おい、いいのかよ? ダリス、今仕事中だろ?」

「ヘーキだよ、後のことはロビンに任せるから!」

「へ!? ちょ、チョット! ダメですよダリスさん!」

 勤務中であるにもかかわらず、仲間たちに遊びに誘われて行く気満々なダリスの腕をロビンが咄嗟に掴む。

「何だよ、チョットくらいイイじゃねーか!」

「ダメに決まってるじゃないですか! まだ勤務中! それに、モーガンさんにも『二人一組で行動しろ』って言われてるでしょ!?」

「大丈夫だって、どーせ今日も何も起こらねェよ!」

「そんなの、わからないじゃないですか!」

「ヘーキヘーキ! じゃ、俺、チョット行って来るから後ヨロシクな!」

 ロビンの制止を振り切ってランプを押しつけると、ダリスは意気揚々と仲間たちと共に賭博場へなだれ込んで行ってしまった。ひとり残されたロビンは、ため息交じりで肩をすくめる。

「あぁ……本当にどうしようもない人だな。……もう、いいや、僕ひとりで行こう」

 トボトボと下を向きながら住宅街の方へ歩いて行くロビン。――ダリスのこの軽率極まりない判断が、後に“取り返しのつかない事態”を招くことになろうとは、このとき誰が想像出来たであろうか。


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