荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第8話 赤い悪魔【中編】2

 荷台のマイクはぐったりしていて半死半生。先ほどまで元気だったニコラスもすっかり顔が青い。やはり、自身で言っていたとおり、やせ我慢をしていたようだ。――ロビンに案内されて医師と看護師が出て来ると、すぐにふたりとも担ぎ込まれた。

 マイクは重傷だったが、奇跡的に命に別状はなく二週間ほどの入院で済み、肩と背中に刃を受けたニコラスはというと、鍛えられた“筋肉”のお陰で傷が浅かったことから「手当てを受けたらすぐに帰っていい」とのお達しを受け、ニコラス本人は茫然、それを傍で聞いていた付き添いのモーガンとダリスとロビンは思わず噴き出し、声を上げ腹を抱えて大笑いした――。

 だが、これで大団円――というわけではない。死んだと思われたジョーキッドは生存していて、いつまた獲物を求めて町に現れるかもわからない。しかも、誰もまだその事実を知らないのだ。――トルカを覆う血濡れの悪夢は、まだまだ終わりそうにない。


***


 ジョーキッドとの戦いから1日が過ぎた昼下がり、ニコラスは巡回の途中、休憩がてらに酒場へ立ち寄った。酒場の中はいつもどおり、暇な住民たちで大いに賑わっている。あれから何事もないせいか、昨日まであんなに不安に揺れていた住民たちはすっかり赤い悪魔は倒されたと信じ込み、普段通りの“平和な日常生活”を満喫している。――人間というのは、案外お気楽な生き物なのかもしれない。

 ニコラスは店内を見渡し、いつもの奥のテーブル席に腰掛ける死神とマリア、ついでにマディソンを見つけると彼らの傍へ歩み寄って行く。

「あっ! ニコラスさーん!」

 ニコラスに気づいたマリアが笑顔で手を振ると、ニコラスも笑顔でひらりと手を振り返す。そして、勝手に空いている椅子を引くと、どっしりと腰掛けた。

「よう! お前らまだいたんだな。とっくに町を出たかと思ったぜ」

「どうせ宛てのない旅だ。急ぐこともありませんよ」

「ハハ、そうかよ。殺人容疑まで掛かってんのにお気楽な野郎だな」

「決定的な“証拠”は未だに見つかっていないのでしょう?」

「まぁな。今、ロビンたちが草の根分けて探してるから首洗って待ってろよ」

「楽しみにしています。……ところで、あの赤い悪魔を仕留めたと聞きましたよ」

 死神からジョーキッドの話題を振られると、ニコラスは待ってましたと言わんばかりに「そうそう! それだよそれ! いや~本当にヤバかったぜ、あの捕り物は!」と、ウキウキしながら戦いのことを話し出す。――きっと、昨日から一生に一度あるかないかの“超大物”の捕り物劇を誰かに自慢したくて仕方なかったに違いない。

「ニコラスのだんな~、その話ならもう昨日ダリスから耳にタコが出来るほど聞いたよ~。何かいくら銃で撃っても起き上がって来る“ゾンビ”みたいな化け物だったんでしょ!?」

「何だよあいつもう喋っちまったのかよ!? まぁいいじゃねぇか、赤い悪魔の捕り物劇なんて一生に一度聞けるか聞けないかの“お宝話”だぜ? なにせ、“赤い悪魔と遭遇して生きて帰った人間はいない”って云われてるんだからな! ハハハッ!」

「あーあ、お宝話なんて“金”にも何にもなりゃあしないよ」

「フフフ……いいではありませんか。赤い悪魔との戦いの話など滅多に聞けるものではない。土産代わりにぜひとも聞かせて頂きましょう」

「あっしはもうお腹いっぱいだよ。ま、死神のだんなが聞きたいってならいいけどさ」

 同じ話を繰り返し聞かされる羽目になって辟易しているマディソンとは対称的に、死神はとても興味深そうだ。一方のマリアはというと、悪魔の話が怖いのか、聞く前からすでに恐怖で顔を青ざめさせ、プルプルと身体を震わせている。

「ちょっ、ちょっとお嬢ちゃん大丈夫かい!? 今にも倒れそうなくらい顔色悪いよ!?」

 マディソンに声を掛けられ、ハッと我に返ったマリアは「えっ!? ――だっ、だだだだ大丈夫です! マ、ママママリアは未来の保安官ですものっ!」と、言いながら咄嗟に両手でゴシゴシと青くなった顔を擦るが、特に何も変わっていない。

「顔とセリフが一致していませんね。ニコラス、彼女のことは構わずに話してください」

「お、おう……本当にいいのか? 何か、マリア見てたら俺の方が不安になってきたぜ……」

「構いません」


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