荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第8話 赤い悪魔【中編】2

「キシャアアアアーッ!!」

 奇声と共にジョーキッドが荷台に飛び乗ると、瀕死のマイクを見下ろしながらナイフの刃先をべロリと舐め上げる。

「待ってたぜハニー。さぁ、地獄へランデブーとシャレ込もうじゃねぇか」

 マイクのしょうもないキメ台詞に応えるようにジョーキッドは薄気味悪い笑いを浮かべながら顔を歪めると、マイクの胸めがけてナイフを振り下ろした。

「俺はタダじゃ死なねぇ! 死ぬときはジョーキッド! お前も道連れだ!」

 魂の叫びと同時にマイクはジョーキッドの腕を掴んだ。しかし、手が震えてまともに力が入らない――案の定、じわじわと押され始めた。

「くっ……! ……っ……!」

 迫りくる凶刃を必死になって抑えるマイク――だが、もたもたしてはいられない。崖が、タイムリミットがもうすぐそこまで迫っている。早く振り払って荷台から飛び降りなければ、本当にジョーキッドと地獄へランデブーすることになる。

「クソッ! 手に力が、入らない……! やっぱりみんなと一緒に降りるんだったぜ!」

 見栄を張って単身ジョーキッドに挑んだことを後悔したが、もう遅い。

「ヒヒヒッ……あんとき、さっさと逃げりゃあよかったのになァ! このマヌケがァ!」

「あぁ? “マヌケ”ってのは俺のことか!?」

「テメェ以外にダレがいんだよ? そこのドウブツ二匹か?」

「……ハ、ハハハッ! お前に言われちゃおしまいだよ、このクソ溜め以下の大バカ野郎!」

「……? あ? バカってなんだ? 喰えんのか?」

「マヌケは知ってんのにバカは知らねぇのかよ!? だがな、いちいち説明してる余裕も暇もねぇ。知りたけりゃあの世でたっぷり死神サマに教えてもらいな! そんでもって来世はもっと賢い人間に生まれ変われよ! 最高にクールでクレバーなマイクおじさんとの“約束”だ!」

 マイクは渾身の力を込めてジョーキッドの腕を振り払った。――すると、そのときだ。荷台がガクンと大きく揺れた。

「ウッ!?」

「しまった! もう“タイムリミット”か!」

 そう、マイクとジョーキッドを乗せた暴走馬車はついに“終点”に到達したのだ。断崖を越えて虚空を飛ぶ荷馬車――ふたりは思わず息を呑んだ。空飛ぶ荷馬車の上で過ごす夢のような時間はとても永い――わけがなく、無情にもすぐに真っ逆さまになって奈落の底へ落ちていく。

「畜生、現実はやっぱり小説のように上手くいかねぇか! ――みんな、すまないーっ!」

「ウガアアアアーーッ!?」

 ふたりの断末魔と共に、荷馬車は遥か下の針葉樹林の中へ消えていった。

「マイク―っ!!」

 後を追って来たモーガンが叫ぶ。しかし、返事をする者は誰もいない。モーガンの叫び声は静寂の中へ溶け虚しく消えていった。

「……マ、マイク……! この大バカ野郎ーっ!!」

 再び遠くに向かって叫ぶとモーガンはガクリと膝から崩れ落ちた。すぐ後に着いたダリスとロビンも打ちひしがれるモーガンの後ろ姿を見ると、すぐに状況を察した。――マイクは脱出に失敗し、ジョーキッドもろとも奈落の底へ消えていったのだ。

「……、そ、んな……マイクさん……、マイクさんーっ!!」

「あのクソオヤジ! やっぱり失敗しやがったか! ――チクショウ、何が“賭けはハイリスク・ハイリターンだからこそ面白い”だ! カッコつけやがって……賭けに負けて“おけら一文無し”になっちまったら何の意味もねーじゃねェか! このクソバカヤローッ!!」

 ロビンに続いてダリスも叫び声を上げると、その場に崩れ落ちた――大捕り物は、今度こそ最悪の結末を迎えて幕を下ろした。


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