荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第8話 赤い悪魔【中編】2

 ニコラスたちがお喋りを楽しんでいる一方でまたもスイングドアが開くと、フィリップが入って来た。フィリップは店内を見渡し奥の席に固まる死神とその仲間たちを見つけると、先ほどのジェーン同様、嬉しそうに顔を綻ばせて傍へ歩み寄って行く。

「おや……フィリップさん、こんにちは」

「こんにちは死神さん。まだ滞在していらしたんですね、ちょうどよかった」

「よう、フィリップ! 何だよお前もサボりか!?」

「ち、違うよ! 明後日、広場で野外パーティーを開くから、その知らせに来たんだよ!」

「えーっ! 野外パーティー!?」

 パーティーと聞いたマリアが思わず叫び目を輝かせる。

「うん、トルカ町が長年の悪政から解放されたのを記念してね。もし、よかったらマリアちゃんもおいでよ。料理もお菓子もたくさん用意するから」

「わー……い、行きたい……! ねぇ先生! 先生も一緒にパーティーに行きましょ!」

 マリアは死神におねだりするが、当の死神はあまり乗り気ではなさそうだ。

「……野外パーティー、か」

「えぇ、死神さんもぜひパーティーにいらしてください。参加者が多ければ多いほどパーティーも盛り上がるし、マリアちゃんも喜びますよ。――ね?」

「はい! 先生も、ニコラスさんたちも、みんなで一緒に参加しましょう!」

 死神はニコラス・ジェーン・マディソンの3人を順番に一瞥すると、3人は笑顔で頷く。

「……。えぇ、わかりました。明後日の野外パーティー、参加しましょうか」

「やったー! えへへ~……野外パーティー楽しみだなぁ~……」

 ウキウキするマリアの一方で死神の表情は冴えない。きっと、賑やかな場所は得意ではないのだろう。気疲れしたように小さなため息をひとつ吐くと、グラスに残った酒を飲み干す――。その傍らでは、ジェーンが嬉しそうにフィリップの腰をぺしっと叩きながら

「フィリップ久しぶりじゃない! ねぇ、あのクソスケベジジイ殺されたって本当なの!?」

「あでっ!? あ、あぁ……ジェーンさん、お久しぶりです。いつの間にか帰って来てたんですね……ははは……。……えぇ、その……部屋で暗殺者に襲われたみたいで……」

「暗殺者に!?」

 フィリップの言葉に驚くものの、すぐに腑に落ちない様子でジェーンは小首を傾げる。

「暗殺者にねぇ~……。……でも、何かおかしいわねぇ……あのハリーなら、並の暗殺者なんてアッサリ返り討ちにしちゃいそうだけど……寝込みでも襲われたのかしら?」

「! ……」

 ジェーンの発した言葉に一瞬、死神の表情が動いた。

「なーに言ってやがる。どっちかというと寝込みを襲う側だぜ、あの野郎は。――それも、相手があいつ好みのとびきりイイ女だったらの話だよ。ハハハッ!」

「それもそうね。枯れた年寄りになっても女の脚に目がいっちゃうドスケベ男だものね~」

 ジェーンは厭味ったらしく横目でフィリップを見ながらそう言うと、彼女に見られたフィリップは父親の“素行”に関しては何も言い返せないようで、苦笑いを零しながら申し訳なさそうに身を縮める。そんな彼の姿に、死神たちも思わず笑みを浮かべた。

「あ、暗殺者を返り討ちだなんて、ハリーおじさまはそんなに強いんですか……!?」

「そりゃあもう“強い”なんてもんじゃねぇよ。強いを超えて“凶器”だぜありゃあ。何たって初代町長――あいつの父親のゴードン=ウィルソンは元軍人で“徒手格闘”の達人でもあったんだ。だから当然、息子のハリーもその奥義を仕込まれてるってことだよ。――なっ?」

「そ、そうですね……ははは……」

「へぇ~……ハリーおじさまってすごい人だったんですね! マリアはてっきり怖いだけな人かと思ってました……! ――あっ! あの、フィリップさんは? フィリップさんは格闘は習ってないんですか!? マリア、ちょっとだけ闘うところ、見てみたいです!」

「えっ……あ、あぁ~……僕もやってる、というか無理やり身につけさせられたんだ、けど……僕は暴力なんて大嫌いだから、見せてあげることはチョット出来ないかな……ご、ごめんね……。……は、はは……ははははは……」

「えーっ!」

「おいおいフィリップ! お前、そんなんでこれから町を引っ張って行けるのか!? しっかりしろよ、期待の三代目町長!」ニコラスは委縮するフィリップに喝を入れるも、肝心のフィリップは「す、すみません……」と更に身を縮めてしまった――前途多難である。


11 / 13

著作者の他の作品

その場のノリと思い付きだけで書いた「荒野の死神」のハロウィンパロ。ただの...

舞台は17世紀ヨーロッパ。トランシルヴァニア公国の貴族「ギュスターヴ」の跡...