荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第7話 赤い悪魔【中編】1

「ジェーンさん……」

「……」

『アンタも兄貴と一緒で、あの子が殺されたこと……何とも思っちゃいないんだわ!』

『アンタなんか大っ嫌いよ! 死んじまえっ!!』

 ジェーンが去り際に発した罵声が頭の中を駆け巡ると、ニコラスは唇を噛み拳を握る。

「……俺が、あいつの……ダニエルの死を忘れただと……? そんなワケあるかっ! 俺にとっても命より大切な、愛する息子だったんだぞ! それを、忘れるなんて……ったく、バカはいったいどっちだ! ……俺だって、出来るもんならヤツらに復讐してやりてぇよっ……!!」

「ニコラスさん、ボーっとしてる場合じゃないですよ! 何もなかったってわかったんだから、早く犯人たちを確保してモーガンさんたちの応援に行きましょう!」

「――! そうだったな、こんなところでボケっと突っ立ってる場合じゃねぇ! 早く行かねぇとあいつら全員、赤い悪魔の昼メシになっちまうぜ!」

 ニコラスが男たちを確保する傍らでロビンが死神に目を向けると、彼に声を掛けた。

「あの、死神……さん。死神さんも赤い悪魔を倒すのに協力して頂けませんか!? 保安官のクセに殺し屋に“助っ人”を頼むなんて、恥知らずもいいところなのはわかってます。でも、今は非常時だし強い味方はひとりでも多い方がいい。……どうか、お願い出来ませんか!?」

「お気持ちは察しますが、それは出来ません。赤い悪魔の暗殺依頼を受けていませんので。――それに、今、ご自身で仰ったとおり、保安官が殺し屋に助っ人を依頼するのは如何なものかと思います。自分は構いませんが、あなた方の信頼にかかわる。やめた方が賢明です」

「……。そう、ですよね……すみません……」

「おいロビン! こんなヤツに助っ人なんか頼んでんじゃねぇ! とっとと行くぞ!」

「は、はい――すみません!」

 一喝されたロビンはどこか名残惜し気に死神を一瞥すると、ニコラスと共に男たちを引きずり店を後にする。嵐が過ぎ去り静かになった店内には死神とマリアのふたりだけが残された。

「まさか本当に悪魔が現れるなんて……ニコラスさんたち、大丈夫でしょうか……!?」

「保安官に任命される者はいずれも精鋭です。心配はいりませんよ」

「それに、ジェーンさんのことも心配です……過去に黒い蠍と何があったのかしら……」

「それはあのふたりの問題だ。部外者の我々が首を突っ込むべきではない」

「……。……そう、ですね……」

「とにかく今は事の成り行きを見守りましょう。……行動を起こすのはそれからだ」


***


 時は戻り再びロータス牧場――。

 牧場の敷地の一角では依然として保安官たちの一方的な攻撃が続いていた。しかし、標的に弾を当てる――ただそれだけのことなのにモーガンたちは疲弊し始めていた。それもそのはず、ジョーキッドの身体能力は彼らの想像を遥かに超えていて、たとえどんなに正確に狙いを定めて発砲しても、すべて当たる寸前で躱されてしまうのだ。

 しかし、3人は諦めない。モーガンがジョーキッドの注意を惹き、その隙にマイクがライフルで狙いを定める――だが、引き金を引く寸前でジョーキッドは攻撃の気配を察知すると回避行動に移り、破裂音が響く頃には既にそこにはおらず、障害物や地面だけが虚しく削れる。

「クソッ! また外した! まるでノミに向かって弾を撃ってる気分だぜ!」

「まったく、こんだけ早いときっと“アッチ”の方もすぐなんだろうな!」

「弾切れもわからないようなヤツにファックの仕方なんてわかるのかよ?」

「イクだけならサルにだって、バカにだって出来る」

「ふたりしてバカなこと言ってんじゃねーよ! チクショー……! せめてあそこに落ちてる俺の銃を拾いに行けたら、俺もあのヤローと戦えるのに……!」

「ムチャはよせ! とにかく応援が来るまでジョーキッドを惹きつけておくんだ!」


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