荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第7話 赤い悪魔【中編】1

 しょっ引こうと死神の襟を掴むニコラスにマリアが咄嗟にしがみつく。

「ダメですよニコラスさん! せいとうぼうえいですよ、せいとうぼうえい!」

「正当防衛だぁ?」

「そうです! 悪い人たちがウェイトレスのおねえさんを困らせていて、それを注意したジェーンさんを逆恨みして攻撃してきたんです。それで、先生はジェーンさんを助ける為に、し、仕方なく悪い人を撃ったんです! だから……だから先生は何も悪くありませんっ!」

「う、うん。事情はわかったけど、そのジェーンさんはどこにいるの? 姿がないけど」

「えっ!? えっ、えっと……その……ジェーンさんは今、お外にお花を摘みに……」

「なーんだションベンか」

「あーっ! も、もーっ! ニコラスさんったら! せっかくぼかしたのにーっ!」

「ニコラスさん、デリカシー無さ過ぎですよ……」

「おーっと悪い悪い!」

 呆れ顔のマリアとロビンにニコラスは笑って誤魔化す――と、程なくして出入り口のドアが開き人がひとり入って来た。――入って来たのは、用を足しに表へ出ていたジェーンだ。

「お待たせ―! ちょっとトイレが込んでて……って……あれ!? ニコラス!?」

「あ? ――あーっ! お前、ジェーンじゃねぇかっ! いつ帰って来やがったんだ!?」

「?」

 互いを指さしながら硬直するジェーンとニコラスを3人は不思議そうに見つめる。

「……あの、ニコラスさんとジェーンさんはお知り合いなんですか?」

「……えぇ」

「知り合いなんてもんじゃねぇよ……こいつは3年前に出て行った俺の“女房”だ!」

「えーっ! ニコラスさんの奥さん!?」

「ニコラスさん結婚してたんですか!? 僕、ずっと独身だと思ってた……!」

「……」

 ふたりの“意外な関係”に動揺を隠せないでいる3人をよそに、ニコラスの表情が強張ると静かにジェーンの傍へ歩み寄る。一方のジェーンはというと、ニコラスと再会したことが心疚しいのか、先ほどまでの明るい表情が一転、切なげに目を伏せると唇をギュッと噛み締めた。

「ジェーン……まさかお前だったとはな。……今更、どのツラ下げて帰って来やがった?」

「……」

「この3年間、俺とマイクがどんなにお前のことを心配したかわかってんのか!?」

「……」

「黙ってないで、何とか言ったらどうなんだ!」

「……」

「ジェーン!!」

「わかってるわよ!!」

 声を張り上げるジェーンにニコラスの肩が僅かに跳ねた。そして、重い沈黙が続く。

「わかってる……でも、たとえ何年掛かっても、最終的に命を落とすことになろうとも……ヤツらに、黒い蠍に復讐しなきゃアタシのこの心は救われないのよ! わかるでしょう!?」

「! ジェーンお前……まだ、あのときのこと……引きずっているのか?」

「――! ニコラス、アンタまさか忘れたって言うの? ……あの子のこと……ダニエルのこと……やっとアタシたちに授かった命よりも大切な“息子”だったのよ!? それを――!」

「違う! 忘れてなんかいない! ヤツらをブッ殺してやりたい気持ちは俺も同じだ――だが、もう追うのはやめろ! お前ひとりにどうにか出来る相手じゃないのはわかってるだろ!?」

「あの子を奪われたのに泣き寝入りしろって言うの!? 冗談じゃないわ!!」

「俺は黒い蠍にはもう関わるなって言っているんだ! 今度こそ本当に殺されるぞ!」

 ニコラスの必死の説得にジェーンの目頭が徐々に熱くなる――。

「ダニエルはヤツらに殺されたも同然なのよ……!? 理不尽な出来事で最愛の子どもを奪われて黙っていられるほど、アタシは人間出来ちゃいないわ! ……ニコラス……やっぱりアンタも兄貴と一緒で、あの子が殺されたこと……何とも思っちゃいないんだわ!」

「そんなワケねぇだろ! いいから俺の話を――」

「うるさいバカ野郎っ! アンタなんか大っ嫌いよ! 死んじまえっ!!」

 ジェーンは大粒の涙を零しながら叫ぶと店を飛び出して行ってしまった。ニコラスは彼女の名を叫ぶが後を追うことも出来ず、ただただその場に立ち尽くしている。――何も語らず、微動だにせず、棒のように突っ立っているニコラスを3人はただ見ていることしか出来なかった。


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