荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第7話 赤い悪魔【中編】1

 やはり、あの噂はジョーキッドとの遭遇で錯乱した者の妄言だったのだろうか。だが、そもそもどうしてそんな噂が流れたのかすら定かではない。実際に死んだはずのジョーキッドが動き出すのを見た者でもいたのだろうか? そうでもなければ、こんな奇妙な噂が広まるはずがない。

「……ま、いいか。あのバカげた噂も赤い悪魔同様、真っ赤なウソだったってことだ。現にヤツはこうして死んでいる。ったく、手間取らせてくれやがってこのタコ」

 顔面に唾を吐きかけてやる代わりに舌打ちをひとつすると、マイクは踵を返す。――そのときだ、倒れているジョーキッドの指がピクッ、とわずかに動き出すと、止まった心臓が鼓動を再開し始めたかのように再び動き始めた。そして、パチリと瞼を開ける。――前を歩くマイクは、まだそのことに気づいていない。

 やがて完全に息を吹き返したジョーキッドはマイクに悟られないようゆっくりと上体を起こし立ち上がる――ここでマイクは初めて“気配”を感じ、立ち止まると後ろを振り返った。

「!!」

 マイクは目の前の光景に戦慄した――死んだはずのジョーキッドが生き返っている。

「モーガン!! ジョーキッドは生きてるぞーっ!!」

「何!?」

 一足飛びで間合いを詰めるジョーキッド。白い糸状の閃光が斜めに走ったその刹那、マイクの胸から噴水のように血潮が噴き上がった。ジョーキッドの電光石火の一撃にマイクは悲鳴を上げる間も無くその場に崩れ落ちた。――彼の真っ白な服がどんどん赤く染まっていく。

「マイクーっ!!」

「マイクが! マイクがやられた!!」

 突然の出来事に顔を青くするモーガンたち。ニコラスは咄嗟に持ってきたショットガンを構えると、ジョーキッドに向けてブッ放す。破裂音と共に銃口から放たれた複数の弾丸がジョーキッドの身体を貫くと、ジョーキッドは呻き声を上げながら吹っ飛びまたも倒れ臥した。

「今度こそやったか!?」

「あぁ!」

「まさかあのとき外していたのか!? いや、そんなハズはない! 俺とマイクの弾は確かにヤツの胸と腹に命中した! ……バカな……胸と腹に銃弾を受けて生きている人間がいるなんて! ……こんなこと、こんなこと絶対にあり得ん……!!」

「じゃ、じゃあ……赤い悪魔は本当に不死身ってことですか!? そ、そんな……!!」

「不死身って……あ、あんなのくだらねーウワサだろ!?」

「じゃあ、何だってあいつは胸と腹を撃たれたのに死んでねぇんだ!?」

「そ、それは――」

「! み、みんな! あ――あれを……!!」

「!?」

 ロビンが指さす方向を注視する3人。倒れていたジョーキッドの指がピクピクと震えだすと、再びムクリと起き上がった。そして頭を掻きむしり、首を左右に動かしてはコキコキと音を鳴らしている――その様子からして、まったくダメージを受けていない。

「――!!」

 奇怪な光景を目の当たりにした4人は完全に顔色と言葉を失った。全身の毛という毛がよだち、肌を伝い流れ落ちる大量の冷や汗も、体内を駆け巡る血液も、すべてが凍りついていくような恐怖と戦慄が場を包む――それもそのはず、目の前のこのジョーキッドは、拳銃で腹を撃っても、ライフルで胸を撃っても、ショットガンで上半身を撃っても、なぜか死なないのだから――。

「……、……こいつは……こいつは人間じゃねぇ……“赤い悪魔だ”……!!」

「こ、こんな人智を超えたバケモノ、いったい誰が倒せるって言うんだよ!? だが、これで15年間、誰にも捕まらなかったのにも納得がいったぜ。こんなヤツ、捕まえようがねェ!」

 恐怖と戦慄に続いて絶望が場を支配する。――もう、どうしようもない。

「クソッ! こんなことになるとわかっていたら、最後にサマンサ(モーガンの妻)とベッドに入って熱いファックかまして、別れの挨拶もしとくんだったぜ。あと長年のお友達の“切れ痔”にもな! ――サマンサに切れ痔、今までありがとうな、お前ら愛してるぜ!」

「俺もあのとき、レストランでジェーンのこと抱きしめてキスしておくんだった!」

「俺もマディソンとフィリップから借りてた10ドル耳揃えて返しておくんだったよ!」

「みんなしてなに言ってるんですか! 僕たちがここで諦めたら町は一巻の終わりですよ! ――あぁ、でも僕も死ぬ前にエミリーと会って、彼女の手作りクッキー食べたかった……!」


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