荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第6話 赤い悪魔【前編】3

 何も出来ない悔しさにマリアが唇を噛み締めていると、「やめな!」と、どこからか険悪な空気を切り裂くような勇ましい女の声が響いた――。一同は声がした方へ振り向くと、出入り口付近にひとりの女の姿が。

 砂埃で汚れた茶色い帽子に黄土色のポンチョを羽織ったガンマン風の恰好に、腰には銃を二挺ぶら下げている。白い肌に薄水色の瞳、緩く波打った長く鮮やかな赤髪、両耳には大きな金のイヤリングが輝く美女。男たちの乱暴な行動を咎めもせずに見て見ぬふりをしていた客連中に苛立っているようで、しかめっ面をしながらタバコを咥えている。

「大の男連中が女ひとりに寄ってたかって、恥ずかしいと思わないワケ!?」

 そう言うと、女はツカツカと男たちの元へ歩み寄って行く。突然、現れた妙な女を男たちは鋭い眼光で睨む――だが、女はまったく怯まない。

「何だよ、オネーチャン。何か文句あんのか!?」

 ならず者のひとりが腰を上げると、女の目の前へ――その身体はかなり大きい、ゆうに190cm以上はあろうか。背も高いが筋肉質で横幅もある為、余計に大きく見える。一方の女の方も平均的な女性と比べるとかなり背は高い方だが、大男の前ではさほど変わらない。

「文句があるから“やめろ”って言ったのよ。オタンコナスども」

「何だとてめーっ! 女の分際で調子に乗ってると痛い目みるぞっ!」

「うるさいわよ。あと、息臭いから喋らないでもらえる?」

「て、てめぇ~~!!」

 激昂した男が殴りかかろうと拳を振り上げた。女は男の拳を軽くかわすと火のついたタバコを

男の眉間にグリグリと押し付ける。

「あっぢいいいっ――!?」

 熱さに怯んだ男の腕を掴み、そのまま窓の外へ向かって放り投げた――投げられた男の身体は勢いよく窓ガラスを突き破り店の外へ。地面にへばりついてピクリとも動かないところを見ると、失神しているようだ。自分の倍以上の大男を軽々と投げ飛ばした女に、死神や他の客たちは唖然としている。

「このアマ!!」

 仲間が呆気なくやられたのを見た残りのふたりは立ち上がると、ホルスターから銃を抜いて女に突きつける。発砲するつもりだ。しかし、男たちが引き金を引くよりも早く女はホルスターから二挺銃を抜くとふたりに発砲。二挺の銃口から放たれた弾丸は男たちの肩を貫くと、ふたりは短い悲鳴を上げて床に沈んだ。

「きゃーっ!」

「女がならず者を撃ったぞ!」

「お、おい! 誰か! 保安官を呼べ―っ! 銃撃戦だーっ!」

「みんな逃げろ! 巻き込まれるぞーっ!」

 突然の発砲に平和なレストランの中は大混乱に陥った。そして、銃撃戦に巻き込まれまいと大勢の客が出入り口に押し寄せる。ウェイトレスたちも必死に落ち着くように声を掛けるが、客たちはまったく聞く耳を持っていない――まさにパニックである。

「あーもう! うるさいわねぇ! 肩撃ったくらいで死にやしないわよ!」

 喧しい客たちに舌打ちすると女は銃をしまい、傍にいたウェイトレスに「これ、壊した窓ガラス代」と、札を渡すと店を出ようと出入り口へ引き返す――が、出入り口は逃げ遅れた客たちで詰まっていて出られる状態ではない。

「たかが銃声くらいで情けないわねぇ、いつからこの町の男どもはみんなタマ無しになったのかしら? 呆れてモノも言えないわ」


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