荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第6話 赤い悪魔【前編】3

「武器を持って戦う以上、誰も傷つかない綺麗な戦いなどない――必ず誰かが傷つき、そして死ぬ……戦いとはそういうものだ」

「……」

「マリア、もし――あなたに人を傷つけることに“大きな抵抗”があるのだとすれば、あなたに保安官は向かない。保安官の仕事は何も犯罪者やならず者と戦い逮捕することだけではない――保安官は自分が逮捕した人間のその後の“運命”も左右する権限も持っているのです」

「……! そ、それって、もしかして……」

「そう――極端な話、死刑執行だ」

「死刑……」

「逮捕した犯罪者が重罪人である場合、場合によっては死刑執行の判断を下さなければならないこともあります。――そのとき、あなたにその判断が下せますか? 相手は野ウサギとはわけが違う――“可哀想だから”などと甘いことは言っていられませんよ?」

「……」

 マリアは死神の話を聞いて自分の考えは甘かったのだと気づくと、しょんぼりと俯いた。

「フフ、そう悲観的になることはありませんよ。要は“割り切れるように”なればいいのです」

「割り切る……。……、……今のマリアには、ちょっと……難しそうです……」

「決断を急ぐ必要はない、時間はいくらでもある。……そうですね……“自分は何の為に戦うのか?” ――まずは今一度その“理由”をよく考えることです」

「理由……」

「えぇ。そうすれば、いずれ進むべき道に迷ったとしても自ずと“答え”が出るはず――ただ、強くなればいいというわけではない。確固たる信念も無く、漠然としたまま強くなったところでそれは“本当の強さ”とは言えません」

「……! はい……!」

 死神の助言にマリアは力強く頷いた。

「ちょっと、お客様! やめてくださいっ!」

 突然、聞こえてきたウェイトレスの悲鳴。ふたりは向こう隣の席に視線を向けると、ウェイトレスが酔っ払いの中年3人組にスカートを引っ張られて絡まれている。砂埃にまみれた小汚い恰好であるところを見ると、この連中は恐らく遠くからやって来た流れ者だろう。

「その手を放してください! 保安官を呼びますよ!?」

「あぁ!? 呼べるもんなら呼んでみろよ、全員撃ち殺してやるぜ! はっはっは!」

「それよりも俺たちの相手してくれよ、女っ気がなくてつまんねぇんだ」

「ここは風俗街にあるような“如何わしい店”じゃありません! 普通のレストランです!」

「堅ぇこと言うなって! いいから座って酌しろよ、女給さんよぉ!」

「もう! 誰か何とかしてーっ!」

 ゲラゲラと下品に嗤う男たち。ウェイトレスが必死に助けを求めるも、周囲の客はならず者たちと関わり合いになどなりたくないのか、みんな見て見ぬふりをしている。そして、他のウェイトレスたちもどうしていいのかわからず、ただオロオロするばかりだ――そんな中、見ていられないとマリアが勇敢に腰を上げようとする――。

「おやめなさい」

「で、でも! ウェイトレスのおねえさんが困ってます、助けなきゃ……!」

「余計なことに首を突っ込むべきではない。第一、あなたに何が出来るのです?」

「せ、先生は他の方々と同じく、見て見ぬふりをしろとおっしゃるんですか!?」

「我々には関係のないことだ」

「そ、そんな……!」


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