荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第6話 赤い悪魔【前編】3

 一方、繁華街を歩いていた死神とマリアは町のレストランに到着した。ふたりが店内に入ると中は大勢の客で賑わっていて、席が空いているか怪しい。どこか空いている席はないかと死神はウェイトレスを呼び止める。

「すみません、どこか席は空いていますか?」

「申し訳ございません、ただいま満席でして……」

「そうですか。……では、少し待った方が良さそうですね」

「えーっ! うぅ……マリア、お腹と背中がくっついちゃいそうです……」

「こればかりは仕方がありません、我慢しましょう」

「はい……」

 ふたりは出入り口近くに置いてある椅子に腰掛ける。店内に漂う食欲をそそる料理の匂いにマリアの空腹は限界寸前だが、それを紛らわせるように、忙しなく料理を運ぶ清楚なウェイトレスたちに視線と意識を集中させる。

「ウェイトレスさん、やっぱり可愛いなぁ……」

「おや、ウェイトレスに興味があるのですか?」

「はい! マリアもあんな可愛いユニフォームを着て、颯爽とお料理を運んでみたいです!」

「あなたは保安官になりたいのではなかったのですか?」

「もちろん、夢は保安官ですっ! でも、一度くらいウェイトレスにもなってみたいです。ウェイトレスは女の子の“憧れ”なんですよ!」

「ほぅ……そうなのか」

「……。先生、先生は何か“なりたかった職業”とかあるんですか?」

「自分ですか? そうですね……自分は幼い頃は“カウボーイ”に憧れていましたよ」

「カウボーイ!? 先生が!?」

「おや、自分がカウボーイとはおかしいですか?」

「う、ううん……ただ、ちょっと想像できなくって……」

「フフ……カウボーイもまた、少年たちの憧れの的なのですよ」

「へぇ~……」

 感心するマリアだが、ここでひとつ“小さな疑問”が頭に浮かんだ。

「……あの、先生? ひとつ質問してもいいですか?」

「何ですか?」

「えっと……小さい頃の先生って、どんな感じだったんですか?」

「――!」

 幼少時代について訊かれた死神の表情がほんの僅かに動いた。そしてひと言「幼少期……」とだけ呟くと、それ以降は何も語らずに黙り込んでしまった――それを見たマリアは思わずハッと、片手で口を塞ぐ。

「……あ……も、もしかして……き、訊いちゃダメでしたか? ご、ごめんなさい……」

「いえ、お気になさらず。……ただ、幼少期はあまり良い思い出がなかったものでね」

「えっ……! も、もしかして……い、イジメられちゃってたとか……!?」

「……えぇ、そうですね。それに限りなく近い――とだけ言っておきましょう」

「……」

 そう話を締め括った死神の横顔はうら悲しかった。知らなかったとはいえ、安易に心の傷に触れてしまったことに対しマリアも申し訳なさそうに身を縮める。


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