荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第6話 赤い悪魔【前編】3

「親父のヤツ、どこ行きやがったんだ? ったく……」

 父親の行き先に心当たりはないかと考えるが、犬の声がうるさくて集中出来ない。

「うるせぇなぁ……さっきからなに吠えてやがるんだ、あの犬」

 父親同様、吠え続ける犬を黙らせようとフレデリックは外へ出た。相変わらず犬はある一ヵ所に向かって時折、低い唸り声を出しながら一心不乱に吠えている。

「わん! わん! わん!」

「うるせぇぞ、ロッキー! 静かにしろ!」

「ウー……わん! わん! わん!」

「うるせぇ! 黙れ!」

「わん! わん! わん!」

 声を荒らげるフレデリック。しかし、犬は止まらない。

「ちっ……バカ犬が……!」

 まったく言うことを聞かない犬にフレデリックは苛立ち舌打ちするが、いずれ大人しくなるだろうと判断すると家に戻ろうと踵を返す――すると、そのときだ。ガタッ、という不審な物音が聞こえた。

「――?」

 音がした方へ視線を向けると、そこには物置小屋が。――ドアが少し開いている。

「……何だ? 親父のヤツ、物置小屋にいるのか?」

 フレデリックは物置小屋へ向かうと、何の考えもなしにドアを開けた――。

「親父――……!!」

 目に飛び込んできた光景にフレデリックは戦慄した。おびただしい血で濡れた床、一帯に散乱する臓物、その傍には男の惨殺死体がふたつ――よく見るとそのひとつは彼の父親だ。――そして、その横で一心不乱に“何か”を喰らっている男。男は喰うのに夢中のようで、傍にフレデリックがいるのにまったく気づいていない。

「う、うわああああああー! お、おお、親父ーっ!!」

「!」

 フレデリックは悲鳴を上げると腰を抜かし倒れ込む。彼の耳をつんざくような悲鳴を聞いたそのとき、男は初めてその“存在”に気がつき、喰うのをやめるとフレデリックの方へ顔を向けた。――口周りは血で濡れていて、両手に”肉の塊“のようなものを大事そうに握りしめている。

「ウゥ……」

「ひっ、ば……バケモノーっ!!」

 男と視線がかち合うと、フレデリックは情けない悲鳴を上げながら慌ててその場から逃げ出した。恐怖で足がもつれ何度も転びながらも繁華街へ向かって全力で走る。途中、後ろを振り返るが男は追って来ていないようだ。

「だ、誰かーっ! 誰か助けてくれーっ!! バケモノだ―っ!!」

 一方、ひとりになった男はドアを閉めると何事もなかったかのように再び肉を喰らい始める。――そして肉ひと塊を喰い終えると、用済みになった死体を部屋の隅に退けて、次の――ロータスの死体を引きずり仰向けにすると、その腹に勢いよくナイフを突き立てた。


5 / 14

著作者の他の作品

その場のノリと思い付きだけで書いた「荒野の死神」のハロウィンパロ。ただの...

舞台は17世紀ヨーロッパ。トランシルヴァニア公国の貴族「ギュスターヴ」の跡...