荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第6話 赤い悪魔【前編】3

 一方、ロータス牧場の敷地内にある小さな物置小屋。薄暗い室内では男がロータスの死体を解体している真っ最中だった。腹の裂け目から片手を突っ込み、小腸をロープを手繰るように引きずり出している。壁や天井の隙間から差し込む薄明かりでしか手元が見えないので、解体するのにかなりもたついているようだ。

「ウゥ……腹……減った……」

 ギュルギュルと大きな腹の虫の鳴く音を響かせ、血で濡れた口からは飢えた獣のように涎をダラリと垂らしながらも、その両手はひたすら死体の腹の中から小腸を引きずり出している。やがて小腸を取り除くと、次は大腸、その次は腎臓と、手当たり次第に邪魔なモノを取り除いてはその辺に投げ捨てる――。

 無造作にその辺に撒き散らされた臓物には、どこからか血の匂いを嗅ぎつけてやって来た無数の蠅が集っている。ブンブンと乱舞する鬱陶しい蠅にも男は気にする様子は一切なく、一心不乱に解体を続けている――そして、邪魔なモノが無くなって綺麗になった腹の奥へグッと突っ込んだ片腕は“何か”を掴んだ。

「……! あった!」

 死体の腹から腕を引き抜いた男の手に握られていたもの、それは“心臓”だった。ようやくお目当てのモノを手に入れた男は嬉しさで顔を綻ばせると、“それ”に勢いよく齧りついた。

「……フッ……ウウウ……ウ、ウメェ……ッ!!」

 夢中になって心臓を喰らう男。空腹のお陰もあって、いつもよりおいしいのかもしれない。――そんな男をよそに、通報を受けてやって来たモーガンたちが物置小屋の前に到着すると、モーガンとダリスが銃を構えてドアの両端に身体を寄せ、マイクは小屋の裏に回る。

「……確かに人の気配がする。それに、血腥い……いいか、ダリス。絶対に油断するなよ」

「わーってるよ。とっとと片づけて町を平和にしてやろうぜ」

 緊張で唾を飲むふたり。すると、裏に回っていたマイクが戻って来た。

「小屋の裏に回ったがドアはない。つまり、ヤツは“袋のネズミ”だ。この機を逃す手はない」

「あぁ、何としてでもヤツを、赤い悪魔をこの場で倒すぞ!」

「おうよ、ヤツにプレゼントで“逮捕状”と“棺桶”を持って来てやればよかったなァ!」

「もし、倒せたら最高級の棺桶をプレゼントしてやろうぜ――倒せたらな!」

 和やかに笑い合う3人――その刹那、モーガンが動いてドアを蹴破り中へ突入した。

「ウッ!?」

「赤い悪魔・ジョーキッド=ザ=ハートイーター! 保安官だ! 大人しくしろ!!」

 突然、差し込んだ眩しい光に怯む男――モーガンに続いてダリスとマイクも中へ突入すると、男に向けて二挺銃を、ライフルを構えた。

「コイツが例の赤い悪魔か!!」

「暴れんじゃねぇぞジョーキッド、暴れたら即“ズドン”だ!」

「……」

 “食事”を邪魔されたことに怒ったのか、ジョーキッドは喰いかけの心臓を捨てておもむろに立ち上がると、ギロリとモーガンたちを睨みつける――。

「……ウッ……、ウゥ……! ……ウガアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 ジョーキッドは華奢な身体に似合わぬ怪獣のような強烈な咆哮を発した――そのあまりの声の大きさと激しさで衝撃波が走ると、モーガンたちは一瞬怯んだ。だが、崩れた体勢を立て直すとジョーキッドを見据え、ジョーキッドもまた、モーガンたちを見据える。

 トルカ町の郊外で赤い悪魔と保安官、両者の戦いの火蓋が切られた――。


第6話 赤い悪魔【前編】3 fin


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