荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第6話 赤い悪魔【前編】3

 直後、ジェーンを狙った男が倒れた。――男の額には“穴”が空いている。どうやら彼女を撃つ前に何者かに撃たれたようだ。床で伏せていたジェーンとマリアが起き上がると、ふたりの目の前には男に向けて銃を構える死神の姿が。

「死神!」

「……もう大丈夫、男は殺しました」

「ごめんなさい、油断していたわ。マリアも、危険を顧みずに庇ってくれてありがとう」

「ううん、咄嗟に足が動いて……それよりもジェーンさん、おケガはありませんか!?」

「えぇ、大丈夫……どこもケガしてないわ。マリア、アンタが庇ってくれたお陰よ」

 いつしか顔色も戻った死神は銃をしまい立ち上がると、座り込むジェーンとマリアに手を差し伸べる。ふたりは順番に手を掴んで立ち上がると、服に着いた汚れを手で払い落とした。

「やれやれ、ここへきて既成事実を作ってしまったようだな」

「心配ないわ、正当防衛よ。先に攻撃してきたのはアイツらなんだから」

「そうですね。念の為、残りのふたりも縛り上げておきましょう。また襲われたら面倒だ」

「そうね、じゃあ投げ飛ばした男を引きずって来るから、ロープお願いするわ」

「えぇ」

〔“私たちはレストランで迷惑行為を働きました”〕

 仲間の死体と一緒に縛り上げられ、店の隅に放置されるならず者たち。その首にはマヌケなプラカードが下げられている。これで通報を受けた保安官たちが駆けつけても、引き渡しはスムーズに行くだろう。

「知らないうちにみーんないなくなって、すっかり静かになっちゃったわねぇ」

「こんな騒ぎが起これば当然でしょう。ですが、これでゆっくり食事が出来ます」

「あーっ!」

「?」

 突然、何かに気づいたマリアが叫び声を上げた。突然のことに何事かとジェーンと死神はマリアへ視線を向ける。

「そういえばまだ、ハンブルク風ステーキもプディングも食べてません! ……うぅ……思い出したら余計にお腹空いて目が回ってきちゃいました……」

 クラクラと目を回し、飢え死に寸前なマリア。そんな彼女に死神とジェーンは互いの顔を見合わせてクスクス笑うと、ジェーンが言葉を続ける。

「助けてくれたお礼に、ご馳走させてもらえる? 大したお礼じゃなくて悪いけど」

「礼ならマリアにだけどうぞ、自分は別にあなたのことを助ける気はなかったので」

「あら、アンタだってアタシを狙ったあのクソ野郎を撃ってくれたじゃない」

「条件反射ですよ、職業病とでも言いましょうか」

「あはは、西部一の殺し屋も楽じゃないわね。じゃ、そういうことにしておくわ」

「フフフ……えぇ、お願いします」

「先生~……ジェーンさ~ん……は、早く……早くお食事しましょうよ~……マリア、も、もう倒れちゃいそうです……」

 マリアが地の底から這い上がってくるような声でふたりの服をクイクイと引っ張る。その様子からして、彼女の空腹は既に限界を超えているようだ――倒れるのも時間の問題だろう。

「……。どうやら、ここにあなたより先に助けなければならない人物がいるようですね」

「そうね、命の恩人を餓死させたら100年先まで祟られるわ。あははははっ!」

 マリアにコートを、ポンチョの裾を引っ張られ急かされると、3人は先ほどのテーブル席に着いた。


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