荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第6話 赤い悪魔【前編】3

「ヒッヒヒ……ヒヒヒヒッ……ヒャーッハッハッハッ!!」

 小屋の中に響き渡る耳を塞ぎたくなるような大きな嗤い声――ついに、ついに赤い悪魔がその姿を現した。――牧場主、ジョン=ロータスは無残にも殺害され、その亡骸は小屋の奥へと引きずり込まれた。


***


 一方、死神とマリアはレストランへ向かい繫華街を歩いていた。行き交う大勢の人と荷馬車、繫華街はいつも通りの賑わいを見せている――死神も、町の住民たちも、まだ、誰も忍び寄る赤い悪魔の影に気づいていない。

「あーあ、葬儀屋さんも一緒にご飯に来ればよかったのにー」

「彼は今“棺桶作り”に忙しいですからね、仕方ありません」

「でも、まさかマリアの棺桶まであるとは思いませんでした……なんか複雑です……」

「えぇ、外も中も真っピンクな可愛らしい棺桶でしたね」

「たしかにピンクは好きだけど……アレに入るのはちょっと恥ずかしいです……うぅ……」

「死んでしまえばわかりませんよ」

「けど、先生の棺桶もすごかったです! 中に薔薇の花びらと黒い羽が散りばめられてて!」

「……外側は真っ黒で、十字の代わりに“死神の鎌”がクロスしていましたね」

「はいっ! なんかもう“死神の棺桶”って感じでした!」

「……、……彼は自分に対してどんなイメージを持っていたのでしょうか?」

「さぁ……マリアにもわかんないです……」

 そんな会話を交わしつつ歩いていると、ふたりの周りに噂を聞きつけて来たであろう町の若い婦人たちが数人ほど集まって来て、一斉に死神を取り囲んだ。

「ねぇ、あなたがあの死神じゃない!?」

「絶対そうよ、男たちが言ってた黒づくめの長身のやさ男!」

「へぇ~なんか陰気だけど、噂通り結構イイ男じゃない!」

 突然現れた婦人たちにマリアはたじろぐと、彼女たちの気迫に巻き込まれないようにコソコソとその場を離れる。

「死神さんは恋人はいるの? もしフリーだったらアタシ立候補しちゃおっかなぁ!」

「あ~! ずるーい! 私も立候補するわよ!」

「私もーっ!」

「みんなやめなさいよ、彼は“殺し屋”よ」

「……」

 ペラペラと好き勝手に話す婦人たちに死神は少々うんざりした様子で沈黙する。一方のマリアはというと、婦人たちに囲まれもみくちゃにされる死神を面白くなさそうに少し唇を尖らせながら遠巻きに見ている――恋する乙女の嫉妬といったところだろうか。

「ねぇ、ところであなたがハリー=ウィルソンを殺したって本当なの?」

「そうそう! みんな噂してるわよ、あなたが殺したんじゃないかって」

「あんな男、死んで当然よ! か弱い女子どもを殺すなんて人間じゃないわ!」

「本当よねー、死んでくれて清々したわ!」

 婦人のひとりが核心を突いた質問をすると他の婦人たちも次々と便乗し、そして、またペラペラと好き勝手に話し始める。

「いいえ、何度も言っていますが、皆さんの気のせいですよ。自分は誰も殺していません。……では、急いでいるので、これで失礼します」

「えーっ」

 婦人たちの会話を遮断すると死神は歩き出し、マリアも慌てて彼の後に続く――そして、何となく後ろを振り返えってみると、例の婦人たちはまだ凝り固まって好き勝手に話していた。その光景は女性ならではとでもいうべきか。

「……やっぱり、先生ってモテるんですね……」

「そんなことはありませんよ」

「だって、今、女性たちに囲まれてたし……」

「単に“物珍しいから”寄って来ただけでしょう、女性は珍しいもの好きが多いですから」

「……先生、先生は今まで女性とお付き合いしたことないんですか?」

「一度もありません」

「えーっ! どうしてですか!? こんなにカッコイイのに!?」

「あなたは何十人も殺している人殺しと付き合いたいと思いますか?」

「……」

「思わないでしょう? そういうことです」


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