荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第5話 赤い悪魔【前編】2

 グラスに入った酒を飲み干すと、死神はおもむろに口を開く。

「落ち着きなさい、おふたりとも。狼狽うろたえたところで状況は何も変わらない」

「お、落ち着けって……赤い悪魔が現れて喰われるかもしれないってのに、落ち着けるワケないでしょ!? そりゃあだんなは“よそ者”だから関係ないかもしれないけどさ、あっしら町の住人からしたら一大事だよ! あーもう! まだ21なのに死にたくなんかないよーっ!」

「マ、マリアも人を食べる悪魔になんて会いたくありませんっ……! うぅ……」

「そうですか? 自分は是非ともお目に掛かりたいですがね。何分、赤い悪魔のことは噂でしか聞いたことがないのでね。どのような人物かとても興味があります」

「……」

 涼しい顔で“赤い悪魔に会ってみたい”と言う死神にマディソンとマリアはポカンと口を開けて放心している。マリアの心配性同様、彼の“怖いもの知らず”もここまでくると才能と言っても過言ではないかもしれない。

「あ、呆れた……赤い悪魔に会ってみたいなんて……。そ、そこまで言うなら死神のだんなが赤い悪魔をやっつけておくれよ! 死神って呼ばれてるだんななら倒せるでしょ!?」

「いいえ、それは出来ません」

「何でさ!? だんな今、赤い悪魔に会いたいって言ったじゃないか!」

「会いたいのは山々ですが、赤い悪魔の“暗殺依頼”を受けていない。……相応の対価も受け取っていないのに、他者の為に自分の命を危険に晒すほど自分はお人好しではありません」

「……なるほどね、死神も所詮は“人”ってワケか」

「当然でしょう? ……それともマディソン、あなたが始末料の1000ドル、支払ってくれるのですか? いくら儲かっているとはいえ、1000ドルという大金……イチ葬儀屋のあなたに支払えるとは到底思えませんがね」

「確かにそんな大金、あっしには払えないけどさぁ……目の前に困ってる人がこーんなに大勢いるのに“しょうがないな、今回は特別に力になってやろう”とかちょっとは思わないの?」

「思いませんね」

 真顔で即答する死神にマディソンはズコッとコケるように上体を滑らせた。

「……だんな、あんた今まで生きてきて誰かに“人でなし”って言われたことない?」

「あります」

「あ、やっぱり?」

「えぇ、何度も」

「……」

「ですが、お陰でまだ町に滞在する理由がひとつ増えました」

「えっ……? ……そ、それって……!?」

 マディソンの問いかけに死神は小さく頷くとニヤリと笑みを浮かべる。

「赤い悪魔の暗殺依頼を待ちます」

「ほ、本当かい!? やったーっ! なんだ~なんだかんだ言ってだんなも赤い悪魔と闘う気満々だったんじゃないか~! いや~ありがたい! これであっしも枕を高くして眠れるよ」

「えぇ、その為に赤い悪魔には頑張って死人を増やして頂かないとね」

「……。……だんな、あんたやっぱり“人でなし”だよ」

「おや、死人が増えれば増えるほど“葬儀屋”のあなたも儲かるのですよ? それはとても喜ばしいことだと思うのですが、違いますか?」

「――! それもそうか! こうしちゃいられない! 事件が解決するまでに何人死ぬかわかんないし、今のうちにたくさん棺桶作っておこうっと!」

 死神のひと言で“商売魂”に火が点いたマディソンは席を立つと大急ぎで店の外へ走る――と、入口付近でピタッと足を止めて死神たちの方へ振り返る。

「あっ、そうそう……言い忘れてたけど、死神のだんなの棺桶もう完成してるからさ。心置きなく死んで大丈夫だよ! 何なら今度、お嬢ちゃんと見に来ておくれ! それじゃあねーっ!」


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