荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第5話 赤い悪魔【前編】2

 するとそのとき、重苦しい沈黙を切り裂くようにスイングドアが開き男たちが店内になだれ込んで来た。――マイクとダリスとロビンだ。マイクたちは店内を見渡し、奥のテーブル席に座るニコラスを見つけると足早に歩み寄る。

「あれ? お前ら雁首揃えてどうしたんだ!?」

 マイクたちに気づいたニコラスも席を立つと3人に歩み寄る。

「ニコラス、死神の監視は一旦やめだ。すぐに事務所に戻れ……ヤバいことになった」

「ヤバいこと? 何だ? モーガンの切れ痔でも悪化したのか!?」

「違う」

 ニコラスのおふざけを一蹴するマイク。いつもならここで一緒になってふざけ合うのに、今日の彼の表情と態度は厳しい。後ろのダリスとロビンの表情もどこか憂鬱だ。――そんな3人を見て“本当に笑いごとではない”と、気づくとニコラスは小さな咳払いをして色を正す。

「じゃあ、いったい何だってんだよ……?」

そいつ死神なんかよりもずっとヤバいヤツのお出ましかもしれねぇ」

死神こいつよりもヤバいヤツ?」

「あぁ、今日、郊外の牧場で家畜の変死体が発見された。調べた結果、家畜はすべて銃殺された後、腹を裂かれ心臓を抜き取られていた。……赤い悪魔、ヤツのしわざかもしれない」

「赤い悪魔!? まさか……ヤツがこの町に現れたってのか!?」

 “赤い悪魔”と聞いたニコラスの顔がどんどん青ざめていく。

「お、おい! 今の聞いたか!? 赤い悪魔がこの町に現れたかもしれねぇってよ!」

「あの人を喰うという恐ろしい殺人鬼が!?」

「ウ……ウソだろ!?」

「もし本当だったら早いとここの町から出た方がいい、俺らも喰われるぞ!」

「なんてこった……俺、まだ死にたかねぇよ」

「悪徳町長が死んでやっと町が平和になったっていうのに……!」

 保安官たちの話に聞き耳を立てていた店内の客たちもどよめき始める。――先ほどまで賑やかな声で溢れていた店内は一転、赤い悪魔出現の不安と恐怖で騒然とした。

「……まだ断定こそしていないが、心臓だけを抜き取るという残忍かつ猟奇的な手口からしてほぼ赤い悪魔に間違いないだろう。とにかく一緒に事務所へ戻るぞ、今頃、モーガンが必死こいて資料を漁ってるハズだ。――何とか対策を練ってヤツを食い止めるんだ」

「あぁ、わかった。急ごう」

 話しを終えるとニコラスは死神たちに挨拶もせずマイクたちと共に酒場を出て行く――彼らが去った後も依然として店内は混乱したままだ。バーテンが落ち着くよう客たちに声を掛けても一向に事態は収まらない――それほどまでに“赤い悪魔”は脅威であるということだ。

「ひえぇ……あ、赤い悪魔……! と、とんでもないことになっちまったなぁ……」

「うぅ……こ、怖いです……」

「……」

マディソンとマリアも動揺を隠せないようだが、唯一、死神だけは至って平常で呑気にグラスを傾けている。事の重大さがわかっているのかいないのか――。

「だ、だんな~! こんなときになにのん気に酒なんか飲んでるのさ!?」

「そ、そうですよ先生! 悪魔ですよ!? 悪魔が現れたかもしれないんですよっ!?」

「……」

 終始マイペースな死神に呆れるふたり。だが、当の死神からは返事はない。


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