荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第5話 赤い悪魔【前編】2

「あっ! おいモーガンどこ行くんだよ!?」

「追うなダリス! 放っておけ!」

 咄嗟にモーガンを追いかけようとしたダリスをマイクが制止する。

「ああなった以上、止めるだけ無駄ってもんだ」

「だけどよ――」

「いいって言ってるだろ! ダリス、お前まで俺をイラつかせる気か!?」

 渋るダリスをマイクはギロリと睨みつける。荒くれ者揃いのメンバーの中でも比較的“温厚”な彼の鋭い眼光はモーガンやニコラスとはまた違った“凄み”を持っている。睨まれたダリスは圧倒されてしまいその場を動くことが出来なかった。まさに蛇に睨まれたカエルだ。

「うっ……! い、いいのかよホントに……だってモーガンはお前の相棒だろ!?」

 やはりダリスはモーガンが心配なようだ。そんなダリスをよそに「ふぅ……」と小さなため息をひとつつくと、マイクは乱れた襟元を両手でキレイに整えスカーフを巻き直す。

「……大丈夫だよ、モーガンはお前やニコラスと違って決して先走ったりなんてしねぇ。――ただ、赤い悪魔のことでチョットだけ神経質ナーバスになってるだけさ。すぐにいつも通りになるよ」

「ホントかよ……?」

 いつもモーガンに勤務態度の悪さを注意され頭を小突かれているせいか、ちょっとだけ“神経質になっている”と言われてもダリスにはいまいちピンとこなかった。

「あの、それよりマイクさん……さっきふたりが話してた“赤い悪魔”って何者なんですか?」

「ん? あぁ、赤い悪魔ってのは――」

「そうそれ! さっきから俺も気になってんだよ!」

 ロビンの後ろからニョキッとダリスが顔を出すと、ふたりの会話に割り込んでくる。

「いつも冷静沈着なモーガンさんがあんなに取り乱すんだ、絶対ヤバいヤツですよね……」

「そりゃあ“悪魔”っつーぐれェだからなァ」

「“死体製造人”のクレー=アリソンとどっちがヤバいですかね?」

「あっちは人間だけど、こっちは悪魔だぜ? 人間が悪魔に勝てっかよ」

「えーっ! じゃあ僕たち絶体絶命の大ピンチじゃないですか!」

「……」

 勝手なことをベラベラ話しだすダリスとロビン。ふたりのまるで中身のない会話にはマイクも聞いてて耳が痛いようで「はいはいそこまでそこまで」と強制的に会話を中断させた。

「何だよお前ら保安官なのに赤い悪魔のことも知らねぇのか? ったく、勉強が足りねぇよ」

 マイクは呆れ顔でダリスとロビンの額を指先で順番にツンと突く。額を突かれたダリスは唇を尖らせてむくれ、ロビンはしょんぼりと眉尻を下げる。

「すみません……」

「勿体ぶってねーでいいから俺たちにも教えろよ! 赤い悪魔って何なんだ!?」

「勿体ぶってなんてねぇよ。つうかダリス、お前が急に話に割って入ってきたから有耶無耶になったんだろ? ったく……まぁいい、まずはニコラスを呼びに行く。赤い悪魔の話はそれからだ。行くぞ」

 急かすダリスとロビンを宥めるとマイクは繫華街へ向かって足早に歩き出す。――残されたふたりは互いの顔を見合わせると小走りでマイクの後を追いかけた。

「(赤い悪魔ジョーキッド、か……まったく、やっと町が平和になったと思ったのにとんでもねぇことになっちまったな。――これ以上、何も起こらなければいいんだが……)」

 マイクは腹の中で何とか事態の終息を願うが、彼の願いも虚しく次の悲劇は起きてしまう。


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