荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第5話 赤い悪魔【前編】2

 場所は変わりトルカ町の郊外・ロータス牧場――。

 牧場主のジョン=ロータスは事件現場の家畜小屋の後片づけもそっちのけでリビングで酒を浴びていた。テーブルの上と足元にはいくつもの酒瓶が転がっていて殺伐としている。

「わん! わん! わん!」

 外では番犬がけたたましく吠えている。“もう守るべき家畜はいないのに、何をそんなに必死に吠えてるんだ”――ロータスはそう腹の中で愚痴りつつ空になったグラスに酒を注ぐ。

「わん! わん! わん!」

「おーい、ロッキー! うるせぇぞ」

「わん! わん! わん!」

「おい、ロッキー! 静かにしろ」

「わん! わん! わん!」

「バカ犬! うるせぇぞ! 静かにしろって言ってんだろ!!」

 吠え続ける番犬にロータスは苛立ちグラスを床に叩きつけると声を張り上げた。そして犬を黙らせようと立ち上がり表へ出る。

「わんわんわんわんうるせーぞ! このクソ犬が! 肝心なときに何の役にも立たないクセに、こんなときばかり無駄に吠えやがって! お前が役立たずなせいで俺の大事な牛は全部死んだんだぞ! どうしてくれんだ!? ったく、お前なんか拾って来るんじゃなかったぜ!」

「わん! わん! わん!」

「うるせぇって言ってんだろ! だいたいお前いったい何に向かって吠えてんだ!?」

 ある一点に向かって一心不乱に吠える犬。ロータスも犬が吠える一点に視線を向けると、目の前には作業道具を保管する為の物置小屋があった。――だが、不自然なことに戸締りをしたはずのドアが若干開いている。もちろん、今日はまだ作業はしていない。

「おかしい……ちゃんと閉めたはずなのにドアが開いてる……まさか、盗人ぬすっと!? 変質者の次は盗人かよクソッたれ! ――待ってろよ盗人め、すぐにブッ殺してやるっ!」

 次から次へと降りかかってくる災難にはらわたが煮えくりかえったロータスは急いで家に戻ると自室に入り、壁に掛けてあった護身用のライフルを持って小屋へ走る。

「ん……何だありゃあ……? ドアの隙間から何か見える……?」

 恐る恐るドアの隙間から覗いているものを確認するロータス。

「……? ――! こ、これは……ひ、ひひ、人の足だっ!!」

 ロータスが見たモノ――それは“人の足”だった。――僅かに露出した足先から見ると性別は“男”のようだ。しかも寝ているようで、ピクリとも動かない。

「クソッ! 盗人め……人んちに盗みに入った上に、のん気にグースカ寝やがって……許さねぇ! とっ捕まえて保安官に引き渡してやる!」

 侵入した盗人を捕らえるべく、ロータスは果敢にドアを開けて小屋の中へ入った。

「おい、お前! 人んちの小屋でいったい何を――」

 寝ているであろう人物にライフルを向けるロータス――だが、横たわる人物を見た瞬間、彼は凍りつきガシャン、とライフルを足元に落とした。

「お、お……お前……い、いい……いったいそこで何をしてるんだ……っ!?」

 小屋の中でロータスが見たもの、それは見知らぬ男の死体と、その隣で男の死体の腹を刃物で裂き、一心不乱に辺りに臓物を撒き散らしているもうひとりの人物――まるで“何か”を物色しているかのようだ。

「ウッ……!?」

 薄明かりだった室内に突然、差し込んできた強い光。驚いた謎の人物はグルン、とロータスに顔を向けると、おもむろに立ち上がる――。

「……」

 老人のように真っ白で腰下まで伸びた長い髪、紅い宝石がはめ込まれた十字架が輝く赤い帽子。帽子と同色のロングコートとズボンは裾が擦り切れていてボロボロ、中に着た黒いシャツもところどころボタンが掛け違えている。挙句に黒い靴は砂で汚れていて見る影もない。肌は色素が抜けたように青白く、瞳もどこか紫がかっている。彫刻のような彫の深い端正な顔と首には大きな縫い目――そして、身体はまともに歩けるのか心配なほどガリガリに痩せ細っている。


12 / 13

著作者の他の作品

その場のノリと思い付きだけで書いた「荒野の死神」のハロウィンパロ。ただの...

舞台は17世紀ヨーロッパ。トランシルヴァニア公国の貴族「ギュスターヴ」の跡...