荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第4話 赤い悪魔【前編】1

「モーガン、死神の監視役……本当にニコラスで大丈夫なのか?」

 ニコラスにちゃんと監視役が務まるのか心配したマイクがモーガンに尋ねる。

「心配すんなって、むしろニコラスじゃなきゃ務まらねぇよ」

「随分と自信たっぷりだな? そんなにニコラスの能力を買ってるのか?」

「だってあいつ昨日、事務所で延々と死神の話してたじゃねぇか。死神と仲良いんだろ」

 モーガンの返事にマイクは思わず目を見開く。

「話って言ってもほとんど悪口だぞ?」

「なぁに、喧嘩するほど仲が良いって言うじゃねぇか」

「……モーガン、まさか……それだけの理由でニコラスを死神の監視役にしたのか?」

「それだけ理由があれば十分だろ」

「……」

 “死神と関わりがあるから”――モーガンが死神の監視役にニコラスを指名した理由にポカンと 口を開けるマイク。“開いた口が塞がらない”とはまさにこのことだ。至極単純な理由で任務を押しつけられたニコラスを哀れに思うと同時にモーガンのいい加減さに呆れる。そして手で顔を押さえるとため息交じりで「ダメだこりゃあ」と、ひと言漏らした。

「モーガンさんっ! モーガンさんっ! 大変だーっ!」

 するとそのとき、若い男が慌てた様子で取り調べ室へ入って来た。白い肌にクリっとした大きな青い瞳、輝く金髪、両目の下にはそばかす。服装は青いシャツに茶色のベスト、帽子、派手な赤のスカーフ、チャップス(股擦れ防止カバー)が付いた青いジーンズといった”カウボーイファッション”のこれといった特徴もないどこにでもいる地味な青年だ。

「どうした? ロビン」

「事件ですよ事件! 今、住人から通報があって!」

「何だ!? 死神の野郎、舌の根も乾かないうちにもう人を殺しやがったのか!?」

「違いますよ! 町の郊外の牧場で“牛”が数頭殺されたそうです!」

「牛!?」

 ロビンの牛が殺されたという報せにモーガンとマイクとダリスは声を揃えて叫んだ。

「お前なぁ……たかが家畜が殺されたくらいで、いくら何でも大袈裟過ぎるだろ」

「マイクに同意、“家畜”が死んで“事件”じゃ“人間”が死んだら“非常事態”だな」

「そーそー! どーせ家畜泥棒だよ! ほっとけほっとけ! こっちはな、ハリー=ウィルソン暗殺事件の捜査で忙しいんだよ! そんなショボい家畜泥棒なんかいちいち相手にしてられっかってんだ!」

 話を誇張しがちなロビンにモーガンたちはやや失笑気味だ。だが、当のロビンは至って大まじめで失笑する3人にムッと顔をしかめると報告を続ける。

「それが普通の殺し方じゃないんですって! 今、事務所に来てる牧場主の男性の話ではどの牛も“心臓”だけが抉り取られて無くなってるらしいんですよ!」

「……“心臓”?」

「えぇ、仮に家畜泥棒だとしても、殺した上に心臓だけ奪うなんてどう考えても変じゃないですか!」

「……」

 家畜殺しの犯人の“心臓だけを抉り取る”という残酷かつ猟奇的な殺し方が引っ掛かったのか、先ほどの笑顔から一転してモーガンの表情が険しくなった。

「ねっ! 普通じゃあり得ないでしょ!?」

「ロビン、その家畜が殺されたのはどこの牧場だ?」

「ロータス牧場です!」

「……よし、行くぞ。マイク、ダリス! お前らも一緒に来い」

「はァ!? お、おいモーガン! 本気かよ!?」

 ふたりに同行するよう指示を出すと、モーガンとロビンは取り調べ室から出て行った。マイクとダリスも互いの顔を見合わせると、一足遅れてふたりの後を追いかける。

「(……“心臓”……何か恐ろしく嫌な予感がする……俺の単なる思い過ごしだといいんだが……)」

 牧場主の中年の男性、ロビンたちと共に繫華街から郊外へ向かうモーガンの心にはどす黒い不安が広がっていた――。


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