荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第4話 赤い悪魔【前編】1

いてェッ!?」

 突然、取り調べ室内にダリスの悲鳴が響いた。悲鳴を聞いたモーガンとニコラスがダリスに視線を向けると、ダリスは両手で頭を抱えながらうずくまって小刻みに震えている。

 うずくまるダリスの後ろには男が拳を握り立っていた。白い肌に茶色の瞳、茶色の短髪、綺麗に整えられた顎鬚、白を基調としたシンプルだが小洒落た服装の長身で細身の中年。

「なーにが“無駄足”だバカ。捜査に無駄なことなんかひとつもねぇよ」

「って~……て、テメェ! マイク! いきなり何しやがんだッ!?」

「お前がバカなこと言うからだよ、ダリス」

「おう、マイク! お疲れさん」

 ニコラスがマイクに労いの言葉を掛ける。彼の言葉にマイクは「おう、ありがとよ」と返すと出入口を塞ぐダリスを退けて室内に入りモーガンの傍へ歩み寄る。

「さっきダリスが言った通り、草の根分けて探したが現場からは有力な手掛かりは何も出なかった。不審な人物を見たという目撃情報もない……まさに“お手上げ”状態さ」

「……」

標的ターゲットだけを狙い確実に仕留める仕事の正確さと早さ、証拠ひとつ残さないまるで“亡霊”のような鮮やかな逃亡……ありゃあシロウトじゃ無理だ。……犯人は相当な手練れだぜ」

「ま、そりゃあそうだろうな」

 マイクはモーガンに現在の捜査状況を報告し終えると死神に視線を向ける。

「こいつがあの死神か、ただの華奢な色男だな。……こんなのに本当に人が殺せるのか?」

「俺も到底信じられねぇが、人を殺やれなきゃ“死神”なんて物騒な二つ名はつかねぇだろうよ。――さて、死神。マイクの報告でお前さんが犯人である可能性がさらに濃厚になったわけだが、何か言いたいことはあるか?」

 そう言って死神に視線を向けるモーガン。そんな彼に死神は気だるげに、“いったい何度同じことを言わせるんだ”と言いたげにため息をつくと口を開く。

「言ったはずです、自分が犯人であると仰るのなら“決定的な証拠”を提示してください。……そうすれば自分も潔く罪を認め、死刑台に立ちましょう」

「……」

「テメェが犯人に決まってんだろ! とっとと白状して縛り首にでもなりやがれッ!!」

 横からしゃしゃり出るダリス。そこへすかさずニコラスが「お前は黙ってろ!」とダリスの頭上に鉄拳を落とす。彼の全身に電流が流れるような強烈な一撃にダリスは「いでェーッ!!」と両手で頭を抱え悶絶した。

「……現時点で自分が犯人であることを示す証拠が何も無い以上、これ以上の取り調べは無意味。そろそろ帰らせては頂けませんか? 何分、ひどく心配性な連れがいるものでね」

「……あぁ、わかった。今日のところはこれくらいにしといてやるよ。今日のところはな」

 “今日のところは”と言うモーガンに死神はピクッと眉を動かす。

「まだ納得がいきませんか? ……疑り深い方だ」

「あぁ、まだ疑いは完全に晴れたわけじゃないからな。――それに、お前さんが犯人じゃないという証拠だってどこにも無い」

「……」


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