荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第4話 赤い悪魔【前編】1

 繁華街の一角にある保安官事務所、そこへ死神はハリー=ウィルソン暗殺事件の“容疑者”として連行された。ニコラスに連れられて事務所の中へ入る。事務所の中は割と広いが内装は質素で、出入り口から入って右奥に1つ、その傍に4つデスクが寄せられ縦方向に並べられている。左の壁際には大量の書類が保存されている大きな棚が2つ、部屋の中心には小さな応接スペースがあり、テーブルの上には先ほどまで遊ばれていたのであろう、3人分のトランプの手札と山が放置してある。そして、右奥の孤立したデスクには新聞を読む男がひとり。

「モーガン、連れて来たぜ。こいつがあの死神だ」

 ニコラスが死神をモーガンという男の元へ連れて行く。ふたりがデスクの前に立つと、モーガンは新聞を畳み無造作に置くと無言で死神を睨みつける。白い肌、茶色の瞳、こげ茶色の短髪、一切手入れのされていない髭面、黒の帽子、ベスト、ズボン、白シャツに黒ネクタイを締めたシックな装いの厳つい中年の男。その静かで落ち着いた佇まいからはベテラン保安官の“貫禄”が感じられる。

「こいつが? 死神っつうぐらいだからどんな凶悪な野郎かと思えば……なんだ、ちっぽけでひ弱な若造じゃねぇか。こんなのに本当に人が殺せるのかよ? ゴキブリすら殺せなさそうだぜ?」

 見かけで判断するモーガンに死神は失笑すると、両方の手のひらを上に向けて両肩を上げる。

「人は見かけによらないものです、自分に人が殺せないかどうか……お試しになりますか?」

「! ……ほぉ! 言ってくれるじゃねぇか、若造!」

 物怖じするどころかむしろ挑発する死神にモーガンは感心した様子で声を上げると、その挑発に乗ろうとする。そこへすかさずニコラスが割って入った。

「おい! やめろよこんなところで!」

「はっはっは! 冗談に決まってんだろ! こんなとこでドンパチやるほど俺はバカじゃねぇ」

 モーガンは茶化したようにそう言うとニコラスを一瞥する、モーガンの視線にニコラスは“自分のこと”を言われていると勘づくと、咄嗟に彼に反論した。

「……なんで俺の顏見て言うんだよ!? 俺だってなぁ! 場所くらい弁えるっつーの!」

「別にお前のこと言ったわけじゃねぇよニコラス。……それとも何か? お前、自分が“バカ”だって自覚があんのか? はっはっはっ! “バカは自分がバカなのに気づかない”って言うが、お前ちゃんとわかってんじゃねぇか! どうやらただのバカじゃなかったみてぇだな!結構結構!」

「なっ、何だとコラーっ! モーガンてめぇっ!」

「おーおー! 相変わらず威勢がいいなぁ! はっはっは!」

 カッとなったニコラスはモーガンに掴み掛かる。両手で乱暴に襟ぐりを掴まれるもモーガンは至って余裕だ、きっと彼らの間ではこのやり取りは“いつものこと”なのだろう。

「おやめなさいニコラス。あなた先ほど我々に注意したばかりでしょう?」

 死神の制止でニコラスはハッと我に返ると、慌ててモーガンの襟ぐりから手を放し気恥ずかしそうに頬を赤らめてゴホン、と咳払いをする。

「……それよりモーガン、マイクとダリスとロビンは? もう行っちまったのか?」

「あぁ、お前がこいつ死神をしょっ引きに出た後すぐにウィルソン邸へ行ったよ、そのうち戻って来るだろう。んじゃ、さっそく奥の部屋で取り調べといこうじゃねぇか。……覚悟しろよ? 死神さんよ」

「……」

「モーガン、俺も取り調べに立ち会うぜ」

 モーガンの脅しに“望むところだ”と言わんばかりに死神はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。そんなふたりをニコラスは少々不安げに見つめる。そして、モーガンは席を立つと奥の取り調べ室のドアを開けて中へ入って行った。死神とニコラスは互いの顔を見合わせると、一拍間を置いてモーガンの後に続く。


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