荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第4話 赤い悪魔【前編】1

「先生ーっ! 先生っ!」

 人混みを掻き分けながら急いでふたりの後を追いかけて来たマリアが死神の腕を掴む。死神は立ち止まりマリアを見ると「離しなさい」と言い腕を掴むマリアを振り払おうとするが、どうしても死神と離れたくないマリアは必死に死神の腕にしがみつく。

「マリア、離しなさい。自分の言うことが聞けないのですか?」

「だって! だって先生……!」

 極度の不安と寂しさで声を詰まらせるマリア、彼女の死神をじっと見つめるその両目はウルウルと潤み目元には涙が溜まっている。今にも零れ落ちそうだ。――今にも大泣きしそうなマリアを見かねたニコラスがマリアに近づくと、屈んで彼女に目線を合わせる。

「ハハハッ! そんな顔するなよマリア! ちょっと事務所で死神と事件のことで話すだけだって! なぁに、こいつに何もやましいことがなけりゃあすぐに釈放されるよ! なっ!?」

 ニコラスは笑顔でマリアを説きつけ彼女の帽子を取ると、ポンポンと軽く頭を撫でたのち再び帽子を被せる。

「ニコラスの仰る通り、昨夜の暗殺事件について少々お話しするだけ。……もしかしたら暫く拘留されるかもしれませんが、必ず戻ります。それまでお待ちなさい、いいですね?」

 ニコラスと死神の言葉にマリアは少し俯いて沈黙したのち、顔を上げ頷くと死神の腕を掴んでいた手を離した。そこへマリアを追いかけて来たマディソンが合流する。

「ふぃ~……追いついた……もう! ダメだよお嬢ちゃん! ニコラスのだんなの邪魔しちゃ!」

「うぅ……ごめんなさい……」

 マディソンに叱られたマリアはしょんぼりと肩を落とした。

「あまり彼女を責めないでやってください、自分を心配するゆえの行動です。……マディソン、自分が戻るまでマリアのことを頼めますか?」

「えっ? あっしは別に“子守り料”さえ貰えりゃ構わないけど」

「マディソン! お前なぁ~……こんなときまで細かく金せびってんじゃねーよ! 子どもの面倒くらいタダで見てやれ! ったく、この意地汚い金の亡者がっ!」

「はぁ~!? 何であっしが身内ならまだしも他人の子どもの面倒をタダで見なきゃなんないのさ!? だいたいねぇ、世の中“タダより高い物はない”の!」

「かぁーっ! お前って本当に欲の塊だな!? お前には“人情”ってもんが無いのかよ!?」

「なーに言ってんの! ニコラスのだんながお人好し過ぎるんだよ!」

「何だとてめーっ! この野郎! いっぺんとっちめてやろうかっ!?」

 マディソンのひと言でカッとなったニコラスがマディソンの胸ぐらを乱暴に掴み、彼に一発お見舞いしてやろうと拳を振りかざす。

「ふたりともおやめなさい。……マリアの前で見苦しい」

 死神の制止にニコラスの拳がピタリと止まる――そして傍で不安そうにふたりを見つめるマリアを見ると慌てて拳をしまい、マディソンの胸ぐらからもう片方の手を放した。

「まったく……」

 死神は呆れた表情でため息をつくと「行きますよ、ニコラス」とロングコートを翻して歩き出す。死神に呆れられたニコラスは“お前のせいだからな”と言わんばかりにじろりとマディソンを睨むと、小走りで死神の後を追った。

「だんなーっ! 子守り料忘れないでよーっ!」

 そう言いながら歩いて行くふたりに手を振るマディソン。それを聞いたニコラスが振り返り「うるせぇ!」と彼に一喝する。

「葬儀屋さん、全然反省してませんね……」

 まったく反省している様子がないマディソンにマリアも呆れた表情で苦言を呈するが、当のマディソンはマリアの苦言に対し「え? 何が?」と返し、彼女に言われたことの意味がまったくわかっていないようだ。そんな彼を見てマリアは「何でもありません……」とため息をつきながら肩をすくめた。


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