荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第4話 赤い悪魔【前編】1

 あらかた捜査を終えて4人は家畜小屋を出る。ダリスとロビンはさっさと表へ出るとスーッと深呼吸をした。まずい空気の屋内にずっといたせいか、外の空気はとても新鮮で何十倍もおいしく思えた。ふたりに続いてマイクとモーガンも小屋から出ると、さっそく通報者の男性に聴取を始める。

「本当にとんでもねぇ現場だったぜ、ゲロどころか内臓まで出ちまいそうだった」

「そうだろ? ……それで、捜査の方は?」

「牛の死骸を調べたところ、死因は“銃殺”だった。今のところ犯人に繋がる有力な手掛かりは無い……ロータス、家畜殺しの犯人に心当たりはあるか?」

「バカ言ってんじゃねぇぞモーガン! あるわけねぇだろ! うちの大事な商売道具をあんなにしやがって! 見当がついてりゃ今すぐにでもブッ殺しに行ってるところだ!!」

「ま、ま、ま! そりゃそうだな悪かった!」

 大事な家畜を殺されて烈火のごとく怒る男性をモーガンは苦笑交じりで宥める。

「――で、肝心の銃声は聞いたのか?」

「いや、何も聞いてない。さっきも言ったが息子が餌をやりに行ったらあの有様だ」

「……つまり、犯行は昨夜から未明にかけて、か……。じゃあ昨夜は銃声は聞いたか?」

「いや、それがだな……俺も息子も家にいたことはいたんだが、ふたりで大酒食らって酔い潰れて寝ちまってたから何も覚えてねぇんだ。なんせ俺も息子も大の酒豪だからよ」

「飲んだくれの間違いだろ?」

 モーガンのさり気ないツッコミに男性はムッと顔をしかめギロリと睨みつけるも、睨まれたモーガンはいつものようにおおらかに笑って誤魔化す。もし、相手が彼でなければ暴力沙汰に発展していただろう――横にいるマイクは呆れ顔だ。

「……とにかく、俺も息子も銃声は聞いてないし犯人に心当たりもない」

「そうか……他に被害に遭った牧場は?」

「俺のとこだけさ、向こう隣りのエマーソン牧場は何事もなかったらしい。……クソッ!」

「……」

 思いもよらぬ事件に巻き込まれて激しく落胆する男性、モーガンとマイクは互いの顔を見合わせ肩をすくめる。町の郊外で発生した家畜殺しなどハリー=ウィルソン暗殺事件に比べればほんの小さな事件だ。だが、かといってこのまま放置するわけにもいかない。

「……家畜殺しの犯人はまだ付近をうろついてるかもしれない。とりあえず、小屋には新しい錠をつけて家の方もしっかり戸締りしておけ、いいな?」

「あぁ……」

 “この家畜殺しはどう考えても普通じゃない”――モーガンの心に広がるどす黒い不安は今日の捜査でさらに大きく強くなった。

「……また明日、詳しい話を訊きにここへ来るよ。いいか、ロータス? くれぐれもバカなことだけは考えるなよ? とにかく今日はウマいモンたらふく食って思いっきり酒浴びて寝ろ」

「あぁ、ありがとよ。モーガン」

 何か気の利いた励ましの言葉ひとつでも掛けたかったが、今のモーガンにはこれくらいしか言葉が見つからなかった。たとえ家畜といえども彼の大切な宝物だったのだ、その宝物を失ったショックはあまりにも大きい。半端な慰めはかえって相手を傷つけてしまうだけ。

 小屋の前で憮然と立ち尽くす男性、そんな彼に対し“その場の感情に任せて早まったマネだけはしないでくれ”――心の中でそう願いながらモーガンはマイク、ダリス、ロビンに声を掛け牧場を後にした。

 突如、トルカ町の郊外で発生した猟奇家畜殺し。一見、変質者の犯行と思われるこの小さな事件はこれから始まる“惨劇”の序章に過ぎないのをこのときのモーガンたちはまだ知る由もなかった――。


第4話 赤い悪魔【前編】1 fin


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