荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第4話 赤い悪魔【前編】1

「お、お前ら勘違いすんな! 俺とこいつは“そういう関係”じゃねぇ! “もっと別の関係”だ!」

 何やらとんでもない誤解をされているとわかると、ニコラスの顔はサーッと青ざめ必死に住人たちに弁解する。――が、誤解を解くどころかニコラスの“もっと別の関係”という発言でふたりを見る住人たちの目はさらに冷ややかで蔑んだものとなり、やがてその場から続々と離れて行く。――この一件でふたりは一部の住民から完全に誤解されてしまったようだ。

「おいコラ待てお前ら! だから! 俺とこいつはそういう関係じゃねーってのっ!!」

「もう、おやめなさい……あなたが弁解したところで火に油を注ぐだけです」

 ニコラスの軽はずみな言動のせいで、住民たちから要らぬ誤解をされたことにさすがの死神も怒りを隠せないようで、ギロリと殺意を帯びた目でニコラスを睨みつけた。

「うっ……」

 死神の鋭い眼光にニコラスは思わずたじろぐ。――それもそのはず、殺し屋というだけで印象は最悪なのに、さらに“男と関係を持っている”という噂まで広がれば致命傷は避けられない。一方のニコラスも今回ばかりは自分のせいであることを自覚しているようで「悪い……」と消え入りそうなほどの小さな声で死神に謝罪すると、ガックリと肩を落とした。

「やってしまったことは仕方ありません。今日の一件もいずれ人々の記憶から消えるでしょう。――ですが、ニコラス、あなたは二度と自分と一緒のときは喋るな……」

 静かに怒りを剥き出しにしてニコラスにそう言い放つと、死神は踵を返し歩き出した。

「あっ! ちょっと待て!」

 ニコラスは咄嗟に歩いて行く死神を追いかけるが、彼の中に渦巻く地獄の業火のような激しい怒りは歩くスピードに露骨なほど表れている。普段でさえ歩くスピードが速く、ついて歩くのも大変なのに今の“怒り状態”の死神はそれ以上に速い。どんどんふたりの距離が広がる――気づけばニコラスは小走りになっていた。

「なぁ~死神~! 俺が悪かったから機嫌直せよ!」

「……」

「おい」

「……」

「死神、聞いてんのか?」

「……」

「死神! お前なぁ……“うん”でも“すん”でもいいから何とか言えよっ!」

「言ったはずです。……自分と一緒のときは喋るな」

 冷たく突っ撥ねる死神にニコラスはムッと顔をしかめる。

「あのなぁ……過ぎたことをいつまでも気にしても仕方ねぇだろ? いい加減、機嫌直せよ」

「いったい誰のせいでこうなったとお思いですか? 」

「うっ……俺のせい、だけどよ……もういいだろ? あとで好きなだけ酒奢るからさ、な!?」

「結構です」

 ニコラスは死神を宥めるが、彼の怒りは依然として収まらない。何とか機嫌を直そうと必死になって話し掛けるも、死神はニコラスを無視してどんどん先を歩いて行く。

「(くっそー……あいつかなり怒ってるぞ……。まぁ、ありゃあ確かに俺のせいだから文句は言えねぇけどよ、いくら何でもへそ曲げすぎじゃねぇのか? ったく……ガキじゃあるまいし)」

 なかなか機嫌を直さない死神にニコラスは少々イラついてきたのか、腹の中でグチグチと文句を垂れる。すると、前を歩いていた死神がピタリと立ち止まったその刹那、後ろを振り返ってじろりとニコラスを睨む。

「……子どもみたいで悪かったですね」

「はぁ!? お、俺、ガキみてぇだなんてそんなこと言ってねぇぞ!」

「……」

 疑いの眼差しをニコラスに向けつつ死神は再び歩き出す。一方、死神に腹案を言い当てられたニコラスはボソッと「なんで聞こえてんだよ……やっぱりあいつ人間じゃねぇな……」と、近くにいても聞き取れないほどの小声で愚痴を零した。

「あなたもわからない方ですね、自分はれっきとした人間ですよ」

「だからなんで聞こえてんだよ!?」


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