荒野の死神 荒野の死神 第2部【赤い悪魔編・上巻】

第4話 赤い悪魔【前編】1

 一方、モーガンから指令を受けたニコラスは死神を追いかけ繫華街を走っていた。行き交う人々と荷馬車を避けながら必死に死神を探す。自分よりも2~3分ほど前に事務所から出て行ったのだから、普通ならもう追いついているはずだが追いつくどころか彼の姿はどこにもない。

「くっそー! あいつどこ行きやがった!?」

 人込みを掻き分けながらキョロキョロと辺りを見回し探していると、遠くの方に全身黒づくめの男が見えた――酒場がある方角へ向かっているのと背格好からしてお目当ての死神にほぼ間違いない。

「やっと見つけた!」

 手間取らせやがってと言わんばかりに舌打ちをすると、ニコラスは大急ぎで死神の元へ走る。

いでぇーっ!?」

「おおっと悪わりぃ!」

 途中、ドンッ! と若い男性とぶつかって男性を撥ね飛ばしながらもニコラスは全力で走る。一方、遥か前を歩く死神もドドドドドと背後から自分の方へ迫って来る地響きを伴う大きな足音と“不吉な気配”を感じると、バッと後ろを振り返った。

「……? あれは……ニコラス?」

「死神ーっ! そのままそこを動くなーっ!!」

 何とか無事に死神を捕まえることが出来た。が、久し振りに全力疾走したせいでニコラスはすっかり息が上がってしまい話しをするどころではない。ゼェゼェと呼吸を荒げ今にも倒れてしまいそうなニコラスを死神は心配するわけでもなく、ただ無言でじっと見つめている。

「や、やっと追いついた……! し、死神……お、お前なぁ……俺よりちょっと前に事務所を出たのに、何でもう……そんなこと、歩いてんだ……!? お前、本当に人間か!?」

「えぇ。……それで自分にまだ何か? 一応、証拠不十分で釈放となったはずですが」

「あぁ、モーガンからお前が町から出るまで張るように言われて来たんだよ! ……はぁ……」

 乱れた呼吸もようやく整い始め、先ほどまで悪かったニコラスの顔色も戻ってきたが、今度は彼から“監視役として来た”と聞いた死神の表情が曇る。

「自分の監視? そんなものは必要ないし大きなお世話です。どうぞ、事務所へお戻りください。それに面倒な同行者はマリアだけで十分だ、あなたまで必要ない」

「俺だってあいつに給料握られてなきゃお前の監視なんか死んでもしねーよ! バーカ!」

「……」

「あっ! ついでに言っておくけど“監視”って言っても四六時中お前にくっついてるわけじゃねぇぞ! フロとトイレと寝るときは別だからな!? 誤解すんなよっ!?」

「いちいち仰らなくてもわかっています。それから、大勢いる前でそんなことを大声で言わないでください。……まったく、ご覧なさいニコラス……あなたのせいで周囲から変な目で見られているではありませんか」

「へっ?」

 死神の言葉にニコラスは思わず間抜けな声を発した。彼の言う通り周囲を見渡してみると、ニコラスの発言を聞いた町の婦人や男たちがふたりを冷ややかな目で見ながらヒソヒソと話しをしている。――住人らの反応から察するに、ふたりは“そういう関係”だと誤解されてしまっているようだ。


10 / 13

著作者の他の作品

その場のノリと思い付きだけで書いた「荒野の死神」のハロウィンパロ。ただの...

舞台は17世紀ヨーロッパ。トランシルヴァニア公国の貴族「ギュスターヴ」の跡...